第11話 やり遂げること


「誰だよ、いずみって!? 女の子の名前じゃん!」


「何だよ、やっぱりリーダーじゃないじゃないか………!」


 皆が安堵あんどの表情を浮かべて、その女の子に声を掛けている。しかし――そんな他のメンバー達とまささんの反応は、まるで違うものだった。


「………総合病院に、リーダーはいるんだね?そして君の話しは、本当なんだね?

 ―――ねぇ君、もう少し詳しく状況を教えてくれないかな……?」


 真剣にその女の子の話に向き合い始めた雅さんに他のメンバー達は困惑していた。

そして、その女の子から出てきた名前を聞いた桜も、恐ろしい気持ちになった。



 ―――もしかして、この人の話は本当かもしれない。



 何故なら桜があの夜に見たあの人は、確かに女の子だったのだ。唯一メンバーの中で雅さんはそのことを知っていたのだろう。


 そして涙の粒を幾つも落としながらポツリポツリと話してくれた黒髪の女の子の話を聞く内に、それは確信へと変っていった。


 その……いずみという人は、三日前の夜に事故にった。それはつまり―――桜達と出会ったあの夜のことだ。


 PM:11時19分


 時間から考えると、桜達と別れてから約20分程後に事故に巻き込まれたことになる。その……いずみという人がリーダーだとすると、あの子と新天地に向かう道中で事故にったのだ。


 動悸どうきが激しくなって、あまりの苦しさに桜はその場にしゃがみ込んでしまった。


 ―――息が、上手く出来なかった。


 メンバー達が慌てて桜を横にしてくれて、雅さんがハンカチを手渡してくれた。口に当てて呼吸していると、楽になるという。それが過呼吸かこきゅうという症状だったことを、桜は後で知った。



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 メンバー達は皆、桜とケンタを残して総合病院に出掛けて行った。


 本当は桜も一緒に行きたかったが、とても立ち上がれる状態ではない。ケンタに背中をさすられながら、桜の目から涙は止まることは無かった。


 どれくらい時間が過ぎただろう。呼吸が少し楽になっていることに気が付いた桜は、ケンタに礼を言って体を起こした。


「………ん、ありがとうケンタ。もう、大丈夫そう。私も病院に行かなくちゃ………!」


「まだ、無理するな桜。しっかり体調が回復するまで、もう少し横になってろよ。気持ちは分かるけど、さ。どうせ俺達が病院に行ったってリーダーに何もしてやれないんだ」


「ケンタ、なに言ってるの!?私のせいでリーダーはこんなことになったんだよ!?せめて、側にいてあげなくちゃ―――!」


 いつも通りの冷たいケンタの言葉に食って掛かろうとして、桜は固まった。何故なら、ケンタも泣いていたからだ。


「………ケンタ?」


 ごしっと袖で涙を拭ってから、ケンタは苦しそうに空を仰いだ。


「―――なあ、桜。もしリーダー達が新天地に向かう途中で事故に遭ったとしたら、あの犬はどうしているんだろうな?

 桜が視たっていう………あの夢を思い出してみろよ。もしかしたらリーダーと一緒に事故に巻き込まれて、怪我をしているかもしれないだろ?こんな時もしリーダーだったら、どうすると思う?」


 その時、ようやく気が付く。ケンタは涙がこぼれ落ちない様に、天をあおいだのだ。


 それでも溢れている涙が、ケンタの気持ちを教えてくれる。本当はケンタだって直ぐに病院に飛んで行きたいに決まっている。何故ってケンタは、あの人のことを本当に大好きで尊敬しているのを私はよくよく知っているじゃないか。


 それなのにケンタは、私を看病する為に、この場に残ってくれた。そしてケンタは、自分の気持ちをおさえて今やるべきことを考えている。


 ―――それに比べて、自分はどうだろう?


 責めたって取り返しのつかないことで自分を責めて、一番しなくちゃいけないことに気が付けていない。


 今から、自分に出来ることは何だろう?


 それは―――きっと。


 それは―――あの人がやろうとしていたことを、やり遂げることだ。今も何処かで苦しんでいるかもしれないあの子を見つけ出して、無事に安心して暮らせる場所まで送り届けることだ。


 その後で、好きなだけでも自分を責めればいい。

 あの人の―――側にいればいい。



「ケンタごめんね。私、自分のことしか考えていなかった。ケンタの言う通りだよ。私達のやれることを、やらなくちゃね」


「ああ―― 俺達で、やってやろうぜ桜。なんってたって俺達二人は、あの人から君達なら強いヒーローになれるって言ってもらえたんだ。今、ヒーローになれなかったら、俺達二人共リーダーから怒られちゃうぜ!」


「―――うん、本当にそうだね!」


 ケンタから差し出された手を、桜はギュッと握り返した。


 二人共、人に見せられないくらいに涙で顔がぐちゃぐちゃで酷い有り様だったが、それでも桜は憧れのあの人に一歩だけ近付けた気がした。まだまだ遠い、あの人の背中を追いかけて行こう。そう自分を奮い立たせて、立ち上がった時だった。



「あの―――」


「きゃあぁぁ!」 「うわぁあぁ!」


 背中から突然話し掛けられて、桜達は悲鳴を上げてしまった。驚いて振り返れば、そこにはあの黒髪の女の子が立っている。



 ………びっくりした。

 みんなと一緒に、病院に行ったんじゃなかったの?



 勝手にそう思いこんでいた桜達は本当に驚いたのだが、もう一つの驚きがそんなことを吹き飛ばしてしまう。


 その女の子は―――

 桜が、今まで見たこともないくらいに美しい人だったのだ。


 流れるような黒髪の間に覗かせた顔は真珠しんじゅみたいに透明感があったし、瞳がまるでダイヤモンドみたいに輝いている。そして形よくスッと伸びた鼻の下には、桜の花びらみたいな可愛くて小さな唇。


 その可憐な唇が言葉をつむぐのを、桜は夢でも視ているような気持ちで聞いていた。


「………驚かせてしまって、ごめんなさい。その子なら、今は私達の家にいます。怪我をしていたので治療して保護しているんです。でも、ちょっとまずいことになっていて………

 私ね、ずっとあなたを探していたの。この場所に来たのだって、別にいずみちゃんのことを話す為じゃあないんです。あの子へ繋がっている、呪いの糸を辿たどってきたの」



 やっぱり声まで綺麗なんだね、美しい人って―――



 などと考えながら、ボーっとその美しい人を視ていた桜は指をされて周りを見回した。しかし周りにいるのはなすびみたいな顔でダラシナク口を開けている、ケンタだけだ。


「………はぁい? ………わたし、ですか?」


 間の抜けた桜の返事に、コクリと頷いた美しいその人が、また言葉をつむぐ。


「―――はい。私は、あなたからあの子へと繋がっている呪いの糸を辿ってきました。どうかお願いします。あの子といずみちゃんを、その呪いから開放してあげて下さい。………どうか、どうかお願いします」


 そして―――


 その美しい人は唐突に両膝をついて、桜に向かって深く頭を下げたのだった。









  ☆あとがき☆




 こんにちわ!🌞、こんばんわ🌙!

 今日もこの物語のページを開いて下さり、本当に本当にありがとうございます!


 そして――!たっくさんの応援を、いつもありがとう!


 引き続きの応援―――どうぞ、よろしくお願いいたします。(*_ _)ペコリ




 ―――桜ちゃんの視た、恐ろしい夢。


 ―――そして突然現れた、黒髪の美少女。


 そして彼女が言う、呪いの糸って何かしら―――?



 新章が始まってから、分からないことだらけ!

 とにかくサニーイエローこと、いずみさんは無事なの―――!?


 続きが気になっちゃうっ!(>_<)💦




 ―――――って、思ってくれた人。


 ☆と💗そして――作品とわたくし虹うた🌈のフォローで、どうか応援をよろしくお願いしま~す!








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