第25話 出来ること――!


「お、おい!なんか様子が変じゃないっすか!?」


「う、うん!桜ちゃんが、宙に浮いてる!?」


「………っ!お狐様の大きな手が、桜さんの全身を握っています!」


「大きな手!?私には、何も視えないわよ!?」


 あの子がお狐様に向かって、けたたましく吠えかかっている横で、桜の体がギュウッとしぼられるように固まったかと思うと、宙に浮いていた。



「………………ッ!!おい、てめえ!桜を離せ!」


 そう叫ぶと、ケンタは紅葉達の静止も聞かずお狐様に飛び掛かっていった。その両腕には、天地も切り裂く自慢の愛剣が握られている。


 お狐様まで、あと5メートルの距離まで駆け寄ると、ケンタは桜とあの子が剣の軌道に入らない様に細心の注意を払いながら、エクスカリバーを振り下ろした。



 シャイ――――――ッッッン!!



 全てを切り裂く斬撃が、空も山も、そして空気までも、世界を真っ二つに切り裂いてゆく。しかし――そんな世界などとは無縁な存在がいた。


 ――――お狐様。


 自分以外の世界が切り裂かれても、お狐様は何事も無かった様に平然とその場所に立っていた。まるで―――下世話な世界と自らの存在は無関係だと言わんばかりの、圧倒的な神秘性。



「え―――?なんで―――?」


「その剣が切ることが出来るのは、その娘が創り出した世界だけですよ」



 剣を振り下ろした体制のまま固まるケンタに、お狐様がゆっくりと左手を伸ばし、開いていた手の平をグッと握った。



「――――――ッ!いけないっ!ケンタさんっ逃げてぇぇ―――っ!!!」



 青葉が悲鳴を上げたのと、ケンタの体が粉々に砕け散ったのは、ほぼ同時だった。





「け――――? けん……た?」



 山崎桜の目の前で、下崎健太は飛散し消えた。



 ………とくん……とくん…どっくん…どく、どく、どくどくどくどく―――



 なぎように静かだった心臓が、荒波の様な荒々しさで暴れ出していく。



「――――――ッ!いやあぁぁ――あぁぁぁぁぁあああ!!!!」



 そして桜の上げた絶叫が、辺りを震わせ続けた。



「稲妻ダァ――――――ッシュ!!」


 その絶叫を止めたのは、いずみの叫びだった。

 

 叫び声と共に、黄色い稲妻がお狐様を直撃した。ぐらりと揺れて、桜は自分の体を握り締めていた何かから解放され放り出された。そこに飛び込んできたのが―――紅葉だ。


 紅葉は桜を空中で抱き抱えると、そのまま吠え続けていた、あの犬まで抱えて、一気にお狐様から距離を置いた。


 そして少し離れた丘のふもとで桜達を下ろすと、紅葉はじいっと戦況を確認している。今は―――いずみと青葉の二人が、お狐様と対峙している状況だ。


 どうやらお狐様は視えない大きな手で、相手を攻撃することが出来るようだった。そして、その手は自分の手の動きと連動している。


 ―――つまりは、見えているお狐様の腕と手の動きに注意を払うことでしか、視えないもう一つの大きな手の動きは感知できないのだ。



「……………厄介ね。視えないんじゃ、手や腕の動きを観察しながら―――大きく立ち回るしかないってことね」


 しかし、そんな紅葉の懸念を払拭ふっしょくするかの様に、いずみと青葉のコンビは上手じょうずにお狐様と渡り合っていた。


 少し離れた場所から出される青葉の指示に従って、いずみがスピードで視えない大きな手をかいくぐりながら、お狐様を上手うま翻弄ほんろうしている。


 ―――やはり勝算があるとすれば、唯一視えない大きな手が視えている青葉の存在だろうか。


 そんなことを考えながら紅葉が視線を向けたのは、泣き続けている桜だ。ケンタのことが、よほどショックだったのだろう。桜は息もまともに出来ないくらい、しゃくり上げている。



「うぇぇ……けんたぁ…けんた嫌だよぅ… ひっ、けんたが…けんたぁ…」


「…………落ち着いて桜ちゃん、ケンタくんなら大丈夫よ。ケンタ君は、あなたの夢の中から出て、意識が自分の肉体に戻ったの。だから目が覚めれば、ケンタくんはちゃんと元気にしているわ」


「――――――へぇ?」


「ふふ、だって―――ここは、あなたの夢の中でしょう?」


 紅葉に言われて、やっと桜は思い出した。ここは自分の夢の中だったのだ。夢の中の出来事なら、確かに現実のケンタがいなくなってしまうことは無いだろう。それが分かった途端、桜の胸の中に安心感がじんわりと沸き上がってきた。


「ふえぇぇ…………! けんたぁ……よかったよぅ………げんたぁ~」


「ふふっ、しかたないわね。ほら、こっちにいらっしゃい」


 紅葉は、桜を優しく抱きしめてくれた。彼女の腕の中は温かくて―――いい匂いがして―――まるで秋の陽だまりで日向ぼっこをしているみたいだった。桜に兄弟はいなかったが、もしお姉ちゃんがいたのなら、こんな感じなのだろうか?


 …………お姉ちゃんて………いいな。



「………………ねえ、紅葉さん」


「…………ん?なぁに桜ちゃん」


「私―――お狐様を説得出来なかった。――お狐様に、私の気持ち伝わらなかった。 ………………ごめんなざい~」


 ケンタが無事だと分かってからも、桜の涙は止まらなかった。悔しくて、情けなくて…………涙が止まらない。そんな桜の背中を、紅葉はずっと優しくなでていてくれた。


「桜ちゃん、それは仕様がないことよ。神様にだって、きっと―――お気持ちがあって、許せないことだってあるんじゃないかしら?今回のことは、桜ちゃんのせいだけじゃあないよ。私達人間がずうっとしてきたことに、お狐様は怒ってらっしゃるの」


「でも私があんなお願いしなかったら、こんなことにならなかった。ごめんなさい、ごめんなさい………………!」


「―――桜ちゃん、聞いて。泣いていたって、何も解決しないわ。今――私達に出来ることを精一杯しましょうよ?」


「―――今、できること?」


「―――ええ、あの二人を見てみて、桜ちゃん」


 紅葉の視線の先には、お狐様に勇敢に立ち向かっている二人のヒーロー達の姿があった。それは空色のヒーローの合図の元、あの憧れのヒーローが果敢に立ち回っている姿だった。


「――――すごい!二人共、ほんとにすごいよ!お狐様と、互角以上に渡り合ってる!二人なら、お狐様にも勝てるんじゃなあいかな!?」


「………………ううん。残念だけれど今の私達では、どんなに頑張ってもお狐様には勝てないわ。今は上手く立ち回っているけれど、そのうち追い詰められてくるわ。それだけお狐様は、私達のずっとずっと上のご存在なのよ。それが分かっていて―――あの二人は戦っているのよ」


「そ、そんな…………!それじゃあ……私達には、どうしようもないんですか?」


「…………望みはあるわ。実はここに来る前に、私はある方に向けて手紙をしたためたの。その手紙を無事に、その方のお手元までお届けすることが出来たって、さっき―――その手紙を預けた私の式神から知らせが来たわ」


「手紙…………?その手紙が、私達の望みなんですか?」


「―――ええ、私達の望みよ。でも、とっても小さな小さな望みなの。私はその手紙で、あるお方に今回の件の仲介を頼んだの。お狐様が私達の話を聞いても下さらない可能性も十分にあったからね。


 でもね―――その手紙を読まれたそのお方が、私の頼みを受けて下さるかどうかは分からない」


「小さな望み―――ですか? 紅葉さん、その手紙の相手ってまさか………?」


「ええ―――私が手紙を送った相手は、宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様。今、私達はそのお方を待っているの。おいで下さらないかもしれないけれど、私達の出来る精一杯のことをしながら、待っているの。


 でもね―――ただ、待つだけじゃないわ。お狐様にもお気持ちがあるように、私達にだって感情がある。


 私の親友はね、絶対に―――この子を見捨てない。あの人はね、そういう人なの。

 あなたも、よぉく知っているでしょう?」


 あの子を撫でながら、紅葉が桜に聞いてきた。この子も、もうすっかり紅葉に懐いている様で頭を優しく撫でられて気持ちよさそうに目を細めている様子がとても満足そうで、微笑ましい。


「――――はいっ!」


 元気に頷いた桜を、彼女は嬉しそうな顔で見つめている。その顔を見た桜は、この人は本当に、いずみさんのことが好きなんだなと思った。


「ふふっ私ね―――もちろん妹もだけれど、そんな彼女が大好きよ。だから最後まで、彼女に付き合うわ。


 それに……ね。たとえ夢の中とはいえ、ケンタくんをあんな酷い目にあわせてたヤツを、私達は絶対に許さない。


 だから私達は―――ただ待つつもりなんてないわ。宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様が来て下ださろうと―――そうでなかろうと、一発……いいえ、百発はぶん殴ってやるんだから!」


 そう言って鳶色とびいろのお姉さまは、桜に笑顔をみせる。


 落ち着いていて、上品な印象の彼女の口からそんな物騒な言葉が出てきたことに驚いたが、もちろん―――桜も激しく同意だ。


「―――はいっ!私も、ぶん殴ってやりたいです!」


「ふふっ、私達に出来ること―――見つけたね!それじゃあ一緒に、ぶん殴ってやりましょうよ!」











 ☆あとがき☆



 こんにちわ!🌞、こんばんわ!🌙

 今日もこの物語のページを開いて下さり、本当に本当にありがとうございます!


 そして――!たっくさんの応援を、いつもありがとう!

 引き続きの応援―――どうぞ、よろしくお願いいたします。(*_ _)ペコリ


 前話からの続き――――桜の説得も、お狐様には届かなかった。それどころか、桜に向けられたのは恐ろしい魔の手。そしてその恐ろしい手は、あろうことか桜を助けようとしたケンタを粉々に消し去ってしまう。

 ついに―――お互いに一歩も引けない気持ちを抱えた両者の闘いの火蓋が切られてしまったのだ。



 ~~~~~~~ッ!

 

 こ、これは、とんでもない事態になっちゃった!💦

 お互いの感情がぶつかり合って、どうやっても、もう闘いは避けられないみたい!


 桜ちゃん達っ!そしてお狐様っ!お互いに譲れない気持ちがあるんだね!

 だったら、もう―――闘うしかないよ。


 最後までちゃんと、見届けるからね―――っ!

 (≧◇≦)💦



 ―――と、いうことで!


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