第4話
一旦、冥月で身だしなみなどを整えたメイルは冥月の中ににある廻し部屋へ足を運んだ。
廻し部屋というのは簡単に言えば位の低い遊女が二人以上お客の相手をする部屋だ。
今回は朝王宮にいたものだから仕事をもらっていないため、仕方なく仕事量の多いここへやってきた。
「(にしてもあの姫…何から何まで綺麗だったなぁ。また会って話がしたい…なんて)」
「おーおかえり、メイル」
舞姫の一人、リンランがやってきた。「鈴音太夫」と呼ばれている。
メイルからするとリンランは姉御的で、遊女の中でもダントツのしっかり者だ。
彼女は太夫で、遊女にしては細い体つきだ。
本人曰く、食べているのにあまり太れないらしい。メイルほどガリガリではないが、着物中に布を入れこまないといけないほどの細さだ。
シャープな顔の形で切れ目。だが、優しい眼差しでどこかに母親のような温かさも感じられるそんな表情をしている。
そしてなんとも彼女が奏でる三味線の音はなんとも力強い。腕力がないかわりに指の力が強く、三味線との相性も良かったようだ。
その魅力的な音とリンランの美しさに客は魅了されていく。
普通、舞姫のことをひがんだり嫉妬したりする遊女は一人くらいいるが、リンランの場合は日頃の行いは勿論、彼女の魅力を皆が認めてくれているお陰でそういったこともない。
「ただいまリン姉さん。大変だったんだよ、」
「あぁ、知ってるよ。良かったじゃないか」
「へ?」
「上級貴族様に気に入られて、持ち帰られて王宮なんかにお邪魔したんだろう?…で、ヤれたのかい?」
リンランはメイルの耳元でこそこそ尋ねた。
なんてにやっとした顔なのだろう。メイルの童貞卒業を嬉しく思っているのか、小馬鹿にしているのかよくわからない顔だ。
「なわけないだろ…」
まず考えてほしいのがメイルは男だ。BL展開なんてこれっぽっちも望んでいないし、そもそもベルザールにまだ性別はバレていない。
「まあそれもそうか。お客に性別もばらさないあんたが、そんなことまだするわけがないか。でも無事に戻れて良かったよ。前にもうちから王宮の敷地に呼ばれた子はいたが、帰ってきていない。…きっと」
「(性奴隷か。決して少ない話でもない)」
「そこらへんは安心して。一応男なんで」
「ふっ、そうだったね」
メイルの調子を見たリンランは通常運転の顔に戻って安堵したように肩をすっと下ろし、前で腕を組んだ。
「はあ、はあはあ…メイルちゃん最近たまってなあーい?♡」
冥月では最年長の花魁、リーシャが息を荒らしながら現れた。「夕霧花魁」と呼ばれる、「若紫花魁」リーリャの姉である。
ここは廻し部屋。基本、花魁などが立ち入る場所ではないが、リーシャは指名が来る時以外は基本毎晩ここで食われている。
性別を明かしている遊女ではメイルを唯一「ちゃん」付けで呼ぶ。
知っていてちゃん呼びをするのはメイルの美しい容姿は女にしか見えないので呼んでいるらしい。
リーシャは愛嬌よく振る舞い、誰よりもお客に忠実であるため冥月ではトップ二、ルージェス王国の色街では三本の指に入っている。
男好みの肉付きのいい体、さらさら靡く金髪、胸もリーリャと肩を並べられるほどで、お客の誘いを一切断らないことで有名だった。自分を安く売りすぎていつかその価値も下がってしまいそうで心配にもなる。
いわば質より量派の人間だ。
現在も進行型で接待中らしい。
ふすまから上半身だけ出してこちらを見ている。
上半身だけ見てもなにが先程まで行われていたのか察しがつくほどにぎりぎりの格好で髪も崩れているをしている。
「息切れ、やば」
「えへ…え…」
「…なんでてれてんの」
何だか頭が回っていない様子のリーシャはアホらしい顔しながら腕だけを使い、匍匐前進でメイルに近づく。裾がするする音を鳴らしながらゆっくりゆっくりと。
「メイルちゃんも思春期なんだからありのままになってもいいのよ~?」
「ちょっ……」
リーシャはメイルの下腹部へ手をねじ込ませて掴んできた。
流石の慣れた手付きでメイルは刹那で顔を赤らめ硬直してしまう。
その時―
「何してんだよほんと」
ずっと黙ってみていたリンランがやっと助け舟を出してきた。
けだるそうな表情でリーシャの腕を掴む。
「ええぇ?リンラン仲間に入れてほしかったの~?はやくいってよー」
「違う…」
リンランは掴んだ腕を離したあと、メイルをぱっと指さした。
リーシャも素直に指を指す方向へ視点を動かすと、
「……はぁはぁぁ、…」
激しく息が切れ、耳まで真っ赤に染め、体をびくびく震えさせたメイルの姿があった。
いつもの冷たい一面とは真逆。それになんだか明らかに色気が溢れでている。
これを意外な一面というのか。
「え?は?あの子見てクソかわいいぞ」
「あんな遊女いたっけ。タイプ」
「幼女であんな色気でるかあ」
先程までリーシャが相手をしていた客がざわつき始めた。
「メイルちゃんちょっときて…」
「まだ…はぁはぁ…た、たてない…」
「じゃあ!私がおぶってk…」
リーシャが何かを企み、我慢した様子でメイルに近づく。
頬も息も上がって興奮状態の犬のようだった。
「いい。あたしが」
リーシャの様子をおかしくおもったリンランは、リーシャを振りのけてメイルをお姫様だっこみたいにして持ち上げた。
「自分で汚してんだから掃除しておくんだよ。花魁になってから後片付けまともにしてもないだろ」
そんな言葉を残してリンランはメイルとともに去っていった。
ガタン。
扉の閉まる音が響く―
「触っただけであんなに…じゃあそれ以上したらどうなるのかなぁ♡ふふふ。いいこと知っちゃった」
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