第4章 最強の座を無くすために

第21話 一撃必殺の魔法剣

◇◆◇◆


「──さあ、デビルメイビレッジ(魔物の村)に下り立ったのはいいが、ここまで魔物連中が好き勝手にやってるとはな」

「フジヤマ魔王様、こちらの武器を」


 ──どんな相手でも上司であれば礼儀正しく。 

 それがプリーストとして、ルナとしてのモットーでもある。

 しゃがみ込んで頭を下げたルナがフジヤマに禍々しい赤い剣を差し出した。


「何だ、こんな弱小な村にそんな立派な武器がいるのか?」

「ええ、この村に例の勇者御一行が潜り込んでいるとの報告がありまして」


 本人が得意とする情報収集にけたルナの会話だ。

 タダの情報より美味しいものはないし、聞いて損はない。


「アイツら、ステラの土魔法であんな目に遭わせたのに、まだ冒険者やってるのか。しぶといね」

「どんな相手であろうと立ち向かうのが勇者ですからね」


 魔法使いのステラが年季の入った樫の杖を白い布で磨き終え、綺麗になった杖を上下に軽く振った。

 杖は無くても魔法は放てるのだが、素手では命中率が欠けるし、詠唱の集中力も途切れてしまう。

 魔法が命と呼べる魔法使いにとって、ボロい杖でも必需品なのだ。


「勇者ねえ、この俺にこそピッタリな職業かと思うのだが……」

「フジヤマ魔王様は魔素のオーラで全身に身をまとっていますものね。ですから光り輝く勇者になってもいかがなものかと」


 勇者は光の戦士でもあり、邪悪な者ではなれない職業。

 光のオーラをもちいて戦うことを目指していたフジヤマの辿り着いた先。

 それが歴代魔王から受け継がれた魔王としての暗黒の力であった。


「そうだな。魔王になってからは邪悪な強いオーラをひしひしと感じるし、それに比べて勇者なんて軟弱な職業だ」

「でもフジヤマ魔王様、自称勇者ガイアは一味違いますよ。何せ世界を書き換えるプログラミングの腕前も持っていますから」


 ルナの話ではどう猛だったデビルワイバーンを戦うこともなく、退けたようで、改めてガイアのチートスキルの凄さを知る。

 どこでそのような便利なスキルを習得したのかは謎だが、何らかのイベントでプログラミングの勉強でもしたのだろう。


 それこそリアルでワードやエクセルとやらを……。


「そうだったな。ならば油断はできないな」

「ですからこの剣を見納めください」

「ああ、二人が言うなら、使うにことはないな」


 フジヤマがルナからありがたく剣を頂戴し、颯爽と鞘から大剣を抜く。


『ギラーン!』


 洞窟から漏れる光に反射した剣が眩しく、フジヤマは思わず目を細めたが、すぐに光を失い、赤い血のような色合いのダークな剣へと変化する。


「デスストリームクレッシェンドソード。相手の攻撃の流れを無効化し、この柄についた赤い血の宝玉でエネルギーを吸収して、剣を通じて装備人の魔力を増やせる材質。ご存知の通り、扱いによっては伝説の剣以上に危惧するような武器かと思われます」

「要するに使いどころを間違えなかったら、現時点でこの武器を装備した俺が最強ということになるんだな」


 フジヤマが剣を鞘に収め、最強という称号に酔っていた。

 リアルではその階級にまで登りつめることはできなかったが、この世界でなら俺が一番だと……。


 誰しも一番と呼ばれて嫌な相手はいない。 

 最高の褒め言葉でもあるから。


「勇者だろうが、プログラミングだろうが、この俺に敵うと思っているのか」

「ごもっともです」

「さっさと片付けて魔犬ケルベロスの餌にしてやる」


 お腹を空かせた愛犬が人を食べるイメージではなく、玩具として遊び回るシーン。

 ケルベロスの嬉しそうな顔を見るだけで、元気が湧いてきたようだ。


****


「──ということで今度こそお前たちをなぶり殺しにしようかと思ったんだが……」

「肝心の勇者ガイアはこの場にはいなく、鍛冶屋から出てこれずか……」


 ──魔物の村で再会したルナにステラというフジヤマのメンバー。

 フジヤマが黒い甲冑を震わせながら、群がってくる野次馬の魔物たちを手で追い払う。


「一体、こんなオンボロ鍛冶屋でどんなボンクラ武器を作っているのやら。アハハハハッ!」

「いいや、ガイアはこう見えて色々と忙しいんだ。年がら年中魔王ごっこをしてるミーハーな男とは違う」

「ごっこではない。俺は本物の魔王だ」


 ノーツのからかいを素で流し、剣の柄に手をかけるフジヤマ。

 最初から剣でぶつかり、一気に片をつける攻撃のやり口。

 なぶり殺すという台詞は恐怖感を植え付ける建前であり、相手は全力で来る気満々である。


「ウェン様は後ろに下がっていて下さい。ここはワタクシが」

「ノーツ、私はパラディン。多少の物理攻撃はできますし、傷ついた時は回復魔法も使えますわ」

「だからこそ後衛にいてほしいのです。貴重な回復役がウェン様しかいない今、魔力も体力も温存してください」


 そしてワタクシに何かあっても、ウェンに回復魔法をかけてもらえば、いくらでも戦える。

 ガイアの武器ができるまで、彼のために何とか防ぎ切るという受け身の形。

 一方でウェンは人を救うという、パラディンとしての責任を感じていた。


「いくよ、魔王フジヤマ」

「これがワタクシが精一杯の力で振り絞った秘技……」

「何だ、二人同時に攻撃じゃないのか。誠に残念だな」


 せめて二人で向かってくれば、この俺に手傷くらいは負わせられただろうに。

 フジヤマは剣を鞘に収めて、腰を少し前傾姿勢で沈め、白刃取りの姿勢をとった。


「そうやって余裕をかますのも今のうちだよ」


 ノーツが剣を天井に上げて、空いた片手で何かしらの魔法を唱える。


『エクセレントフレアボール!』

『ゴオオオオオー!』


 大きな炎の渦がボールの形となり、くすぶった匂いが鼻をつく。

 それを見たルナとステラ以外の魔物たちは怯えて、障壁のある我が家に避難していった。


『ドドーン!』

『ゴオオオオオー!』


 その火球を掲げていた剣に吸収させ、炎のエネルギーで燃え盛る魔法剣となる。


「いくよっ、魔王!」

「なっ、速い!?」


 ノーツが光のように素早くフジヤマの懐に入り込み、魔法剣で白刃取りを無効にした斜めの斬撃でフジヤマを切り裂く。

 魔法戦士ノーツの最も得意とする最大瞬速の剣技。

 ルナとステラもスピードに目が追いつけないようだ。


『必殺剣、インフェルノボンバー!』

『ドガアアアアアーン!』

「うおおおおおおー!?」


 激しい爆音を立てて、フジヤマが大きく後ろにある洞穴の壁へと吹っ飛んだ。


「やったか?」

「ふうっ……、見ていてハラハラさせますわ。相変わらずノーツは派手な喧嘩がお好きですわね」

「まあ、何にせよ、まともに当たっただけでもいいじゃん」


 カッコつけて刀身を手で受け止めるより、持ち前の剣で相殺すればいいものを。

 あんな強力な攻撃をまともに食らって無事では済まないだろう。


 ノーツにウェン、二人の冒険者は勝ちを確信していた。



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