己を殺める勇者さま〜未来の俺VS過去最強の俺〜

ブルーなパイン

第1話 最悪の結末

 ーー勇者とは、悪を退け、善良な人々を守る者である。己を犠牲にしてでも勇気を振り絞り、困難に立ち向かう者である。


「がはっ!」


 館の書斎。壁全面に備え付けられた本棚に囲まれながら、勇者リタは床に伏していた。

 目まい、寒気、倦怠感、額から冷や汗が噴き出る。

 

「どうした?具合でも悪いのか?」


 そう聞くのは勇者リタの父、モンドーだ。


「父上、これは……」


 床に転がるガラス瓶。モンドーから水だと渡されて、リタが口にしたものだ。


「それは水ではない。私が魔術で調合した毒だ」


「……なぜですか」


「邪魔なのだよ、お前のその聖剣が」


 勇者リタの手には聖剣が握られている。勇者しか使うことができない最強のつるぎ。毒が回り手の感覚が麻痺していく中で、聖剣だけは離さないように指先に力を込める。

  

 ーーなぜ。


 その言葉だけが脳内を埋め尽くす。煮えたぎるような怒りも憎しみも湧かずに、理解できないと疑問だけが残る。


 自分は勇者として、王から命じられた魔物退治を完璧に遂行した。なのになぜ、自分は床に倒れているのか。尊敬し慕っている父親に毒を飲まされたのか。


 いくら考えても分からない。ただただ、おのれの行いを振り返ることしかできない。


 西の森の奥深くにある館に魔物が住み着いている。魔物は人々の生活を脅かし、平和を壊す敵。


 故に勇者リタは魔物退治に向かった。


 最初に人のように二足歩行で歩く狼の魔物、ルーガルーを退治した。


 次に岩が集合し形作った魔物、ゴーレムを退治した。


 その次に手のひらサイズの骸骨の魔物、スケルトンを退治した。


 最後に龍と人が混ざったような魔物、ドラゴを退治した。


 どいつもこいつも瞬殺であっけなく終わった。


 勇者リタの旅に死の危機などは一度も訪れなかった。


 それほどまでに、勇者リタが手にする黄金に輝く聖剣は圧倒的な力を誇っていた。


 凶悪な魔物を退治して、人々の平和を守ったのだ。


 めでたし、めでたし。


 ーーと、約束された勝利が、確定された未来が訪れるのだと確信していた。


「リタ、お前は本当によく働いてくれた。今となっては邪魔だが、お前がいたことで事がうまく進んだ。だから最期に全てを教えてやるとしよう」


 ニヤリと笑うモンドーの口から全てが語られた。


 飛び散った返り血が何を意味するのか、己の取った行動が何を招いたのか、全てを悟ったときには何もかもが遅かった。


 魔物を退治した果てに待ち受ける現実に、なすすべなく、ただ死を待つしかなった。

 

 ーーそして、勇者リタは絶望した。

 



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