第7話 誰も望んでいなかった結末

 ついてるのか、ついてないのか。


 響一より先に現場に遭遇したのは、今思えば良かったのかもしれねぇな。

 あいつ頭いいけど馬鹿だし、俺もアホではあるんだけど。

 それを友也が、おどおどしながらもフォローしてくれんのが俺達だったのに…トリオが崩れたらこうなると。


 響一と別れてから俺とあかりは、友也が向かってると思われる病院へと急いだ。

車内であかりに、今までの経緯いきさつと想像を踏まえた上での予想を伝えたところ、何で私と綾香にも相談しないの! と滅茶苦茶怒られた。


 言おうと思ってた、に被せられるように、思ってても言わなきゃ伝わんないでしょ? 馬鹿なの? アホなの? と散々なじられる。

 あかりともつき合い長いからな。

 心配してくれてるのが分かるぶん、素直に申し訳ないと思ってしまう。


「じゃあ今から行く病院に菫の浮気相手が入院してて、そいつをぶっ〇しに友也君が向かってる…ってこと?」

「説明あんがと。そういうことだから、あかりは途中で降りて菫さんとこ、行って欲しいんだわ」


「嫌よ。頭数あたまかずいた方が助かるでしょ、あんたも?」

「そうだけどな。なんかあったら…」


「グタグタ言わない! 二人で行って、友也君を見つけて確保。いいわね?」


 内心でため息をつく。こうなったら聞かねえよなぁ。

 姉御肌なところに、いつも助けられてはいるが…。


「わかった。ただし、ヤバいと思ったら自分を最優先しろよ」

「分かってるわよ。あんたを盾にして、私だけは無傷で乗り切るわ」

 

「ハハハ、ほんとブレねぇな…それでいい。着いたらすぐ警備に伝えてくれ。俺は先に病室向かうわ」

「剛、気をつけなさいよ」


 あかりが俺の手を握る。その手を、しっかりと握り返した…。



 *



 病院前にあるコインパーキングに車を滑り込ませ、打ち合わせ通り別れる。

あの悪夢のようなウイルスの世界から一変、あれだけ厳重だった病院も、今では隙をつけば病室まで行けてしまえるのは、いいことなのか…。


 連絡ないから、こっちがハズレとも思ったんだが。

 エレベーターに乗って、手紙にのってた部屋番のある5階へ。


 フロアに看護師さんもいるが、堂々として挨拶すると疑われることも少ない。

ほんとは面会カードを付けてないと入院病棟は入れないけど、意外と確認されてないんよな。

 友也も見つからずに来れちまったと思いつつ、507号室…角を曲がり通路を真っ直ぐ、…いたわっ! こっちがビンゴ! どうする…声かけたら早まらせないか? やっぱ非常手段使って、驚いてるとこを羽交い絞め…これか。


 病院関係者の皆様、ごめんなさい。


 真っ赤な頼れるボタンを押すと…、ジリリリリーンと、けたたましい音を鳴らして非常ベルが作動した。


 すぐに全力ダッシュ…友也が入った病室にぐんぐん迫り、飛び込んだ。


 非常ベルに戸惑っている友也がいた! 切れそうなペティナイフ持ってんじゃねぇよ、あのバカ。四人部屋で居るのが一人、標的丸見えとか護衛ゲームなら、糞ゲーすぎんだろ! 


 でも、間に合う! 後ろから友也を羽交い絞めにして―――


「やめろ友也! この馬鹿! なに考えてんだ! 他にやる事あんだろうがっ!」


「離せっ!誰だっ… 剛っ!? 離して!こいつは…! 許せないっ! 許せないん だっ!」


「アホなこと言ってんじゃねえっ!」


「離せーっ!」


 くっそ、馬鹿力出しおってからに…警備こねぇか。

ムカつくが不破木ってやつを逃がさねぇと。…あいつか…笑っ…た? っち手ぇ放しちまった、友也の目が血走ってやがる…最悪。


 真後ろが糞野郎不破木とか、守ってるみたいじゃねぇか畜生…。

 ゆっくり考えさせてもくれねぇ、友也が不破木に飛び掛かる。

 …確か刃物持った相手って、武術の達人とかでも避けるって、言ってたっけ―――

 



 刺された時ってザクってなって、痛ってーとか、恐えぇよなぁなんて…むかし呑気に話してた俺らバカすぎ。スーッと音もなく吸い込まれるように、脇腹に入っていったのが、分かった。

 

 そのナイフ…切れ味良過ぎだろ。

 一気に熱い鉄の棒を押し当てられたような…いってーーーーっ! !!


 痛い痛い痛い、痛いなんてもんじゃないっ! くそったれっ!

 友也の手の震えがナイフを通して、俺に伝わって…いてぇよ! 動くなこの馬鹿!

 …友也の両腕を掴んで、叫ぶ!


「ともやーーっ! 目を覚ましやがれっ!」


 友也が俺を見る。痛いけど上体を少し逸らし、あ、アホだ、これもっと刺さんじゃね? 時すでに遅し、友也に頭突きかましてやった。


 友也はフラフラして数歩下がりその場に崩れ落ち、俺もナイフが刺さったまま膝をついた。非常ベルは鳴ったまま…うるせぇな…あかりが病室に駆け込んでくるのが見えて―――


 *


「剛っ! しっかりして! 剛っ!」


「離れて下さいっ! 身体に触れないで! 刃物にも触らない!」


「血が…こんなにいっぱい出て…つよし…いやよ…いや…ぁ…」


 

 剛から離され声を震わせる私は、一人ベットにいる男のことなんか気にも止めなかった…。でも微かに笑ってた、そんな気がした。



 *



 日に二度も、しかも友人二人が病院の厄介になるって…なんだそりゃ。


 あかりからの連絡を受けた後すぐにタクシーを拾い、俺は剛とあかりが向かった病院へ急いでもらった。

 だけどその空回りする気持ちとは裏腹に、病院に入ることはできなかった。

普段では見る事ができない、大量の消防車とパトカーで埋め尽くされ、関係者以外立ち入り禁止となっていたから。

 

 あかりに連絡がつかず、剛のスマフォも繋がらない。


 焦れて病院に押し入ろうかと馬鹿なことすら考え始めたころ、あかりから連絡が入った。 


 友也が不破木を襲おうとしたこと。

 それを剛が止めようとして、刺されてしまったこと。

 病院内でのことが幸いだったのか…。剛は緊急手術中で予断を許さないこと。

 

 友也は拘束されて、警察に連れていかれた。

あかりも警官に事情聴取を受けて、少しだけ時間をもらって連絡してるけど、まだ事情聴取の続きで連絡できなくなると。


「わかった。菫さんと綾香には俺が伝えとく…あかりは大丈夫なんだな? そうか…大丈夫だ、剛がタフなの知ってんだろ? …あぁ」 


 ツー、ツー、通話の切れた音が聞こえても、俺は動くことができなかった。

 完全にキャパオーバーだ。


 こんなもん、どう説明すりゃいいんだよ。

そもそも病床の菫さんになんて言う…友也はあんたの浮気相手襲いに行って、親友刺して捕まりましたよ?


 友也の役目だろこういうのは…。俺と剛がバカやんのを止めんのが、お前だろうが。


 無意識にポケットをまさぐり、煙草を探してしまう。

禁煙してからもう何年も経つのに、習慣ってのはなかなか消えないもんだ。


 ポツリ、ポツリと雨まで降ってきやがる…。

ここにいてもしょうがない、剛のことは気になるが友也のこともある。

どうにもならない焦燥感を抱え、綾香がいる病院へ…。


 歩くごとに力が抜けていく。

 泥沼に嵌っていくかのように、もっと深く…抜け出せなくなるかのように。







悲劇をの当たりにしても

心の底では

自分は部外者だと

他人事ひとごとだと思っている。


そう思っているのは自分だけで

気づかぬうちに―――

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