40 ケジメ

「どうなってやがる……!! その背中の翼は!!」


 キズナの背中には、元々サキュバスの翼が生えている。とはいえ、ホログラムのように半透明でコウモリのごとく小さく、当然飛行手段として使うことはできない。飾りも良いところだ。

 だが、キーラーほどの猛者が慌てふためくほど、今キズナの背中には白い翼が広がっている。島を包み込むくらい巨大化したそれは、もはや翼と形容して良いのかも分からない。


「……、」


 そんな中、キズナは黙り込む。笑わず、焦らず、ただ表情を変えずキーラーの顔を見上げる。


「まさか、〝カイザ・マギア〟か!?」


 意識があるのかも曖昧なキズナを、アーテルは不安げに見つめる。

 先ほど大声でキズナへ声掛けしたのも、元をたどれば彼女の背中のホログラムみたいな黒い翼が、白く染まりつつあったからである。それに、魔力の流れもおかしくなっていた。だから戦闘に割り込むのを承知で声をかけた。


「き、キズナちゃん?」


 ただ、見つめている場合ではない。大爆風の所為で、アーテルも魔術を使わないとその場に立つこともできず、更にイブは未だ目を覚まさない。

 このままでは全滅する可能性すらある。アーテルは知恵を巡らすが、そもそもこの限界状態でまともな案が出るわけもなく、


「ど、どうしよう……」


 手をワナワナと震わせる。

 その最中、

 キズナは、キーラーに向けて右手のひらを向けた。緩やかに右手を動かすと、キーラーは溺れるように地面に埋もれていく。


「クソッ!! 貴様、なんの力で──」


 されども、返事はない。

 そして、

 キズナは、翼から羽根を分離させ、キーラーの全身にそれをぶつけた。

 凄惨な虐殺が始まり、終わる。

 キズナは、やがてその場にへたり込む。


「はあ、はあ……」


 長距離マラソンでも走り終えたかのように、キズナは激しい息切れを起こしていた。

 そこに、アーテルが近づく。心配と怪訝の入り混じった表情で。


「き、キズナちゃん。大丈夫?」

「多分大丈夫……。疲れた」

「あの、さっきの能力ってなに?」

「ああ、うん。途中から記憶がないんです」

「え?」


 その場に寝そべり、キズナは空中に広がる流れ星を見る。


「というか、キーラーは?」

「さっき、キズナちゃんが倒したみたいだけど……あれ?」

「まあ良いや……ゲホッ、ゲホッ!!」


 風邪を引いたときみたいな咳を漏らし、腕で咳を隠した頃、キズナは腕におびただしい返り血がついているのを知る。


「なに、これ」

「こっちが訊きたいくらいだよ……」

「でしょうね。さて、真逆の道に行きましょうか」

「え?」

「だって、こっちの道にキーラー並みの化け物がいたら、もう闘いきれませんよ」

「いや、キズナちゃんそもそも動けるの?」

「動けるとか、動けないとかの問題ですかね? てか、イブ先輩は──」


 なにかを見計らっていたかのように、ヘリコプターがこちらへ近づいてきた。今が何時なのかも分からないキズナは、手で顔を覆って首を横に振るのだった。

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