最終話 サムライという生き方の男、いとこのまし・その五

 旅立ちの日。

 私の魔力を込めた刀を収めた黒鉄の社で祈りを済ませ、準備万端です。

 旅支度を整えた私達の前には、ゲンブ様、サヤ様、そして、ドウラン先生、家臣の皆様や鬼人の皆さんが。



「ヴィオラ様、お気をつけて。さやはツルバミの地より、ヴィオラ様のご無事を祈り続けております」

「ありがとうございます。この白の衣も。サヤ様の優しさに包まれているようです」


 実際、ドウラン先生に教えていただきながら魔力を織り込んだ衣服らしく、身体全体が守られているのを感じ、微笑むと、サヤ様は嬉しそうに笑って、ぎゅっと手を握って下さいました。


「ヴィオラ、鬼人の里とツルバミは、ワタシとゴウラ、そして、ドウラン達で守ってみせるから、安心して行ってこい」

「うが!」

「いやいや、俺を頭数に入れるのかよ……。まあ、なんだ。難しいかもしれんが、負の感情は流れをせき止める。出来るだけ、楽しみを見つけろ、喜びを感じろ、新鮮に生きろ。そうすれば、五行陰陽術はお前を助け、神々もお前の力となってくれるはずだ」

「はい、ドウラン先生。肝にめいじます。そして、リンカ、ゴウラさん、よろしく頼みました」


 武力の鬼人族と、五行陰陽術の使い手であるドウラン先生がいれば、大丈夫でしょう。


「ヤスケぇええええ! とうとう修行の日々から解放されるな!」

「ああ、リグ! この溜りに溜まった思いをこの旅にぶつけてやろうではないか!」

「ねえぇ、あの二人、好き合ってるのぉ?」

「いや、違うとは思うけれども、とても強いきずなで結ばれているわね。あと、あっちも」

「ヨーリ! 旅だ! 食べ物とか美味しいもの食べたいな!」

「ぽーん!」


 皆さんはどうされたのかしら? そこまでキツイ訓練ではなかったはずですが……。


「そういえばよお、パーティーの名はどうするんだ? リグ殿たちの白の狼なのか?」

「いえ、名は力を持ちますので。白の狼では恐らく、私達の入る流れがないので、新たに名づけをしました。私達のパーティー名は……【黒の刃】」


 私は、頂いたワキザシを抜き、ゲンブ様の前で跪き、誓いを立てます。


「ゲンブ様、我ら【黒の刃】は、ツルバミ、そして、ジパングに光をもたらす為の影として、サクラの国へ向かい、無事に吉報を持ち帰ってみせます」


 言葉を紡ぎ終えると、顔を上げ、我が主を、私の居場所を守って下さる方の顔を見上げます。


「ヴィオラ、我らの救世主、金髪碧眼ノ陰陽師の旅の無事を祈る」


 その言葉は、ゲンブ様の短く思いのこもったその言葉は、私の耳を通り、心の臓まで届き、身体の中で熱い血が流れ、巡り、私の力に変わっていきます。


「はい! では、行ってまいります!」


 そうして、私達のサクラの国を目指す旅が始まったのでした。





*******




「で、で、出たぁああああ! くそう! 今日はやっぱり厄日だったんだ!」


 男性の叫び声が聞こえます。

 遠見の術で見ると、鬼蜘蛛デーモンスパイダー達に追われているようです。


「ラナさん、方向は風で調整します。五本ほど私の向きに」

「はいよぉお!」


 ラナさんは素早く五本をあっという間に放ちます。

 お陰で操作しやすくなった弓の軍勢を、風の術で操り、男を避けて一番近づいていた五匹の鬼蜘蛛に突き刺します。


「命中。ヤスケ、リグ」

「もう、速度上昇をかけたので、向かっています」


 視れば、確かに、二つの影が男を飛び越え鬼蜘蛛をどんどん切り裂いていきます。


「流石、キリ。ありがとう。ヨーリ、クロ。馬に化けて二人を乗せて行って」

「ぽーん」

「は! ですが、主は」

「競争しましょう。風に運ばれる私と貴方達のどちらが早いか」


 私は挑発的に笑うと、風の術で一気に駆けていきます。

 ヨーリとクロも流石。ついてきているようです。


「くっそう! やはり、外に出るべきじゃなかった。くだんの言葉を聞いておけばよかった!」


 クダン? 魔物か神の使いの名でしょうか?

 男性がグロンブーツ王国では聞いたことない名を呼んでいます。

 まあ、それは置いといて。


「そこの貴方、死にたくなければ頭を下げなさい」

「え? ひえ!」


 私が振るう紫黒ノ扇を見て、男が慌てて頭を下げて出来た空間で、私のオウギと一番大きな鬼蜘蛛の爪がぶつかりあって、気持ちの悪い金属音を奏でます。


「ギィイイ!」

「魔物のようですね……一気に決めましょう! クロガネノマヒトツ様、マツ! おいでませ!」


 赤鳥居を生み出し、その中からお二人をお呼びします。

 そして、クロガネノマヒトツ様が鉄粉に変わり、マツに宿ると、マツは黒い鉄の針を雨のように降らせ、大鬼蜘蛛の足を止めます。


「ありがとうございます!」


 そして、私は五行陰陽術の流れを整えながら魔力を解放します。


 【金】の力で鉄の針を巨大化させ、【火】の力で熱を送り、手足を焼いていきます。

 ただし、他に燃え移らぬよう、【水】と【土】で上手く操りながら。

 そして、【木】の力で風を起こし、火を強くすると同時に、天へと舞い上がります。


「て、天女様……か? あの羽衣伝説の……」


 男がまた気になる事を言いました。

 あとで、詳しくききましょう。


 私は、黒のワキザシ抜き、そのまま、勢いよく大鬼蜘蛛を一刀両断し、絶命させます。

 他ももう終わったようです。流石、【黒の刃】の面々。


「あ、アンタは、一体……い、異国の人、だよなあ?」


 男の声を聞き、私は思わずカーテシーを……いけませんね、間違えてしまいました。

 私はもうただの……。


「いえ、私は、このジパングの、ただの金髪碧眼の陰陽師です。以後お見知りおきを」


 さて、それでは、シオームスビを食べながら、少しお話お伺いしましょうか。

 それが、私の進むべき流れのようですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金髪碧眼ノ陰陽師~「四大元素魔法を理解できない落ちこぼれが!」と追放された私ですが流れ着いたジパングで五行とコメと美丈夫に出会って『いとおかし』でして、戻って来いと言われましても『いととおし』~ だぶんぐる @drugon444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ