第26話 2025年1月11日 そして再び・・・

 2025年1月11日が再びやってきた。

 そう・・・「世界1」から僕たちが「世界2」へと連れ去られた日だ。


大光輪による犯罪と別な意味で日本をうちのめした東日本大震災から20年の月日が過ぎ去っていた。日本は「世界1」でと同じように経済的な衰退を避けることは出来なかったが、政治的にはずっと安定していた。妙な政治集団が現われることは無かったし、与野党は鍔迫つばぜり合いをしつつも、日本の発展に必要な協力は惜しまないようだった。僕らはその20年を東京で過ごし、子供たち二人は親元から離れ自分たちの道を歩み始めた。

 東京に戻ってからも、最初のうちは永遠子と僕はあのレストランを見つけようと目黒の駅近くに住み、時折子供を両親に預けてあたりを探索した。それは結婚する前からの習慣の一つのような物で、彼女が大学に進学してからというもの、会う度にそのあたりを歩き回った、その名残なごりのような物だった。しかし、時が経ち、僕らは結果的に自分たちが「世界1」でより幸せになったことに気づくとあのレストランを探す意欲を次第に失っていった。そして僕たちは多摩川近くに転居し、店を探すことをやめた。


 2025年1月11日という日は確かに経験したことのない未来への一歩ではあったが、僕らはその日を特別視することはあえてせず、ただ、いつもの通り誕生日を外で祝うことに決めた。その店だって、古くからある良く知っているレストランにする予定だった。

 だから、その日、あのレストラン"Temps perdu"、即ち、僕たちの物語の最初の場所を見つけた時、僕はひどく動揺した。それは一種の感動であると同時に畏れであった。その建物が何の意味も無く、僕の目の前に現われたとはどうしても思えない。

 その気持ちは分かって戴けるだろう。

 僕はその建物を目の前にして、それまで生きてきた年数を数え、そしてそのレストランと初めて出会ってからの年数を数えた。112年と47年。それは僕に取ってtemps perdu(失われた時)であったのだろうか、それともtemps gagne(得た時)だったのだろうか?


 たまたまその日、永遠子は実家に戻っていて、僕は目黒で彼女と待ち合わせをしていた。時刻は5時、彼女と落ち合って駅の近くにある、近くに住んでいた頃から良く訪れたイタリアレストランで軽く彼女の誕生日を祝う約束だった。

 待ち合わせをしていたカフェから外を眺めていると、スマートフォンがテーブルの上で震えた。

「ごめんなさい。人身事故があったらしくて今、まだ池袋の手前で止まったままなの。いつ動くかわからないみたいだし・・・。もし待ちくたびれるようだったら、外での食事は別の日にして、今日は先に帰ってもらってもいいけど、どうする?」

 そのメッセージに、

「待っているよ。せっかくの君の誕生日だし。でもずっと居続けたらカフェにも迷惑だろうから、少しあたりを散歩してみる」

 と、返すと、

「そうね。そうしてくださる?動き始めたらまた連絡するわ」

 すぐに返事が来た。

 勘定を済ませると僕は外に出た。1月の5時はもう外は薄暗い。晴れていたが、風が冷たく僕はコートの襟を立てた。


 駅から坂を下りる方向に歩き出し、暫くした僕は、突如、昔のこと、いや・・・確かに僕に取っては昔であった「あの47年前の今」とシンクロするような景色をそこに見て呆然と立ち止まった。

 僕と永遠子が過去へと連れ去られた建物・・・。Temps Perduと書かれた木の看板。

 その建物は、最初に見た時とまるで同じたたずまいであった。看板だけで無く建物を這う蔦も褐色の煉瓦も何もかもが全てが同じだった。もしかしたら、蔦の葉1枚1枚も同じままで、同じ風に靡いているのではないだろうか、そんな風にさえ思えた。

 ふと、気づくとコートのポケットの中でスマートフォンが鳴り続けていた。慌てて取り出して通話ボタンをクリックすると、

「どうしたの?さっきもならしたんだけど・・・気づかなかった?」

「ああ、ごめん」

 スマートフォンには2分前に電話があったという表示が確かに残っていた。

「電車が動き始めたのよ。30分もすれば着くわ」

 永遠子は電車が動き出したことでほっとしたような口調で話し続けた。

「そうか・・・」

「どうしたの?声が変よ。待たせたこと、怒っているの?」

 永遠子の電話の向こうから駅のアナウンスが聞こえてくる。

「いや、そうじゃない。君、覚えているかい?」

「何を?」

 永遠子は無邪気な声で尋ねた。

「僕らが、過去に引き戻された場所。あのレストランがあるんだ。Temps Perduが」

「え?冗談でしょ?」

 急に声を張り上げた永遠子の声にも驚きと疑いの響きがあった。さっきも触れたとおり散々探したレストランがあった筈の場所は、彼女と一緒にいつ訪れても空き地で、そしていつまでたっても空き地のままだったのだ。地元の不動産屋に訊ねても「売り地」でないことだけしか分らなかった。

 近所にある一つの不動産屋で

「ああ、あそこはなんだったっけな、そうそう、エニグマとかいう会社の持ち物でしてね。駅が近いし場所も良いから、コンタクトしたこともあるんですけど、売り物じゃないっていうんで」

 という情報を得ただけだったのだ。その会社のことも調べてみたのだけど、どうやら個人企業らしく、実態ははっきりしなかった。


 まさか、という気持ちは僕だって持っている。だが、そのレストランはまるで100年以上も前から存在していたかのように古びていて、疑いもなくあの時僕らが入ったレストランと寸分も違わない建造物であった。そのことを告げると、電話の向こうから永遠子は、

「分った。ちょっと待っていて。私もすぐに着けると思う。あと、30・・・ううん、20分もすれば」

「うん。ここで待っている」

 そう言って僕は電話を切った。もし目を離したら、再び僕たちの目の前から消え、そうして永遠に戻ってこない、そんな気がしたのだ。

 レストランの中に入っても構わない筈だが、なんとなく一人で入店するのは気が引けた。そのドアは「永遠子」と共に潜るべき「扉」であるような気がしたのだ。

 すぐに日は落ち、あたりはあっという間に暗くなった。日が落ちる前から点灯していた街灯の灯りを頼りに僕は永遠子を待っていた。

 

 永遠子が到着したのはそれからきっかり20分後だった。街灯の灯りがぼんやりと彼女の表情を映し出していた。その彼女の顔には、近づいてくるうちに僕の言ったレストランの存在を確認したのか、驚きの色が広がっていった。そして、静かに僕の横に立つと永遠子は僕の手を握った。

「本当だったんだ」

 永遠子はささやいた。

「嘘を言っても仕方ない」

 僕の答えに永遠子は頷いたが、その視線はレストランに釘付けになったままだった。

「どういうことなの?」

 永遠子は誰へと言うことも無く呟いた。

「絶対に今まではなかったよね」

「うん」

 僕も小声で答えた。大きな声を出して何かを驚かせたら魔法が解けてしまうのでは無いか、そんな風に思えた。

 この事態が「信じられない奇跡」なのか、「何かの予兆」なのか・・・。僕と永遠子はどちらからともなく顔を見合わせた。

「どうするの?」

 僕は彼女がやってくるまでに考えていた思いを口にした。

「選択肢があるのかなぁ。これを知れなかったことにして、帰るという選択肢はぼくたちにあるのか・・・」

「それは、あると思うよ」

 永遠子は答えた。

「もう、冒険をする年じゃないんじゃない?私たち」

「そうかもしれないが、そうすれば、死ぬまでこの時のことを考えるようになると思うよ。そして何故あの時レストランに入らなかったんだろうかって」

 僕の言葉をしばらくの間、永遠子は噛みしめるように考えていた。

「そうだね」

 そう言うと、永遠子は掴んでいた僕の左手を握り直した。

「でも・・・好奇心は猫を殺すっていう言葉もある」

「猫・・・か」

「私は選択肢がないとは思わない。このまま二人で仲良く暮らして、どっちかが死ぬまで一緒に居たいと思う気持ちはあるわ」

「そう・・・だね」

「でも、あなたがどうしても知りたいなら、ここで私の誕生日を祝ってくれても構わない」

「・・・」

 僕も内心、激しく迷っていた。このレストランが再び僕らの目の前に現われたという事は、あの事件が解決してからと言う物、平穏だった僕らの人生に・・・、僕が望んでいた永遠子との暮らしに終止符を打ちかねない。そして永遠子の言うとおり、

「好奇心は猫を殺す」

 ということが起きるのかも知れない。それでも僕はそのレストランから漏れてくる灯りから目を外すことは出来なかった。例えそういう事が起きたとしても、それを含めて僕と永遠子の二度の人生が完結すべきだという気がした。

「いいわ、行きましょう」

 永遠子が僕の腕を引っ張った。

「ちょっと・・・」

 一瞬、躊躇った僕に、

「いつまでもこんなところにいたら風邪を引くわよ。あなた、もう30分以上、ここに立っていたんでしょ?手が冷たい」

「あ・・・ああ」

 永遠子に引っ張られるようにして、僕はそのレストランのドアの前に立った。

「しっかりしてね」

 とだけ言うと永遠子はドアに手を掛けた。


 ドアの向こう側の景色・・・それが47年前に見たものと同一の物とまでは断じえなかったけれど、雰囲気はそっくりだった。繊細な距離感で等間隔にナタンだアンティーク調のテーブル、きちんと洗われた様子の重厚なテーブルクロス、その上に置かれているカトラリーを納めた籐の小箱。クリーム色の漆喰の壁、古びた装飾のある窓枠、木枠に施したコートを掛けるフック・・・。壁に掛かった、白墨で記されたメニューのプレート。

 そして・・・何よりもブイヨンの豊潤な香り。

 だが、あのサルバドール・ダリに似た従業員はいなかった。それよりもずっと若い30代後半にみえる男性給仕、そして細身の20代前半らしい小柄な女の子が店を切り盛りしていた。

「いらっしゃいませ、ご予約の方でしょうか?」

 出迎えた女の子に、

「いえ、予約はしていないんですが・・・空いていますか?」

 と尋ねると、

「大丈夫ですよ。お二人様ですね」

 女の子ははきはきと答えた。

「ええ、すいません」

「どうぞ、こちらへ」

 案内された席は、うろ覚えだったけど、前に来たときと同じ場所の席のように思えた。

「ここ・・・」

 そう言って目で尋ねると、永遠子は頷いた。

「たぶん、同じ席だと思うわ。ほら、あの時計、見覚えがあるもの」

 彼女が指した壁時計には確かに見た記憶があった。あの・・・時を超えるときに見た風景。ぐにゃりと歪んだ時計だ。胃の中で何かがせり上がるような思いがした。

「大丈夫、顔色が蒼いわよ」

 永遠子が尋ねた。

「ああ、大丈夫」

 僕は微笑もうと努力した。

「無理しない方がいいわよ。出ましょうか?」

 そういいながらハンドバッグを持ち上げた永遠子を

「いや・・・」

 と、片手で制しその片手を挙げて僕は給仕を呼んだ。

「いらっしゃいませ。おきまりですか」

「まず、飲み物を。今日は妻の誕生日なんだ」

「そうですか、それでは、華やかなロゼのワインなどはいかがでしょう。お誕生日と言うことでございましたら、お店からヴァン ムースを一杯ずつサービスさせて戴いております。そのあとに・・・そうですね、ラングドックのものが爽やかで宜しいかと」

「じゃあ、それでいいかな」

 永遠子は頷いた。その表情には懸念が色濃く残っている。

「僕は、定食プラ ドゥ ジュールでいいけど、君は何にする?」

 大丈夫だ、という風に頷くと永遠子は表情を和らげた。

「私もそれで」

「メインはいかがしましょうか?鶏肉のポワレと牛肉の煮込みのどちらになさいます?」

「そうだね、僕は牛肉にしようかな」

「私はポワレにするわ」

 永遠子がそう言って微笑むと、給仕は顔を赤らめた。

「承知致しました」

 そのまま引き上げようとした給仕に

「ちょっとおたずねしたいのですけど」

 そう言うと、

「はい、なんでしょうか」

 彼は屈託のない笑顔を向けた。

「このお店は・・・いつから?」

「お店ですか。今のオーナーになってからは5年ほどだと聞いてます。私は働き始めてまだ3年なのでそれ以前のことは知らないのですけど」

「実は一度、この店に来たことがあるんだけど。だいぶ以前のことなんだが」

「さようでございますか、ありがとうございます」

 受け答えを聞いている限り、彼に不審なところはどこもない。毎日、この店に来て働いているちゃんとした店員、そうとしか思えなかった。

「他にも働いている方は・・・この店で」

「はい、私が一応形だけですがメートルドテルをやらせていただいております。他に女性が二人おります。一人は本日はお休みを頂いておりますが」

「オーナーさんというのは・・・」

 僕はできるだけ、妙な説明にならないように昔この場所で見たあの髭の男を描写してみた。

「いえ、そのような方ではございません。実はこの店のオーナーは女性でして」

「そうなんですか、じゃあ、そのような男の従業員はいらっしゃらない」

「さようですね、私が働き始めてからは・・・」

 給仕は次第に困惑したような表情になっていった。店のスタッフは二人しかいないのだ。

「あ、すいませんね、つい懐かしくなっちゃって」

「いえ、今後もご贔屓ひいきにしてくださいませ」

 そう言うと、給仕はほっとしたように料理場へ戻っていった。


 僕らはお店のバースデーサービスのワインで乾杯した。フルートの中で立ち上る泡を見ながら、僕は

「遠くにあんな一群の、人魚が沢山投身するさかさまに」*

 と呟いた。

「なに?それ・・・」

 永遠子が首を傾げた。

「詩、さ」

「ふうん?」

「昔、まだ若い頃読んだんだ。『乾杯』っていう詩・・・。泡が立ち上る様子が、人魚が逆さまに身投げをするイメージと重なりあうんじゃないかな。どういうわけかその部分を鮮明に覚えていてね」

「へえ、あなたってもっと即物的な人かと思っていた」

 永遠子は笑った。

「そうだね、この詩を読んだのは、『世界1』の時だった。ずっと昔、そう、もうすぐ100年も前のことかな」

 僕たちは密やかに笑った。100年前のこと・・・そんな会話が出来るのは永遠子を措いて他にいない。僕らは正しい道を歩んだ、そう思えた。


 いつの間にか、店には数組の客がやってきていた。テーブルを一つ隔てた席には細身の中年の女性が一人、シックなサテンのドレスを纏い、サングラスに飾りのついた帽子のままという不思議な姿で座っていた。僕らの席からはその後ろ姿しか見えなかったが、なんとなく見覚えのあるような気がして、僕は47年前、この店で見たのではないかと記憶をまさぐったが、思い出せなかった。給仕はその女性に近づくと親しげに暫く話していたので、恐らく常連の客なのだろう。

 その他にも小さな女の子、二人を連れた家族連れが入り口近くのテーブルに陣取っていた。彼らは僕が「世界1」へ引き戻されたときに見た永遠子の家族を彷彿ほうふつとさせた。それと少し年の離れたカップル、男性の方は就職したくらいの年頃だろうか、女の子はまだきっと大学生に違いない。

 久しぶりに飲んだ、ヴァン ムースの力か、少し酔いが回っていた。メインの牛肉はよく煮込まれていて、ほろほろと崩れるような歯触りが素敵だった。

「美味しかった」

「そうね、前の時と変わらない」

 食べ終えた、僕らがそう評しあっていると先ほどの給仕がやってきて、

「食後のお飲み物はいかがしますか?」

と尋ねた。

「僕はコーヒー・・・いや、紅茶にしようかな」

「そうね、私もそうする」

 永遠子が唱和するように言った。

「それが宜しいかと、私どもの店では最後にマドレーヌをお出ししていますので、紅茶の方が・・・」

「マドレーヌ?」

 僕と永遠子が同時に口にしたので給仕は驚いたような目をした。

「はい、マドレーヌですが・・・。それがなにか?」

「いや・・・。そう昔、ここでマドレーヌを彼女と一緒に食べたんだ」

「さようでございますか、料理人は何度か変わったのですが、デザートについては伝統が受け継がれたのかも知れません」

「そうですね」

「楽しみです」

 僕らは目を見合わせながら、そう言った。

「ところで、さっき、親しそうに話をしていたけどあの女性は常連さんなのですか?どこかでお会いしたことがあるような気がするんだが」

 視線を一つ隣の席に座っている女性に向けると、ああ、と給仕は微笑んだ。

「いえ、実はあの者がさきほどお話ししました、この店のオーナーでございまして」

「あ、そうなんですか」

「ええ、6年前にフランスから戻られた、と聞いています」

「なるほど。向こうでもレストランを経営していたのですかね」

「いえ、そのようなことは。フランスとロシアで確か、バレェだったか、オペラだったか、そうした関係の」

「ああ、なるほど」

 永遠子も頷いた。彼女は仕事柄、昔そうした世界にいた女性を良く知っていた。それにフランスとロシアはどちらもバレェ大国で、歴史的な繋がりも深い。今でこそ、日本でも多くのバレリーナがいるが、実際のバレェの本場はやはりフランスであり、ロシアである。そしてバレェのような芸術に携わる人々は奇矯な衣装や振る舞いをする人に事欠かない。ディアギレフやニジンスキーの時代から、である。

「宜しいでしょうか」

 給仕が微笑んだ

「ああ、ありがとう」


 暫くすると、紅茶とマドレーヌが運ばれてきた。以前食べたものと少なくとも外見は同じ物のようにみえた。とはいえ、マドレーヌはマドレーヌ、どこでもそれほど違うものではないだろう。

 僕と永遠子は互いに見合った。まさか・・・永遠子の表情は心なしか、陰っていた。同じ事は起こらないよね。僕らはマドレーヌを紅茶に浸し、口に運んだ。ほろり、と崩れた食感はあの時には感じることさえ出来なかったのだけど、今度はしっかりと感じることが出来た。

「美味しい」

永遠子が微笑んだ。

「そうだね」

僕は頷いた。

「うん、何か言った?」

 どこからか、不思議な声が聞こえてきた。歌うような、朗読するような声。それも日本語ではない、だが確かに聞き覚えのある声。

Nous naviguons, o mes divers amis・・・(我々は航海している、ああ、私の様々な友よ・・・)これは・・・「乾杯」の一節だ。どこから?どこから聞こえるのだ?僕の目は彷徨った。永遠子はそんな僕を驚いたように目を見開いて、見つめてきた。

Une ivresse belle m'engage sans craindre meme tangage(船の揺れに惑わされることもなく美しい陶酔が私を捕らえる)

 目の端で、あの女性が立ち上がったのが見えた。彼女だ。彼女がこの詩を・・・。

Salud a Solitude, recif, etoile A n'importe ce qui valut Le blanc souci de notre toile

(孤独へ、暗礁へ、星へ、我々の帆布を気遣う「純白」に値する全てのものへ、「乾杯」)

Salud。乾杯

 そして彼女は構えていた銃を僕に向けた。小さな銃。ペレッタのナノだ、とその瞬間、僕は思った。警察官の習性。銃に関する知識。

 やめろ・・・、声にならなかった。銃の先端が震え、そして火を噴いた。


 愛・・・君はどうして?


*「乾杯の辞」マラルメ 西脇順三郎訳「マラルメ・ヴァレリー詩集」世界詩人全集10 新潮社(この部分だけ当該訳出を使用)




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