第12話 【魔力ヲ手ニ入レテ】

 ...眩しい。

 目の前が真っ白になる。

 あの時...校舎から飛び降りる時のように。

 でもあの時と違うのは。


 「声が聞こえない...。」


 あの時のように僕は瞼を開ける。

 そして今、僕の目に入ってきている白い光の正体...それは...


 「...日光かよ!そりゃ眩しいわ!」


 僕はちょうど朝日の指すところで気を失い、そのまま寝ていたのだ。


 「トイレの中で寝るって...もう一生しないだろうな...。」


 最悪の目覚めをした僕はまず、昨日あったことを頭の中で整理する。

 昨日は確か...

 1.裏路地で2人の孤児を助けて...

 2.数学と言語文化の授業を受けて...

 3.宇地原先輩と昼食を食べて...

 4.自習室に向かってる途中に殴られて...

 5.金盗られて...

 6.香角先生と色々話して...

 7.ここトイレで吐いて...

 8.屋上で謎の声に話しかけられて...

 9.屋上から飛び降りて...

 10.目を覚ましてここに戻ってきたら姿変わってて...

 11.壁殴ったら壁が砕けて自分は気絶した...


 「1日で一生分くらいの変化があったな...。」


 まあ、今まで学校でいじめられるだけの毎日だったからこれだけ変わってくれた方が嬉しいんだけど...。


 「って、学校!!今日、火曜日じゃん!」


 すっかり忘れていた。

 僕は腕時計を確認する。


 「うわっ。もう9時じゃん...。」


 僕は慌てる。


 「...いや?おかしいな...。9時だったら生徒の声が聞こえるはずだけど...。」


 そう呟き、僕は恐る恐る廊下を覗き見る。

 廊下には生徒どころか教師もいなかった。

 なぜだ?

 今日は確かに火曜のはずだが...。

 いや、今はこの方が都合がいい。

 とりあえず学校から出よう。

 僕は宝石を盗んだ泥棒のように校舎からこっそりと出ていく。

 学校を出た僕は昨日見つけた裏路地に向かった。

 あそこなら誰にも見つからずに休めるだろう...。



 例の裏路地に着くと僕はまず壁を背にして座り込んだ。

 まだ情報を完全には処理しきれていない。

 僕はスマホを開き、ニュースを見る。


 「なんだ...これは...。」


 思わずそう言ってしまう。

 ニュースは全て同じ内容だった。


 全人類が『魔力』を手に入れる


 まるでアニメのような話だが、それを証明するような写真が次々と出てくる。


 「ダメだ...。情報が多すぎる...。」


 僕はスマホをポケットにしまい、まずは自分の状況を整理することを優先する。


 「まずは魔力を使えるか確認しなきゃだな...。」


 僕は建物の方を向き、それっぽく右手を前に出してそこに意識を集中させる。

 体の中で右手に何かが集まってくるのが感じられる。

 昨日のような発熱は起こらない。


 「どんな魔法にしようかな...まあ、初めてだし軽く風でも出してみるか。」


 脳内で自分の想像を限定していく。

 形,強さ,方向,動き...全てを限定し、意識を右手だけに絞る。

 そして右手に自分が出せる全ての力を込めた瞬間...


 キィィィィィン...


 と凄まじい高音が耳を貫く。


 「うるさっ」


 と思わず目を閉じ、耳を塞いでしまう。

 しばらく耳鳴りが続き、それが止んで目を開けると...


 「やべっ...こんな強くしたつもりはないんだけどな...。」


 なんと僕が魔法で出した風は建物の壁を何枚も貫いていたのだ。


 「やっぱり魔力はそう簡単に使いこなせないか...。でも、自分に魔力が宿ってるって確認できたからいいか。」


 そう言いながら僕はまた壁を背にして座り込む。


 「でもこれだけ強い魔法を使うとバテるもんじゃないのかな...?そういえば、自分の魔力量とかわからないのか?まあ、流石にそんな便利ではないか。」


 その言葉を聞いていたかのように目の前に半透明で水色のパネルのようなものが現れる。


 「うぇ!?...なんじゃこれ...。」


 ステータス,マップ,アイテム,トーク...と次々に文字が出てくる。

 僕は試しに「ステータス」という文字を押してみる。

 きっと魔力量はここで確認するんだろう。


 「えっ...999999って...カンストっぽくね...?それともバグか?」


 僕は非常に高い魔力量を疑問に思いながら他のステータスも見る。


 「属性ステータスは全てLv.999...。やっぱりなんかおかしいぞ...。」


 そんなことを口にしながらパネルを操作していると...


 ドスンッ...ドスンッ...


 と低い音が聞こえてくる...。

 後ろを振り返ると、そこには大型冷蔵庫くらいの大きさで豚の顔をした生き物が二本足で立っていた。

 見た感じ、仲良く話し合える相手ではなさそうだ。

 きっとコイツは魔物ってやつだろう。


 「仕方ない...戦うか...。」


 僕は嫌々コイツと戦うことにした。

 まあ、僕の魔力を試すいい機会だしな...。

 さてと...


 「かかってきやがれぇ!」


 と僕が慣れない大声で叫ぶと魔物も雄叫びを上げる。

 いよいよ初戦闘...開始だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る