第4話 ドキドキの登校


 家の玄関を一歩出ると、朝日が目を刺すように輝いていた。


 昨日までの家族の暖かさとは対照的に、外の空気は冷たく感じた。


「何があっても、俺は大和の味方だからな」

父親が、大和の背中をポンと叩く。


 母親は目元を赤くしながら、優しく言った。

「辛かったら帰っておいで」


 大和は、しっかりと制服の襟を立て、一歩一歩前に進む足取りを確かめながら、学校への道を歩き始めた。


 途中で向かい風が吹き、彼の髪を乱すが、大和は目を閉じて深呼吸をした。


 心の中で何度も「大丈夫だ」と自分に言い聞かせ、学校の門をくぐった。



 教室の扉を開けると、一瞬の静寂が広がる。


 視線の重さに圧倒される中、大和は席に向かった。


 足元が不安定で、心臓が胸の中で高鳴っているのを感じ、自分の席までの距離が遠く感じた。


 そして、席に着こうとした瞬間、突如として大きな音が鳴り響いた。


 天井から落ちてきた、くす玉が彼の頭上で割れ、「元祖迷惑」と大書された垂れ幕が顔の前に降りてきた。


 一瞬の静寂の後、教室全体が爆発するような音で、クラッカーの火花が舞った。


 そして、クラスメイト全員が声を揃えて「大和、お帰りー!」と声を上げた。


 驚きと喜びとで目が潤む中、大和は、その場に立ち尽くした。


 彼の予想とは180度違う歓迎の様子に、心の中で感謝の気持ちが溢れてきた。



 放課後、大和は鞄を肩にかけながら、賑やかな校舎を後にした。


 廊下を歩く足取りは軽く、久しぶりの登校日が、ここまで楽しいとは思っていなかった。


 階段を下りると、何人かの生徒たちが、大和のもとに集まってきた。


「大和。さっきの昼食の時の動画、もうSNSでバズってるよ!」

一人の生徒が、スマホを見せる。


「マジで!? どれどれ」

大和も興奮気味にスマホの画面を、のぞき込んだ。


「やっぱり大和は、すごいよね!」


「このままユーチューバーとかになれるんじゃない?」

友人たちが、褒めちぎる。


「そうかもしれない」

大和は嬉しそうに笑いながら、と自慢げに答えた。


 そして、グループと一緒に校門を出て行った。



 下校の途中、大和と蓮は道端のベンチに腰掛けた。


 二人は長い間の友情で繋がっていたが、この日の空気は、どこか重かった。


 蓮は少し間をおいてから、冷静に言葉を選びながら、話し始めた。

「お前はSNSに反省文を投稿してるけど、本当に反省してるのか?」


 大和は驚いて、蓮を見つめた。


 彼は自分の行動を正当化する言葉を探したが、見つからなかった。


 蓮は続けた。

「お前のせいで外食が嫌になったり、仕事がなくなったり、給料が下がった人もいるんだぞ?」


 大和の胸が、締めつけられるような気持ちになった。


 SNSでの支持や、友人たちからの称賛に気をよくしていたが、その背後に隠れた実際の影響を考えていなかった。


「ごめん、蓮」

大和の声は、小さかった。


「本当に悪かったと思う」


 蓮は、少し苦笑いをする。

「今更だけどな。でも、これからは、ちゃんとしてくれ」


 大和は、うなずいた。


 親友の存在が、こんなにも心を安定させ、方向を示してくれるものだったとは。


 このときの蓮の言葉は、大和の心に深く刻まれることとなった。



 テレビの画面は、ある由緒ある寺の重厚な門を映していた。


 画面の右下には「室町時代の秘宝公開」というテロップが表示されている。


「このたび、当寺に伝わる室町時代の絵巻物を公開することとなりました。内容が少々、問題あるものでして、これまでは一般には公開しておりませんでしたが……」

住職のお坊さんが、神妙な面持ちで語り始める。


 絵巻物がスクリーンに映し出されると、そこには一人の武士が様々な飲食店で食事をしながら、周囲を困らせる様々な行動を繰り返す様子が描かれていた。


 周りの人々の驚く顔や怒る顔、笑う顔がリアルに描写されている。


 大和の家のリビングで、テレビの前に座っていた父親は、驚きの表情を浮かべながら言った。

「おおっ、これは……じゃあ、じいちゃんが迷惑動画の元祖じゃなかったのか」


 母親は、少し笑った。

「まさか室町時代にも、そんなことをしている人がいたなんてね」


 大和は、ちょっとした安堵と、不思議な寂しさのようなものを感じた。

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