最終話 約束の場所で、再び。

 静寂の時間が流れる。


 それは、俺にとってはものすごく長か感じられた。


 心臓は跳ねに跳ねて、頬は真っ赤に紅潮しているだろう。


 でもそれはきっと周りから見たら一瞬のことだった。


 今までずっと溜め込んでいたこの思いをやっと伝えられたという喜びと断られてしまったらどうしようという不安で感情がごっちゃになる。


 後ろからは花火の爆ぜる音が微かに聞こえてくる。


 心なしか結姫の頬も紅潮しているように見えた。


 結姫は少し嬉しそうな表情をしてはにかんだ。


 そして顔を逸らした。


 横で打ち上がる花火を眺めながら俺の言葉をじっくりと噛み締めているように見えた。


 俺は結姫から目を逸らさずにじっと見つめる。


 再び結姫がこちらを向いた時にはその瞳には小さな雫が浮かんでいた。


 その雫はだんだんと大きくなり、そして一つの線となった。


 その線に花火の光が映り込み鏡となる。


 結姫は笑顔を浮かべていた。


 その涙は決して悲しさからくるものではなかったのだ。


 それは嬉しさ、あるいは感動からくるものだったのだ。


 その事実に目頭が熱くなりそうになるのを必死に堪えた。


 ダサい姿は見せられない、いつまでも結姫の理想でいなければ。


 そして、長かった時間は唐突に終わりを告げる。


 結姫がゆっくりと口を開いたのだ。


「乃亜くん」


「うん」


「私からも言わせて」


 結姫は頬を赤く染めながらポツリと呟いた。


 どこか気恥ずかしさを覚えつつもそれでも目は離さない。


「私もずっとずっと乃亜くんのことが大好きでした」


 そう結姫は微笑んで言う。


「だから返事は"喜んで"です!」


 その瞬間、空高く大きな花火が打ち上がった。


 それは、今まで打ち上がってたもののどれよりも大きくて鮮やかだった。


「ありがとう結姫、待たせてごめんな」


「いえ、いいんです。どんなに過去が辛くても今この瞬間がたまらなく愛おしいんですから、それだけでいいんです」


 そう言って結姫は微笑んでくれた。


 結局、一番救われていたのは俺だったんだな。


 結姫の笑顔を見ながらそう思った。


 あぁ、俺は今最高に幸せだ。


「ねぇ乃亜くん……」


「どうしたの?」


 お互い花火を見ながら会話をする。


「手…繋いでもいーい?」


「手…?」


「ご、ごめん!嫌だったよね…いくら恋人になったからって急には…」


「ふふっ…」


「ちょっと、なんで笑ってるんですか」


「いや、可愛いなって思って」


「か…かわ……っ!?」


「うん、手なんか俺で良ければいくらでも繋いであげるのに」


「俺で良ければって…乃亜くんがいいのに……」


「っ!?」


 どきりと胸が高まる。


 結姫のひとつひとつの言葉に感情を揺り動かされる。


 好きと言う気持ちはだんだんと大きくなってくるものだ。


 果たして俺の心臓は耐え切れるのだろうか?


「で、でも俺にできることならなんでもするからな?」


「では乃亜くん、もう一つお願いしてもいいですか?」


「もちろん」


「ぎゅっとしてもいいですか?」


「うん、俺で良ければ」


 すると結姫は俺の体に手を回してきた。


 優しく包み込まれた体は少しあったかかった。


 きゅっ、と抱きついてくる結姫の体を俺も優しく包み込んだ。


 こんな幸せで良いのか、そう疑問に思う。


 でも、これは俺が掴み取った結果だ。


 少しくらいこの現状に甘えても良いんじゃないか、そう思う。


 そして少し経ってから俺たちは体を離し、今度は手を握った。


 手を握ると結姫もきゅっと握り返してくれた。


 たったそれだけのことで胸がいっぱいになってまうほど俺は結姫のことが好きだった。


 2人で打ち上がる花火を見つめる。


「綺麗だね」


「はい、とっても」


「また、来れると良いね」


「そうですね。いつかまた、2人で」


 そうして俺たちはあの日の約束の場所で再び約束を交わした。


 空高く打ち上がる花火を見つめながら、俺は幸せを噛み締める。




 ある夏の日の夜、俺と結姫は恋人となったのだった。


















〜〜〜〜

まだ終わりじゃないよ、エピローグもあるよ…!

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