第9話 テンプレとやらの始まり


「こいつ、あんまり高く売れないんだっけ?」


「はい、解体して、外皮を売ろうとしてもただの硬い石だとか言われて値段すら付けられないのがおちですね」


「へぇ、人間ってのは見る目がないんだな」


「ま、理由はそれだけじゃないとおもいますけどね」


「わかってるよ」


 そもそも誰かがアースドラゴンの外皮を持ってきたとしても、まず誰もアースドラゴンを倒したことを信じない。外皮は岩のようだから、その辺の硬い岩を砕いてきたものだと勘違いされてしまうらしい。見た感じ、アースドラゴンの外皮は見た目に反して軽そうだ。アースドラゴン自体が動くのに支障がない程度の重さなのにその強度は1級品。

 人というのは本当に見る目がないらしい。


「それより素材にならないんなら丁寧に倒す必要は無いよな」


「そうね。チャチャッと終わらせて帰りましょう」


 その後は蹂躙、いや瞬殺という言葉が正しいだろうか。俺の魔法によってアースドラゴンは粉々になり、その生命活動を停止させた。


「……あなた、本当に強いのね」


「お前が信仰する神から調停者の地位を承っているんだ。当然だろ?」


「えぇ、そうね! 主神あるじが調停者に指名しただけはあるわ!」


 うーん、実にちょろい。あいつのことをよいしょすると、ヒュウランのIQはアホみたいに下がる。扱いやすくて助かるな。


「それじゃあ、戻るか」


「えぇ!」


 その後は行きとは比べ物にならないほど早く戻り、数分で入口まで戻ってきた。道中遭遇した魔物は当然無視して来た。


「私は特別製だからこの体でも平気だけど、あなたはお腹がすいたでしょう? 早く戻りましょ」


「あぁ。正直腹が減りすぎてイライラしている所だ。俺の体に要らん機能をつけやがって」


「まぁいいじゃない! お腹がすいている方が、ご飯が美味しく感じるわよ」


「まぁたしかに」


「それじゃあ行きましょ」


 そう言って、ヒュウランは飛行を開始した。


「あ、ちょっと待ってくれ!」


「何よ、お腹すいてるんでしょ? 早く行きましょ」


「この体にしっぽを生やすことは可能か?」


「まぁ、可能じゃないことはないわ。理由を聞きましょう」


「まぁそうだよな。今まで飛行時には尻尾を使ってバランスを取ってたんだが、それが急に無くなって正直空を飛びずらいんだ」


「そうかしら。不自由なく飛行できているように見えたけれど」


「まぁドラゴンだからな。尻尾くらい無くても飛行程度は出来るが、非常に神経をすり減らすんだよ。正直いって不自由だ」


「……まぁいいわ。主神あるじからは、多少のお願いごとは叶えてあげなさいと言われていますので」


「はっ、殊勝なこった」


「……尻尾、諦めますか?」

「ごめんなさい、許してください」


 謝ったよ。ノータイムで謝ったよ。プライド? しっぽを取り戻してからプライドも取り戻すよ。そもそも使徒と俺の立場じゃぁ、俺の方が下だしな!


「おぉ、生えてる! 尻尾! サンキュー、ヒュウラン!」


 数時間ぶりのマイ尻尾だ。


「はぁ、早く行きますよ」


「おう!」


 その後はそれはもう、すごく快適だった。しっぽが有るのと無いのとじゃぁ、こんなに違うんだな。こりゃ、人間が空を飛べない理由もわかったな。「ひゃっほ~い」なんてはしゃいでいると、ヒュウランがすごく可哀想なものを見る目でこちらを見てきた。


「楽しいですか?」


「あ、いやその……。ごめんなさい」


「いえ、謝罪は求めていません。楽しいですか? と、聞いているんです」


 それはもう、すごいニコニコな表情で詰め寄ってくる。


「は、はい。その、楽しませて頂きました」


「そうですか。まあいいです。とりあえずスピードを出しすぎなので、抑えてください」


「はい」


 もう、スピード云々で怒られるのは御免なので、ヒュウランに先頭を飛んでもらい、その後ろを俺が飛ぶ形となった。


「この辺でいいでしょうか」


 街から少し離れた……と言っても数百m程度だが、その辺でヒュウランが下降し始める。飛んだまま街の方に入るのは色々と目立つのでダメなのだ。


「なぁ、美味しい飯ってどれくらい美味いんだ? なんか懸念してるようだったが、なんか問題でもあるのか? まずは換金だよなぁ、どれくらいになるのかなあ? なあなぁ」


「うるさい!」


 ――バシッ!


 乾いた音がした。腹がすきすぎて、何故かハイになって質問攻めする俺に腹を立てたヒュウランが振り向きざまに俺の顔にビンタをかましたのだ。不思議と痛みは無いが、ちょっとした後悔が湧き上がる。


「す、すまん。ただちょっと腹が減ってよぉ。しっぽも戻ってきたし、嬉しいのと、腹が減りすぎて少しハイになってたんだ。許してくれ」


 俺の謝罪を横目に見ながら歩みを進めるヒュウラン。これ以上は何を言っても無駄だと思い、ヒュウラン後ろを黙って着いて歩くことに決めた。


「あんたらはさっきの」


 門では出る時に少し顔を見た程度の門番が話しかけてきた。


「あら、私たちのこと覚えているの?」


「そりゃあ、美形な男女を見かけたら忘れられねぇよ」


「そう。じゃあ身分証を見せる手間も省けるわね? ね?」


 ヒュウランはすごい圧を門番にかけている。可哀想な門番だな。確かに、身分証を機械に翳すの少し時間がかかるしなぁ。ここはヒュウランな加勢するか。


「い、いや、そこは規則なもん……で――ヒィ! と、通ってもらって構わない! い、行ってくれ!」


「あら、そう? ありがとう」


 わざとらしく首を傾げたヒュウランは軽く礼を言い、門を素通りする。


「さ、早く行くわよ、冒険者ギルド」


「あぁ……って、冒険者ギルド? なんだそれ」


 ヒュウランの口から聞き覚えのない言葉が聞こえた。


「冒険者ギルドを知らないの? 今までの歴史でも存在したでしょう? 魔物を狩ったり薬草を持ってきたりして換金したり、人によってランクに分けられて、それぞれの依頼をこなす所よ」


「あぁ、ハンター組合の事か。今まで色んな呼び方で歴史に登場してたが、冒険者ギルドなんで呼び方は初めてだな」


「あら。まぁなんでもいいわ。とりあえず行きましょ」


 ヒュウランは冒険者ギルドの場所を把握しているらしく、迷いなく歩みを進める。


 そして数分歩いたところで


「ここね」


 結構デカめの施設だ。ガラの悪い連中が入って行きそうなイメージを受ける。まぁハンター組合も昔空から見たことあったが、こんな感じの見た目だったな。


 ――ガチャ


 そのままヒュウランは躊躇いなくドアを開け、まっすぐ受付まで歩く。


「これ、換金したいのだけれどできるかしら?」


 そう言って、先程狩ってきた魔物の戦利品を出す。オーク将軍ジェネラルの肉や、カイザーウルフの毛皮に肉等。人からすれば手に入れるのが難しいものばかりだ。


「さ、査定しますので少し時間を頂けますか?」


「えぇ、構わないけれど、なるべく早くしてちょうだい。この子お腹がすいて機嫌が悪いから」


 高価な素材の数々を前に萎縮している受付嬢に対し、俺が不機嫌だから早くしろの要求するのはちょっと違うだろと思いつつも、俺も早くして欲しいので、少し威圧感を出す。


「わ、分かりまし――」


「おうおう、綺麗な姉ちゃんだねぇ?」


「――た。あ」


 俺らの後ろから筋骨隆々の男が話しかけて来て、受付嬢の子は顔を真っ青にしてしまった。



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