苦悩


 汝、天にて生まれ、妙なる詩を歌い給う詩女神よ、私に言を授け給え!


 如何なる打撃にも屈する事のない言葉を!


 愛、このたった一言の全てに比すべき言葉を!


 ある詩人は愛を語るのに六十年を費やした!


 ある詩人は悲劇にありとあらゆる彩りを添えて語り尽くしてしまった!


 私には何を語る事が出来るだろう。この世界に残された言葉が何処にあると言うのだ!


 ある詩人は詩は喪失だと言う、それは少年少女時代、決して戻らぬあの日々の喪失なのだと。


 その喪失が数十年の後にほんの数行の美しい詩となるのだと。


 だがその喪失すらも彼によって歌われている。


 ならば私は何を歌う?


 愛か、美か、悲劇か、人生か、喪失か、それら全ては優れた偉大な詩人たちによって歌われている。


 私は今一度それらを歌うのか?


 ああ、汝、詩女神よ、私に言を授け給え!


 ほんの数行、たった一言、あの愛すらも満たす言葉を!

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