第22話「霊媒修行 開始!!」

第二十二話「霊媒修行 開始!!」


夜の闇が残る朝焼けの中、俺はスペーリと共に帳の人の車に乗せられていた。昨夜の出来事が頭を去来し、眠れぬ夜を過ごしてしまった。 霊媒修行の存在と、昇格試験という試練。この二つの発見は、俺の心を大きく揺さぶった。今になって思えば、人生の岐路に立たされていたのかもしれない。


「あ~、眠い・・・」


くしゃみ混じりの呟きが漏れた。スペーリは俺の膝の上で熟睡中だった。帰宅が遅かったせいで、スペーリに十分な愛情を注げなかった。その罪悪感が、さらに眠気を誘った。


「大丈夫ですか?」


運転席の女性の帳の人が心配げに声をかけた。


「はい、大丈夫です」


俺は眠気を振り払い、しっかりと答えた。


「佐藤さん、部屋から降りた時の目のクマが尋常ではありませんので本当に驚きました。無理はなさらないでくださいね」


帳さんは俺の疲労が気になったのだろう。優しい心遣いに感謝の念が湧いた。


「ありがとうございます。それより、この目隠しいつになったらとれるのですか?」


俺は気になることを切り出した。実は、車に乗っている際ずっと目隠しされたままの状態だったのだ。


「すみません・・・ただ、これから向かう所はとても古くからある貴重な修行場らしくて・・・なのでもしものことがあってはいけないので、行き方を覚えてもらわないよう目隠しをさせてもらっているんです。なので、合図があるまではとらないでいただけますか?」


帳さんは申し訳なさそうに説明した。今、車が走っているのは秘密の修行場へ通じる道中なのだ。


「分かりました。」


俺は、帳の人に遠慮をかけてはいけまいと条件を飲み込んだ。


「それと、修行場所まで着くのにしばらく時間があるので寝ててもいいですよ」


帳の人が、先程から俺のことを気遣った言葉をかけてくる。


「ありがとうございます。ただ、俺は仕事中は絶対寝ないと決めているんです。眠ってしまうともしもの時、対応するのに遅れるからです」


だが、俺はきっぱりとそう答えた。すると帳さんは感心したように言った。


「流石です・・・やっぱり霊媒師の方々が言う言葉にはしっかりとした決意が感じられます」


そう言って帳さんが後ろを振り返ると、俺はぐっすりと眠っていた。


「ありゃ・・・。」


帳さんは肩を落とした。


そして、数時間の時が過ぎた。


「こら、健斗、起きなさいよ」


ほっぺたを優しく叩かれる音と共に、誰かの声が脳裏に響いた。


「う~ん、もう少し寝かせてくれ・・・。」


夢うつつの中で俺は呟いた。するとその言葉に怒りの火がついたかのように、吐き捨てるように言った。


「何を訳のわからないことを言っているのよ!」


バシーン!その言葉と同時に、俺のほっぺたに激痛が走った。


「い、痛てー!!」


俺は飛び上がり、痛みに顔を歪めた。目の前には春奈とコンちゃんの姿があった。


「やっと起きた。寝すぎよ、まったく」


春奈は溜息混じりに言う。俺はほっぺたを撫でながら辺りを見回した。


「春奈?一体なんでお前がここに?それに・・・ここはどこ?」


周りは木々が生い茂る深い森だった。


「ここが、今日から一か月間私達のお世話になる修行場所よ」


一か月間の修行場所とは、まさかこの手付かずの自然の中なのか。俺は信じられない思いで尋ねた。


「俺はいつの間にこんなところに・・・?」


「あなたと喰犬は、帳の人の車内でぐっすりと眠っちゃって着いても全然起きる様子がなかったから、帳の人が頑張って運んできてくださったの。そしたら、途中で私と会ったから後は私に任せて帳の人には帰ってもらったわ」


春奈の言葉を聞き、俺は恥ずかしさで頬を赤らめた。迷惑をかけてしまったことに気づいた。


「悪かった、謝るよ。ただまさかここまで起きないなんて思わなかったんだ」


春奈は呆れ返ったように言った。


「分かった。それじゃ、今から集合場所まで行くわよ。ついてきて・・・。」


そして俺達は、さらに奥深い森へと足を進めていった。


登りつめた山道を行く中、ついに目的地が視界に入ってきた。


「見えてきたわよ」


春奈が告げると、そこには小さな木造の小屋が佇んでいた。年月を経た古びた外観に、小屋の周りは草木が生い茂る手付かずの風景が広がっていた。


「あれが、集合場所か?」


俺が尋ねると、春奈は小屋に向かいながら答えた。


「ええ、そうよ。ほら、とっくに集合時間が過ぎているんだから急いで入るわよ」


小屋の扉前に立った時、突如、背後に人の気配が迫った。


「まったく、相変わらず背後ががら空きだぞ」


ちょんっと、後頭部を指で押される。振り返ると、そこには天峰さんの姿があった。


「天峰さん、どうしてここに?」


「それはね、なんでもまた佐藤君達が修行っていう面白いことをしだしたから、任務をすぐに終わらせて様子を見に来たんだよ」


天峰さんはいつものように陽気な笑みを浮かべていた。そして背中を押され、小屋の中へと入っていった。


「うわ~」


中には生活用品が整えられ、快適な空間が広がっていた。


「ようこそ、健斗君達・・・。」


八重桜さんの優雅な口調が俺たちを出迎えた。トップクラスの霊媒師がこの山奥の小屋で、俺たちの指導を務めるという事実に、今でも信じられない思いでいた。


「八重桜さん、おはようございます。すみません、待ち時間に遅れてしまって・・・・。」


俺は挨拶と共に遅刻を詫びた。


「いいんだよ、来てくれただけでありがたいから。それより、それが君の喰犬?」


八重桜さんの視線が、俺の膝の上で丸くなっているスペーリに注がれた。


「はい、そうです。名前はスペーリです」


俺が答えると、八重桜さんはまじまじとスペーリを見て言った。


「へえ、この子がスペーリなのか。可愛いね。覚えておくよ、名前。」


八重桜さんの視線は、次にコンちゃんに移った。


「その子も、君の?」


俺に向けて尋ねる。すると春奈が『オホン!』とわざとらしく咳払いをした。


「この子は、私の喰狐です」


「そうだったの、ごめん。ごめん。悪気はないんだ」


八重桜さんは優しく詫びた。春奈は小さく頷くと、改めて口を開いた。


「あの・・・天馬は?」


八重桜さんはまた優しげに言う


「天馬君か...すると、スペーリとコンちゃんが突然玄関の方を向いた。何かに気づいたようだ。 そして、ドアが開き、遅れて到着した最後の修行生の姿が現れた。天馬だった。


「うわ、まさか俺がお前たちより遅く来るなんて...まじかよ」


天馬は自らの遅刻に嘆く様子だった。


「遅いぞ、天馬」


俺はにやりと笑みを浮かべながら言った。


「う、うるせぇよ!普段は俺の方が早いんだ。今日、俺より早く来たからって威張るなよ」


天馬は慌てた様子で反発心を燃やし、俺に反論した。 すると、二人の小競り合いに天峰さんが間に入った。


「まあまあ、いいじゃないか。一番も二番もさ。大の大人がこれしきで喧嘩するなよ」


天峰さんは俺と天馬の手を取り、ひらひらと重ね合わせた。


「これで、仲直りだ」


一瞬の沈黙が流れた後、俺たちは頷いた。


「わかりました」


天峰さんは満足げな笑みを浮かべた。どんな場面でも上手に空気を和らげる彼の手腕には感服するばかりだ。


「それじゃあ、仲直りも済んだことだし・・・修行の内容を話していいですよ、八重桜さん」


天峰さんの言葉を合図に、八重桜さんは頷いた。


一同は席に着き、いよいよ修行の内容を聞く時が訪れた。


「今日から昇格試験までの一か月間、健斗君達にはここで泊まり込みの修行をしてもらうよ。修行を教える先生は毎週代わっていくからそこは、しっかり覚えておいて」


八重桜さんの言葉に、春奈が手を挙げた。


「ん?どうしたの?」


「その、教える人が毎週代わると言いましたが、教えるのはいつも八重桜さんじゃないんですか?」


「なるほどね...確かに、本来ならいつも見といてあげたいんだけど、どうにも任務が多すぎてあまり対応できる暇がないんだよ」


八重桜さんは困った表情で答えた。


「そうですか・・・。」


春奈は落胆気味に返した。


「ただ、安心して。毎週来てくれる先生はどれも有名な実力者揃いの人だから、必ず力になるはずだ。それに、私だって絶対に来れないっていうわけじゃないんだよ。暇ができたらすぐに駆け付けるよ」


八重桜さんは俺たちを励ますように言った。そして話を続ける。


「それで、君達には三つの山場を乗り越えてもらう」


「三つの山場?・・・乗り越える?・・・。」


俺達は首を傾げた。


「分かりやすく言うと、健斗君達には修行中に三つのテストを受けてもらわなければいけないんだ。言っておくけど、一つ目のテストに合格しないと次のテストを受けれないからそこは注意してね」


俺は立ち上がり、八重桜さんに質問した。


「ちなみにそのテストの内容は・・・?」


「それは、主に『霊力』『運動能力』『頭脳力』だよ。この三つは霊媒師を続けていくうえで欠かせない三つの力だからね」


「霊力、運動能力、頭脳力・・・。」


俺は復唱した。春奈が口を開いた。


「そのテスト三つとも受けて合格したら、昇格試験が受けられる力を得るということですか?」


「まあそういうことかな・・・ただね・・・。」


八重桜さんは顔を曇らせた。俺たちも身構えた。


「実はこの三つのテストなんだけど、どれもとても難しくてね。上師ランクの人でも極めるのに困難を極めたらしいんだ」


「そ、そうなんですか...」


俺は恐る恐る返事をした。


「うん。だから、覚悟だけはしておいてね...」 一同が息を呑んだ。春奈が手を挙げた。


「あの...そのテストはいつ受けるんですか?」


「それはね、テストを受ける前にその力を極める修行を行うんだ。そして、先生方がその修行の成績を見て判断を行い、始めてテストを受けることに成功するんだよ」


「つまり、テストだけではなく、テストを受ける前の過程も大切になってくるんですね」


春奈の言葉に八重桜さんは微笑んだ。


「そういうこと。だから君達はテストだけじゃなく修行も頑張らなくちゃいけないんだ」そして、 八重桜さんは優しく言い添えた。


「ただ、何度も言うように君達は一人じゃない。君達を支える人が必ずいる。その方々には、君達がテストを受けれるように全力でサポートをしてくれるから安心してね」


「分かりました」


春奈が力強く頷いた。


「よし、ではこれから修行を始めるとするよ。準備はいいですか?」


八重桜さんの言葉に俺たちは大きな声で答えた。


「「はい!!」」


そしていよいよ、昇格試験を目指した俺達の決死の修行が幕を開ける。


・・・つづく・・・


今回のイラストは健斗達一行が、一か月間お世話になる修行場所の景色です。

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16818093079067578266





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