第038話 転移(2)


 再び、テヘヘと照れた笑みを見せるシル。


 いやいや。

 褒めてないから。


 直ぐにクンクンと、自分を嗅ぐ。

 

 んー。

 匂いは、しない。


 となるとー。

 嗅覚の差か? 


 取り敢えずシルの嗅覚が異常に発達していることを、頭の片隅へ忘れないようにカキカキしておく。


 「んで、その後は? 入れないと思うのだけどー」


 入口が分かっても『ヘルプ』調べでは、ベールのようなもので侵入者を弾くとあったが。


 「うっふふふ。知りたい、かっ」


 「んー、力技か?」


 「んぬぬー。違うぞー失礼なっ」


 「どう違うんだー」


 「気付かなかったーであろう」


 「えーと、何が?」


 「入られたことにーっ。っふふふ」


 そう言えば警報もメッセージ通知も、なかった。

 普通に考えれば、可笑しな話である。


 「シルー、どうーやったんだっ」


 「っふふ。気になるかーっ。キラーン。見よーこの美し過ぎる我の爪をっ」


 「んーまあー、綺麗だな」


 「タオー、このような時は素直に褒めるのがーセオリじゃろー。テンションが上がらん、ションボリじゃ」


 そう言い、へこんでますアピールをするシル。


 んー。

 困った。


 話して貰うにはー、致し方なしか。


 「やややっ! おお、これはー綺麗過ぎる。ヤバっ」


 シルの手を取り、爪を見ながら誇張表現をする俺。

 そして間近で見たピンク色を帯びたキューティクルなシルの爪は、より綺麗でドキッとしてしまう。


 「うっふふふ。であろー。かっかかか」


 「よっ、シル、ゴブダンいちっ! 最高っす!!」


 演技を止めて、満面の笑みで復活を遂げるシル。

 そして輪をかけてヨイショする俺。


 「刮目して見よっ! えいっ!!」


 見え易いように上へ突き上げられたシルの指先の爪が、更に── 


 10cmほど、伸びた。


 えっ!

 なんで?


 「爪ってー自由自在に伸ばせるもの、だっけ?」


 「そんなのー当たり前じゃー。それよりもー、ここからじゃっ」


 すると更に爪を伸ばして、スーッと目の前の何もない空間に──


 横線を引く。


 そしてそのまま上げたり、曲げたりしてから斜め下まで引いていき、シルと俺の間に複数の線が浮かび上がる。


 おお。

 まさかのー、魔法陣?


 いや。

 違うな。


 シンプル過ぎる。


 好奇心マシマシで見守る。

 そして満足そうに爪を置く、シル。


 漸く完成したようで、そこには──


 『たお』と文字が浮かぶ。


 え、なぜにっ!

 俺の名前?


 突っ込みたいけれど、そこは敢えてスルー。


 それよりも空中で文字を書くのはー、純粋にカッコ良いな。

 でも入口の突破方法とは関係なく、ない。


 んん、あれ!


 気になり目の前の文字を良く見ると、超極小のスパークが線に沿ってパチパチと発生している。


 これはー。

 なんだろ。


 「シル―、これってー爪でどうやって書いてるの? 因みにー簡単?」


 「んー書く? なんじゃーそれ?!」


 「ん? あ、これのー描き方って、言った方がー良いのか?!」


 「んや、書いても描いてもーないぞっ。こーやってのー、スーッと斬るのじゃっ」


 「え、斬る? もしかしてーこれ、その爪で斬ってるってこと?」


 「ん、そうじゃよっ。抜群の斬れでのー200年掛けて編み出した秘技じゃっ」


 「いやいや、空間を斬るってー危ないだろっ。これー絶対、触れたらーダメなヤツっ!」


 「うんん。タオならー大丈夫じゃっ! それよりーカッコ良いだろー。っふふふ」


 ん!


 危なくないのかー。

 なら、いいか。


 何気にサラッと言っていたけれど、200年掛けて編み出したとも言っていたな。


 うんうん。

 間違いないなー。


 これがー。

 侵入方法だ。


 「これで入口のベールを斬り裂いてー、出入りしていたってことか?」


 「っふふふ。凄いじゃろー。これで斬ればー、バレんのだっ!」


 更に丁寧に聞いていく。

 それによると動機は、バレずに卵を盗むため。


 雨の日も、風の日も。

 たゆまず、屈折くつおれれず。


 果敢に卵採りに挑み続け、漸く手に入れた自慢の秘技。

 相手の感知を掻い潜ることが可能になるようだ。


 誇らしく語ってくれたけれど、単なる闖入ちんにゅうを企てた卵泥棒以外の何物でもない 。

 褒めて称えてとキラキラした眼差しで見て来るが──


 「不法侵入じゃ、ねー」


 「なっ! なんてー恐ろしい言葉をっ。タオ達もー沢山の卵を持っておるじゃろー」


 お!


 そう言えばー。

 そうだな。


 「そもそも不法などの言葉は、存在せん」


 「マジかっ!」


 「マジじゃっ! 何かを得たした時点で、それは獲得した者のモノとなる。道理じゃ。だからー通れた時点でー、そこは新たな道となる。それもー致し方なしじゃっ。っふふふ。かっかかか」


 自らの言葉で悦に入るシル。

 アホ面である。


 でも一概にジャイアニズムと切り捨てることは、できない。

 何気に物事の本質を捉えているように思えるからだ。


 不法か。


 弱きものが更なる弱者から、自己利益や立場を保持するための、社会ルールこと保身維持装置と呼べなくも、ないか。


 んー。

 難しいな。


 取り敢えず──


 「他所よそでは良いがー、ここではーダメだっ」


 「な、なぜじゃっ。あ、よせーひゃっひゃーっ」


 「理由ーっ? そんなものー必要ないっ」


 「わーかっーひゃっひゃーっ。やめーひゃっひゃーっ」


 「ほいっと。止めたぞー…………、と見せ掛けてー」


 「なんーでーひゃっひゃーっ。あぅあぅ。あ、あぅあぅひゃっひゃーっ」


 トリップし掛けているシル。


 ふー。

 こんなもんかな。


 でもー。

 どうしよう。

 

 『見えないもん』は万能ではないけれど、いとも簡単に色々と突破されると如何せん不安になってしまう。


 因みにダンジョン戦力が一定数を超えないと『見えないもん』での領域指定はできず、しかもその戦力が1割を切ると秘匿領域が強制解除される仕様のようだ。

 付け加えてその領域内に滞在している魔物は戦力としてカウントされないとのこと。


 元安本丹異常ポンコツ謎生物ことシルが稀有けうな存在であることを願い、この問題を一旦棚上げにする。


 まだ他にも聞きたいことはあるけれど、それよりも気になるのがシルの服装。


 乱れに乱れてー。

 色々なところが隠れていない。


 眼福と言いたいけれど、見え過ぎるのも有難味ありがたみが減る。

 まあ、俺の好みの問題だが。


 改めじっくりとボロボロの貫頭衣を観察する。


 至る所に空いた穴ことダメージ加工があるだけで、汚れてはいない。

 それに素材も艶があり、上等に見える。


 精鋭的なファッションと言えば、言えなくもないけれど、ダサい。

 何よりも、ほんのりと膨らみかけたお胸も見えたり見えなかったりする。


 んー。

 ピンクか。


 そもそも肌着ことインナーを身に付けてない。

 なのでいさぎよいほどの見え見え具合となる訳である。


 「なんじゃ。ジーっと見て」


 「んー服装がな」


 「服?」


 「うんうん」


 「それがーどうしたのじゃ」


 「他はないの?」


 「……これしかーないの、じゃ」


 少しうつむき気味になるシル。


 だよな。


 趣味でない限り、好きでボロボロを着るヤツはいない。

 野暮なことを聞いてしまった。


 反省だな。


 ちょいちょいと手招きをして、こっちへ近づくように促す。


 「……な、なんじゃ。んーこれは?」


 「ショッピング。シルの服を探そうっ」

 

 『ショップ』で服を検索して絞っていく。


 「これなんてーどうだ? 他に好きに色とかあるかっ?」


 「うわわわー、これはー綺麗っ」


 パッと花が咲いたような笑顔で、一覧を覗き込むシル。

 見ることは出来ても触ることが出来なので、操作は俺がやっていく。


 ほうほう。

 なるほどねー。

 

 意外に可愛らしい系も好きっぽいな。


 「フードも似合うんじゃ、ないか」


 「フード?」


 「そうそう。これとかなっ」


 「えっとー、に、似合うと思うか? 」


 「ちょっと待てよ。動くなよーよっと、ホイホイっと」


 シルの画像を取り込む。

 そしてバーチャル試着でそのパーカを着せる。


 ポーズは何通りもあるので、ランダムに設定。


 「うわーなんじゃーっ。我がおるぞっ! あ、ジャンプっ」


 「なっ! 似合ってるじゃん」


 今日がダンバト前半戦の最終日であることも忘れ、笑顔を取り戻したシルの要望に応えて、朝方までパネルを操作し続けるのであった。


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