破:(3)広漠の地
隊員の約半数が以上が本国へ帰投し、帝国議会からの命令を遂行するのは困難となった。
そこで我々の採った選択肢は一つ。
それは、新大陸の開拓任務を放棄すること。そして、第一次遠征隊の捜索を完遂させること。
航海士の選抜により、船を動かすことのできる人間を選りすぐった。
計六人。少数精鋭という言葉が当てはまる部隊だ。一人一人説明する時間はないため詳細は省く。
なお、議会からの承認は得ている。
***
未知の航路。というわけではなく、先住民の村へ赴くために通った道をほぼそのままなぞるだけ。
とはいえ、船で進むには困難だ。
「流氷がそこら中にありますね」
「この程度なら問題ないだろう。わざわざあれを破壊する余裕もない」
見渡す限りに薄い氷の塊が浮いている。
尤も船の耐久力次第だが......。
「............燃料が底を尽きたようだ」
ここに来る途中、ボイラーを稼働させるのに必要な石炭が全て消えていた。
出港時に船の積荷は私が直々に確認した。当然、石炭は余るほどあった。
考えられるのは、本国へ送った船に石炭を余分に乗せてしまった。あるいは誰かが石炭を放棄したか。当然後者については考えにくい。なぜなら犯人にメリットがないからだ。
幸い、先住民からは放棄された物資については自由に使用して良いとのことだった。
『甲板上』
私が台に立ち、船員を見下ろすと不安の顔が見て取れた。
これは教習所でも習わなかった事態だ。だが、ここで確率の低い助けを持つわけにもいかないのだ。
「皆々へ伝える。これより効率重視のため二班に分けた並行探索を行う。海兵と私、そして牧師は左舷の岸で第一次遠征隊の捜索をする。料理長と医師は右舷の岸で石炭及び食料の確保だ。航海士は船の航路の確認を行う」
そう、皆怖いんだ。空前絶後の異例。ただし、私と
ある一人を除いて。
「相変わらず外は寒いな」
船内では暖房が効いていたためそれほど寒さは感じなかった。
ラッタルを降り視線を右にやると、例の小さな小屋が見えた。あれは以前、海兵と共に訪れた小屋で間違いないだろう。
いや、中に"なにか"の影が動いている。前までは無かったものがそこにはある。
狼かシロクマか。
我々は緊張感を抑えながらその小屋へと近づく。
「う、うわぁぁぁぁ!!な、なんだこれぇぇ!?」
そこには、上半身裸の内臓が抜き取られた人間が縄で首をつっていた。
旧軍服のズボンは着ているため、帝国の人間だと思われる。
首元には引っかき傷がついていて、何かにもがいたような跡だ。
可能性はゼロではないが、自殺を図るならこんなことをする余裕も必要もないはずだ。
一見自殺に見えそうだか、これは他殺の可能性が高い。上半身裸なのも不思議だ。
「こ、これは......」
死者へ弔いの言葉をかけていた牧師がナニかに気づいた。
「船長。ここの骨、明らかに人間の歯型が付いています」
牧師が指したのは肋骨の第二肋骨の真ん中あたり。
たしかにそこには、肉食動物のものと思われる歯型がついていた。
私は解剖学に詳しくないためそれが本当かわからないが、医療の勉強をしていた牧師にはわかるらしい。
「人間同士で......共食い?」
海兵がポロッとつぶやいた。
私はその時、とある人の言葉を思い出していた。
やってはいけない。あってはならない。とも言い切れないのが事実。
実際、危険な航海をする現在では、仲間の死体を食べなければ飢え死にをする。
「人を食べてはいけない」
「倫理に反する」
それだけでは済まされないことが起きる。
カニバリズム。
栄養面というタブーな面を敢えて考えると、必要な栄養を摂取できるのは同じ仲間か。
ここで何があったのかは正直わからない。私達は様々なことを見すぎた。情報が錯乱している。
そして牧師は速やかに死体を埋葬した。
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