第3話 稀代のエンチャンター3

 それからどうにか我に返った私は、約束通り魔法使いさんのローブを用意してあげていた。

 羊毛のローブ、50ゴールドだけど護衛依頼のお礼もかねて割引して30ゴールドなり。

 一個10ゴールド、三食分の食事代と同等の金額で買った物だからこれでも黒字です。


「あぁ、いいですねこういうの。護衛のお礼に割引してくれる商人は良い人だと師匠が言ってました」


「そうですか?」


 カリンの言葉に、もう疑問を抱くのはやめた。

 この人の師匠とか、価値観とか、いろいろ聞きたいけれどスルーする。


「せっかくです、旅を共にした仲間として私からも何か……ふむ」


 そう言って懐から取り出したキラキラと輝く石、あれソウルストーンだ。

 しかも高品質。

 小さいけれど十分な効果が期待できるエンチャントができるだろうなぁ……。


「羊毛だと地域を選ぶので体温維持と、回復促進……それから対毒もつけておきましょう」


 そう言って私がサイズ直しをしていたローブにソウルストーンを置いて魔法を発動させたカリン。

 あれれー? たしかエンチャントって専用の設備が必要だったはずなんだけどなぁ?

 おかしいぞー、私が知っている上級装備って今の私が全財産使って買える範囲でもエンチャント二種が一般的なのに三つも付与してるぞー?

 ……私の中の常識が崩れていく。


「あの、エンチャントの設備は……」


「え? 無くてもできますよ? 虫眼鏡無くても本は読めるでしょう? 」


「あっはい」


「さぁ、ほかのお二方も何かプレゼントいたしましょうか……剣とナイフがあれば彼らに売っていただけますか? 」


「あっはい」


 もういいやと思って荷台から剣とナイフを持ってきたけど……。


「それぞれ氷と炎と雷の攻撃魔法付与しておきますね」


 あかん……これあかん……。

 ローブにナイフに剣、割引込みとはいえ彼らの護衛依頼で買える額の物体。

 つまり合わせても100ゴールド以内に収まる値段の品々があっという間に10000ゴールドくらいの物体になった。

 というか雷のエンチャントって難易度がくっそ高い奴……。

 それに炎と氷、相反する属性のエンチャントを同時にとかもう……常識にケンカ売りすぎじゃない? この人。


「さて、それじゃあ今夜の見張りの順番を決めましょうか」


「ソウデスネ」


 見張りには私も参加するとして、なんか装備で超強化された三人組と一人でも化物だと分かったカリンの配置はどうしようか……。

 うん、最初は三人組にお願いしよう。

 私とカリンで遅番しよう。

 いつまでも惚けていられない。

 これは、チャンスだ。


 ビジネスの匂いだ!

 銭の香りだ!

 ならば、商人である私がやることは一つ!

商 談 の お 時 間 だ。

 遅番にしたのはまぁ、説得するための文言を考える時間が欲しかったというのが本音だけどね。


 でも気疲れしていたのかさっさと眠りに落ちた私、実に無防備。

 我ながら間抜けだと思うよ。

 というわけでしばらくたって見張り交代の時間。


「あーカリンさん」


「どうしました?」


「これは商談なのですが……私の商品にいくつかエンチャントを施してもらう事ってできませんか? 当然お金は支払います。ソウルストーンの代金も含めて手間賃込みで」


「ふむ……いいですけどどんなのがお好みで? 」


「対毒の指輪と炎の魔剣ですかね」


 貴族に人気の二品、対毒はその有用性から貴族の間では人気が高い。

 だって毒殺の危険がないんだもん。

 それと炎の魔剣は見た目が派手で、雷の魔剣よりも安全性が高いから買い手が付きやすい。

 と、考えたところでふと思いついたことが二つ。


「それと、指輪にぱちっとする程度の雷の攻撃魔法エンチャントできますか? 魔剣も炎中心ですが、他属性を付与したものも用意していただけると助かります」


 前者はかまどに投げ込んだ指輪から得た着想。

 自傷ダメージと言っていたが魔法の方向性を変えると他者を攻撃する魔法を込めた指輪が作れるのは有名な話。

 一部の貴族が護身用に持っていることもある。


「どれも可能ですが……指輪は殺傷力は期待できないものでいいんですか?」


「いいんです! むしろそれがいい!」


「よければ理由を聞いても?」


「そうですね……内緒にしていただけるというのであれば」


 商人は情報の漏洩には厳しいのだ。

 いやそのうち勝手に広がるけどね、それでもまずは利益の独占のためにした準備をしたいから。


「わかりました、秘密にしておきます」


「では、指輪を婚約の際に送る風習はご存知ですか?」


「確か西方で流行っていましたね」


「そこに雷の魔法を込める事で『あなたに痺れています』という意味を込めるのです。そして同時に『私の気が移ろいだらもう一度痺れさせてください』という意味を込めます」


「ほほう」


「と、いう売り文句で貴族に高く買わせるのです!」


 炎でもいいかなと思ったけれど、それだと本当にぶっ放す婦人とかいたら洒落にならないから弱い雷を注文。

 トパーズとかが色合い的には合ってるかな……。

 たしか手持ちにいくつかあったはず。


「なるほどなるほど、さすがは商人です。面白い事を考える。ちなみに魔剣に関しては? 炎以外を欲しがる理由は」


「ドワーフの作った高品質の剣が10本程ありまして、これに数字を刻印するんです。手持ちの道具でそれはすぐにできますので適当な名前を付けて『どこそこで有名ななんちゃらシリーズの魔剣の一振り!』という売り文句が使えれば欲しがる剣士は大勢いるでしょう」


「ふむ、しかし作り手が違うとばれてしまえばそれは問題では?」


「だれがエンチャントしたかが重要なんです。作り手は関係なくね」


「つまり、強力な魔剣をご所望と?」


「……あまり強すぎない、でもそこそこ強いくらいでお願いします」


 カリンという人物に本気のエンチャントを頼むとどれほどのものになるのか、個人的に気になるけれど伝説級の魔剣作りそうだからそこそこにしてもらう事にした。

 うん、だってねぇ……。


「そういう事でしたら、その話お引き受けしましょう」


「おぉ、ありがとうございます!」


「護衛依頼の最中はあれですので街に着いてからでも?」


「そうですね、個人的には道中でやっていただいても構わないのですが他の方の目もありますから」


「えぇ、わかりました。それでは護衛依頼終了の後詳しくお話をと言う事で」


「ありがとうございます」


 二度目のお礼。

 今度は握手をしながらだった。


 そうしたはちゃめちゃな数日間はあっという間に過ぎ去った。

 滞りなく、どころか予定よりもだいぶ早く目的の街にたどり着いたのだ。

 ……馬具に疲労回復のエンチャントとかサービス良すぎですカリン様。


 なお、こうして手に入れた物品だったがシリーズ魔剣は私が想定していた以上の伝説級の品々に仕上がり売り物にならないと太鼓判を押す事になった。

 どれも国宝級です、本当にありがとうございます。

 こんなもん売ったら大問題だよ畜生。

 でも指輪で黒字になったから、おそるべしだなぁ……。

 でも一番の収穫はカリンという化物エンチャンターと、将来有望な伝説級装備の初心者たちにコネクションができた事。

 そのおまけで、カリンが護身用にとくれた伝説超えて神話級の魔法が込められたナイフだった。

 ……流石に善意のもらい物は売らないけどさ、過剰戦力だよね。

 一介の商人がドラゴンどころか魔王も斬り捨てられるナイフ持ってるとか。

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