第24話 不安な始まり
男はとても気さくな人で、初対面で人外である俺にも友達のようにどんどんと話しかけてくれて、俺も話しやすかった。
男は軽い自己紹介をしてきた。名前を「シャンル」というらしい。
シャンルが、スリーウォーリーは、地上で誰でもわかるほど有名なドラゴンであり、どうやらドラゴンの上位5本指に入るくらいで、強い冒険者でもなかなか歯が立たない魔物らしい。
スリーウォーリーというドラゴンの詳しい情報を聞く限り、俺の想像しているドラゴンと違いそうだ。
俺の記憶上のスリーウォーリーは、戦ったことがあるがあまり印象には残らなかった。
ある日他のドラゴンと同じように「我は強き者!貴様と決闘を申し込む!」と戦いを挑んできたものの、その後相手が突進してきた時に、強めに蹴りを入れたらあっという間に壁にふっとばされた。
衝撃で傷を負いながらも、少ししてなんとか立ち直した後に、胸を張りながら「ははは!今度は強くなってくるぞ!」と涙声で捨て台詞を吐いて帰って行っただけのやつだったのだ。
シャンルの話を聞いていた俺は、「じゃあ俺は?」と思い、なぜか自分が怖くなって身震いがした。
たぶんこの洞窟の中で一番強いんじゃね?……と一瞬思ったが、そんなわけなどない。実際エデンには負けそうになったじゃあないか。
「俺等はこの洞窟の主の足を手に入れて一攫千金を狙っているんだ。……」
シャンルはエデンのことを探しているきっかけを、ワクワクとしながら話している。
どうやらエデンには1万ゴールド、100万円の賞金がかけられており、それを狙っているのだという。
モンスターのランクは下からF、E、D、C、B、A、S、SS、Lまであるらしく、エデンはLである。ちなみに俺は魔力から言うにAらしい。
今は魔力制御をしている状態なので、魔力を抑えないとたぶんSSだろうか?
その他にも、地上で言われているエデンの特徴などなど、この洞窟のことについて満足するまで語っていた。
「っていう感じだな、あと…………って聞いてるか?」
「ああ、聞いてるよ。」
「ほんとうか?」
「本当だ。」
怪しく思われ、ギクッと反応したのを隠すように平常を保って話した。
愛想のないドラゴンなんて思われたくない。
シャンルの話は思考しながらでも、耳がシャンルの方を向いているのでちゃんと聞き取ることはできる。頭の中で処理しながらそれを材料に色々とこの洞窟のことを知るのだ。
それを発見したのはシャンルらとであう少し前である。
2つのことが同時にできるので、効率も良くてだいぶ楽だ。
ドラゴンの体も最初は不便だと思っていたが、慣れてくるととても便利なものだ。
シャンルは説明をすべて終え満足そうにしていると、こちらに手を合わせて前かがみになり、俺と目線を合わせた。
「お前、俺達が狙ってる大蜘蛛の事知ってるんだろ?もっとその事について教えてくれないか。」
「エデンの事?うん、話したことあるから、色々と教えるよ」
「ほんとうか!あっ……」
シャンルはそういうと座り込み、剣を右に置いて手を上にあげた。
「敵意はない、お前のことを犠牲にもしない。約束するよ、神に誓って」
そして手を十字に切った。まるでキリスト教のおまじないのようだ。
なんとか敵意は完全に解いてくれたようである。話してある程度親近感を持った効果だろう。
このタイミングでもうエデンのことをスラスラと話してしまってもいいのだと思うが、残念ながらエデンはもう死んでいて、きっと今頃枯れ果ててミイラ化しているだろう。
ここは一つ、もっと親しくなるための条件をつけることにしよう。
深くうなづくと、シャンルは目を見開き、笑顔になった。
そこで喜ぼうと立ち上がろうとしたところに、手の平を向けた。止まれの合図だとシャンルはすぐにわかって、慌てて座り込んだ。
「……だが、話すには約束、じゃなくて条件がいる。」
「条件?モンスター達の中でも、そういうのがあるのか?」
「俺は頭がいいからな!」
しゃべれる時点でほかの魔物とは格が違うのだよ。と訴えるように胸を張り鼻息を吹いた。
シャンルは笑ってくれて、俺もなんだか気分がいい。
「条件は、さっきも言ったが飯と、魔力とかを測れる装置を貸してほしい。あるって風の噂で聞いたし、やってみたい。ので何日かパーティーで養ってもらう。この3つだ。」
「お安い御用だが、魔力とかを測れる装置?あんな高いもんじゃなくて、スキル鑑定ですればいいじゃん。」
「へ?」
スキル、鑑定。
俺はその言葉を聞いた瞬間理解できなかったが、シャンルに見せてもらうとやっとそれが何なのか理解した。
奈落に落とされ、地面についたすぐ後にエデンが魔法を使って俺のことを調べていたときのことを思い出す。
「こうだ。知ってるか?」
「うん、知ってるけど忘れてた。特に使わなくても良かったし」
「えっ、コレ使わないで逆にどうやって生きてきたの……?」
シャンルは俺のことを見て想像もつかないような怖そうな顔をしていた。
だが俺が笑顔を向けると、何故かシャンルは大きくため息をついた。
少しだが心の中に傷がついた気がする。
シャンルがマルカートたちの方向を見てみると、楽しそうに話しているのが見えた。俺らのこともチラチラ見ているが、まだこちらには来なさそうだ。
「アイツら、たぶんまたメモ帳とか持ってこっちに来ると思うし、俺のレベルじゃあ生き物は鑑定できないから、アイツらに生き物の鑑定ができるか聞いてみるよ。それか、俺らがもうあっち行くか?」
「あっち行っても良いけど、たぶん……俺はやめた方が良いと思う。予感だけど、あの獣人に迷惑かけそう。」
「カイのことか……」
それを聞いてシャンルは一瞬驚いた。その後考え込んでしまった。
なんとなくだが、獣人は最初から意識だけこちらに向けて、俺の詳細に気づいている感じがする。俺はむやみに近づく意思も、敵対心も出してないし、むしろ心優しいことまでも感じ取ったから、あんなに余裕であったのだろう。
たぶん、彼は魔力を敏感に感じやすい。うかつに近づいてその間に魔力制御が溶けてしまったら、彼の方が俺の魔力でつぶれてしまうだろう。
「ちなみに聞くが、なんでそう思ったんだ?」
「いやぁ……なんとなく、としか」
そう答えると、シャンルは納得行かなさそうに首を傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます