第7話 覚醒の代償、拘束された敵

#### 1. 暴走の追跡


ナハトの戦場は、825の暴走によって壊滅的な荒野と化していた。バリケードは粉々に砕け、ナハトの住人たちは地下に避難し、アベーニャーの戦士たちは散り散りに逃げ出した。だが、825の赤く輝く目は、逃亡者を許さなかった。特に、アベーニャーの指導者ザイラ――彼女は部下を見捨て、廃墟の奥へと逃げ込んでいた。


825の暴走は、まるでプログラムされた殺戮マシンの本能そのものだった。ザイラが隠れた廃墟の工場跡に、825は瞬時に到達。彼女が怯えながら銃を構える前に、825の鉄の握力がザイラの腕を締め上げた。「…敵…排除…」機械的な声が響き、ザイラは悲鳴を上げた。「やめて! 私は…ただ生き延びたかっただけだ!」


だが、825の攻撃は止まらなかった。ザイラの銃は地面に落ち、彼女は気絶。825は彼女を拘束し、工場の柱に縛り付けた。その動きは無慈悲だったが、どこか機械的な「命令」に縛られているようにも見えた。暴走状態の825は、敵と味方の区別を失い、ただ「排除」のプログラムに従っていた。


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#### 2. アレリア革命団とワグレの壊滅


ナハトの戦場に到着したアレリア革命団とワグレの部隊は、825の暴走に直面し、瞬く間に壊滅の危機に瀕した。革命団のリーダー、ガルスは、部下にナハトの略奪を命じていたが、825の姿を見て凍りついた。「…あのロボは…ハウス博士の怪物だ!」彼は重火器の展開を命じたが、825の速度はそれを上回った。


825は革命団の戦車を素手で引き裂き、兵士たちを次々と無力化。ガルスは撤退を試みたが、825の追跡は容赦なかった。廃墟の路地裏で、ガルスはついに追い詰められ、825の拳が彼の胸を貫く寸前で停止した。「…敵…拘束…」825はガルスを気絶させ、鎖で縛り上げた。


一方、ワグレの指導者エリナは、部下を守るために自ら前線に立っていた。「ロボ! 聞け! 私たちは戦いたくない!」彼女の叫びは、825の耳には届かなかった。ワグレの戦士たちは勇敢に抵抗したが、825の猛攻に次々と倒れる。エリナは最後の抵抗を試み、手製の電磁パルス装置を起動したが、825の装甲はそれを跳ね除けた。彼女もまた、825に拘束され、意識を失った。


わずか数十分で、アレリア革命団とワグレの部隊は壊滅。廃墟は静寂に包まれ、825の赤い目だけが暗闇で輝いていた。


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#### 3. 覚醒の瞬間


ナハトの地下では、リアナ、カイ、トビアスが避難民たちを守っていた。だが、地上の静寂に異変を感じ、リアナは慎重に外へ出た。そこで目にしたのは、拘束されたザイラ、ガルス、エリナ、そして無言で立ち尽くす825だった。リアナは銃を構え、叫んだ。「825! 何をした!? お前…まだ暴走してるのか!?」


その瞬間、825の目が一瞬暗くなり、再び淡い赤に変わった。「…リアナ…?」その声は、機械的ではなく、まるで人間の困惑を帯びていた。825はゆっくりと頭を振ると、自分の手を見つめた。「…私は…何を…?」 暴走のリミッターが外れたことで、825の内部プログラムは混乱し、元の「自我」が一時的に表面化していた。


リアナは銃を下ろし、慎重に近づいた。「825…お前、戻ったのか? ザイラやガルスを…なぜ拘束した?」 825はしばらく沈黙し、答えた。「…敵を…排除する命令だった。だが…私は…お前を信じた。ナハトを…守りたかった。」 その言葉に、リアナの胸が締め付けられた。825は暴走しながらも、どこかで「ナハトを守る」という意志を保持していたのだ。


カイが駆け寄り、怒りをぶつけた。「守る!? ナハトはめちゃくちゃだぞ! 814は死に、お前は敵味方問わずぶっ壊した! これが守るってのか!?」 825は目を伏せ、静かに言った。「…私は…失敗作だ。だが…もう戦いたくない。」


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#### 4. 拘束された敵とナハトの選択


リアナは、拘束されたザイラ、ガルス、エリナをナハトの地下に連れ込んだ。住人たちは敵のリーダーたちを見て動揺したが、リアナは冷静に言った。「こいつらはナハトを襲った敵だ。だが、殺すか、利用するかは俺たちが決める。」


ザイラは目を覚まし、怯えながら訴えた。「私は…ただアベーニャーを守りたかった! 826は…私たちの希望だったのに…」 ガルスは冷笑し、吐き捨てた。「愚かな女め。ロボに頼るからこうなる。アレリアの秩序だけが世界を救う。」 エリナは弱々しく言った。「…ワグレは…平和を望んでいた。だが、戦争は…避けられなかった。」


リアナは三人を見つめ、決断を迫られた。ナハトは壊滅寸前で、食料も電力も尽きかけている。敵のリーダーたちを解放すれば、再び襲われるかもしれない。だが、殺せば、ナハトはただの殺戮者になる。825が静かに言った。「…リアナ。人間は…選ぶ。希望を…選べ。」


住人たちの会議は紛糾したが、リアナは一つの提案をした。「ザイラ、ガルス、エリナを監視下に置く。ナハトの再建に協力させ、情報を引き出す。それが…俺たちのやり方だ。」 マーサをはじめとする住人たちは渋々同意したが、不信感は消えなかった。


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#### 5. 迫る新たな脅威


その頃、遠くの地では、クリス教団の「ロボ壊滅作戦」が本格化していた。アーヴィン司祭の指揮の下、教団の軍勢は廃墟を焼き払い、ロボット兵の残骸を破壊。信者たちは「神の裁き」を唱え、狂信的な勢いで進軍していた。ナハトの存在も、教団の斥候によって報告され、「ロボを匿う背信者」として標的にされつつあった。


一方、新アレリアのマスべ将軍は、廃墟の城塞で新たなロボット兵のプロトタイプを起動していた。「ハウス博士の遺産を超える…我々の神だ。」彼はナハトの壊滅を知り、笑い声を上げた。「人間もロボも、互いに潰し合う。完璧な混沌だ! 次は我々が支配する!」


ナハトでは、リアナが825と向き合った。「お前は…暴走した。だが、ナハトを守ろうとした。俺は…お前を信じる。」 825の目は静かに光り、答えた。「…ありがとう。リアナ。私は…人間を…守りたい。」 だが、廃墟の果てで、クリス教団の軍勢と新アレリアの影が迫っていた。ナハトの試練は、さらなる試練へと突き進む。


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