第百十一話:『平家』の盛衰~検証㊻~
※※ 111 ※※
夕焼けの赤が
後部デッキから見える伊豆の無数の灯りが、大きく揺らぐ海面と夜の
「言っちゃ駄目だと思ってた。でも、ずっと言いたかった。自分のやりたい考古に逃げて君の想いからも逃げてた」
想いを伝える言葉まで理屈っぽい茂木センセに、
「いいわ。だって好きなんだもの」
簡単な言葉で山科会長はなぞる。
「会長におめでとうと言うべきでしょうが……これって秘密にしておいた方がいいんですかね?」
突然、新庄が気恥ずかしさをゴホンと、わざとらしい咳払いで
「えーと……ごめんなさい。見せつけるつもりはなかったの。でも全然勇気が足りなくて、あなたたちに見守ってほしかった。ありがとう」
感謝と謝辞の奥に愛の恥じらいがあることを始めて知った灼は、わけも分からず鼻を
「よかったじゃん。じゃあ、平良を待たせてるから先に行くね」
一瞬
「ありがとう」
既に日は落ち
背を向けて
なのに今、彼女の脳裏に、そうでないもの、
(――いいんだ)
混乱の中で、どこか何かが
(好きって言っていいんだ)
胸の中で無意識に
それと最近になって、平良の周りに女の子が集まり、突発的に
(今なら分かる――いや
「おい、灼」
誰かが――いや、誰でもない平良が灼の腕を引く。気が付けば、いつの間にか後部上甲板から客室に入り、前部まで
「そっちは有料デッキだぞ?」
俺は気楽に笑う。灼はその声に
「あきッ!?――」
思わず掴んだ腕を放して、灼が振り向く
「らァァァ~~……」
「……好き」
足りない言葉を全て
「ええと、何が一体どうした?」
言いつつ
「あんたの
まるで違う場所に取り残されたかのような俺を無視して、灼は近くの二等客室ベンチに座った。そして恥ずかしさを
「へいへい。お前、ミルクティーでいいよな」
俺は
やがて俺と灼のミルクティーが空になりかけた頃。
「
灼が言うのに気付いて、
「ああ、
俺はやや
(ホント……一体何だったんだ)
と俺は心中で思いつつも、
(ともあれ、落ち着いてくれたのなら後で何があったのか聞いてみよう)
思い直して『
「さらに上洛した後も『
――九月廿九日戊寅 :朝間陰、今晩東國追討使右少将維盛朝臣出六波羅家発云々、去廿二日出福原、廿三日着舊都、其後于今所逗留也、伝聞、上総守忠清於此都忌十死一生日、少将云、於今者途中儀、於舊都可忌日次、忠清云、六波羅先祖舊宅也、争不被忌者、如此間争論云々。
かなり長いが我慢してくれ。意味は俺の意訳だが、
――九月二十九日
噂によると
まあ、作者である中山
灼が残り少ないミルクティーを飲み干して、得意げに笑う。
「あんたが言ってるのは『橋合戦』のことよね。
笑いと一緒にしっかりと受け止めて俺は
「そうだ。これは俺の私見だが、
「兵糧の調達ね」
その即答に今度は俺が苦笑した。
「ああ、その通りだ。とにかく西国は
それは目指す先が、目標が見えるほど『
俺は慎重に、今まで以上に慎重に緩い坂を登ってゆく。
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