第26話 最後のピース
俺の周りには、昨日よりさらに多くの紙の塚ができていた。これでも、表紙のある本は除かれていた。表紙があれば著者がわかるからだ。
俺は本の断片を翻訳して、魔王が書いたと思しき本を探すことになった。
しかし、紙の塚をひとつ、ふたつと消化しても、それらしき本は見つからなかった。魔王が封印されたとき、魔王の書いた本はすべて処分されたのだろうとトドルトさんは推測した。
「そんな状態で、センメルヌスの本はよく残ってましたね?」
「たしかにそうだね。でも他の文献にその名前が一切出てこないことから、相当忌み嫌われていたことは窺えるよ」
創立者である魔王を失ったあと、センメルヌスがどうなったのかは、どこにも記述がない。彼らが魔王封印について書いているのだから、しばらくは残っていたんだろうけど……。周囲から危険な集団と見なされて、やがて消滅したに違いない。
魔王の書いた本は見つからなかったが、魔王について書かれた断片はいくつか見つかった。まだ彼女が魔王と呼ばれる前に、神官オルセーア・アブサードについて書かれた文章だ。
「やはり優秀な神学者だったんだね」
とトドルトさんはしみじみしていた。
いずれも神学の本だった。彼女の発見した魔法や数学について言及されているのだ。
「君の言う通り、魔王も本を書いていたと考えられるね。この人たちは、その本を読んで、魔王の研究を知ったんだろう」
その本の断片でもいいから、この塚のどこかにないだろうか?
いくら魔王の本が処分されたとしても、誰か一人くらい、こっそり隠し持っていた人はいたに違いない。優秀な神学者の残した本なら、もったいなくて捨てられなかったはずだ。その一冊が、奇跡的に現代にまで残っている可能性は、ゼロじゃない。
しかし、そんな本は見つからなかった。
代わりに、センメルヌスのメンバーが書いた本の断片は見つかった。これで二つ目だ。
それは、どうやら日記のようだった。センメルヌスのメンバーも教会の関係者だ。彼らが書いた日記や日報が、教会に保存されていたのだろう。
俺は、昨日からずっとやっているのと同じ調子で、その文書を読み上げえた。
「『……その来訪者が言うには、そのような若者が近年増えているという。全く嘆かわしい。神がいないなんてあり得ない。だが我らが同志オルセーア・アブサードは、切り捨ててはならないと私に諭した。どんな者でも神の存在を確信できるように努力するのは、我々の務めだと。私は自分の未熟さを恥じた。……』」
俺が読み終えると、トドルトさんは首を傾げた。
「よくわからない文章だな……」
他の研究者の人達も集まってきて、口々に議論を始めた。
だけど、みんなの会話は、俺の耳にほとんど入っていなかった。
……俺は震えていた。
なんてことだ……。
これこそが、最後のピースだ。
この断片が、この文章が、すべての答えだ。
すべての謎をつなげ、一本の線にする最重要な情報。
これが……これが、真相だったんだ……!!
そのとき、部屋のドアが突然開いた。
ドアの向こうには、美法が立っていた。
「楯太郎。封印魔法が完成したぞ」
ざわっ、と室内が湧いた。
美法はその空気など気にせず、中に入ってきた。
「しかもついさっき、魔王の居場所も判明した」
なんだって、という声が、次々上がる。
美法は俺の目の前に立つと、腰に手を当てて、俺を見上げた。
「おそらく、明日には討伐に向かう。どうだ? 討伐隊に入る口実はできたか? それとも、私たちのあとをこっそり着いてくるか?」
なんというタイミングだろう。
「たったいま、口実ができた。ほとんどすべての謎が、解けたんだ」
「ほとんどすべて?」
俺はうなずいた。
すべての謎が解けたわけじゃない。でも、もう、ほとんど解けた。
「なぜ魔王は神の存在を否定したのか?
なぜ魔王は今でも魔法が使えるのか?
そして、なぜこの世界では、一度生まれた背理法が滅んだのか?」
「……え?」
美法は怪訝そうな顔をした。俺はそんな美法の肩を掴んだ。
「そして、ここから演繹的に、魔王を倒す方法も導かれる」
「はぁっ?」
「国王に謁見させてくれ。俺はこの推理で、討伐隊に入れてもらう!」
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