第13話 第三の神殿
第三の神殿は、『風の神殿』。
鮮やかな緑の草が生い茂る丘を登った先に、美しい白亜の神殿がそびえ立っていた。
神殿の背後は崖になっていて、その下を大河が流れている。来た道を視線でたどれば、ふもとにジオラマのような街並みが見えた。
「では、行ってきますね」
「はい。どうかお気をつけて」
いつも通りジークたちと別れ、一人で神殿に入る。
地の神殿と同じくらい天井の高い造りではあるが、そことは違って聖壇までの長い階段があるわけではない。
広い空間の真ん中に三段ほど高くなっている場所があって、そこが聖壇だと思われた。
(いやいや、あれが急にぎゅーんと天まで伸びてさあ上れと言われるかもしれない。今回はどんなドSな試練があるんだろう……)
恐る恐る、近づく。
階段を上り始めても何も起きず、無事聖壇にたどり着いた。
だが、まだ安心できないことは可憐にはよくわかっている。
「聖女可憐、風の神殿で祈りを捧げます」
『よく来たな、わが娘よ』
この声を聴くたび、ひどく憂鬱になる。
『そなたに力を授けよう。今回は“聖女の歌”じゃ』
天から、きらきらと光が降り注ぐ。
どうやら新たな力を授かったらしい。
「ありがとうございます、女神様。ところで、聖女の歌とは、どのような能力なのでしょうか」
『聖女の歌は、高く澄んだ声で歌えば人間に活力を与え、魔獣を弱らせる。曲や歌詞はなんでも良い。効果を及ぼせる範囲は狭く、人間がはっきりと歌詞を聞き取れる程度の距離といったところか』
ちょっと範囲が狭いけど聖女らしい能力キター! と内心ガッツポーズする可憐。
例えばこんな感じじゃな、と女神が『暇で暇で~仕方がないから~聖女で遊ぶ~』と美しい歌声で憎らしい歌詞の歌を歌う。
聖女で遊ぶとは何事だと苛立った可憐だったが、言ってもろくなことにならないのはわかっているので拳を握りしめて耐える。
ひとまず、高い音域で歌えばいいんだなということはわかった。
『ところで、わが娘よ。あの白い犬はどうじゃ。満足しておるか?』
「? はい。とてもかわいらしいです」
なぜ聖女の歌の話から急にメッシーの話になるのか。
嫌な予感しかしないと、可憐は身構えた。
『そうか。ならばもう一匹“ぺっと”がいても良いであろうなぁ』
「!! いえ、一匹だけでじゅうぶんで……」
『出でよ魔鳥』
「――!!」
ぽん、という音とともに可憐の足元に現れたのは、予想に反してインコのような小鳥だった。
黒い羽根がつやつやと美しく、小首を傾げる様がとても愛らしい。
(あれ、かわいい。普通にペットをくれただけ? でもこの色……嫌な予感が……)
『さて、聖女の歌のもう一つの効果じゃが。低く濁った声で歌うと、一時的に魔獣を活性化させ、人間を弱らせる。そなたには効かぬがな』
なんでそんな悪魔のような能力!? と可憐が叫ぶ間もなく、女神のデスボイスが神殿に響き渡った。
早口すぎてもはや歌詞など聞き取れない、
目の前の小鳥が、ムクムクと大きくなっていったのだから。
「わぁぁぁ!」
『空を飛ぶ分、黒狼よりは苦労するであろうなぁ。聖女の歌をうまく使いながら頑張るがよい。聖女の歌には魔獣を完全に無力化するほどの力はないから、聖女パンチで倒すがよいぞ』
その言葉を最後に、女神の気配が消える。
巨大化した黒い鳥の羽音だけが、神殿に響いた。
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