(二)-9

 彼は振り返った。いや、振り返ったのは大樹ではなかった。別人だった。

「すみません、人違いでした」

 そう小さく言うと、男性は「そうですか」と言い残し、前に向き直って階段を降りていった。

 冷静に考えてみたら、当たり前だ。彼は崎玉の実家の近くに住んでいるし、仕事も地元の不動産会社の営業だ。仕事で平日にこちらにくることはない。

 私は自分が乗るはずの電車のホームへ向かった。先ほど乗ろうとしていた電車はすでに行ってしまい、ホームは先ほどよりも空いていた。次の列車到着のアナウンスが屋根からぶら下がっているスピーカーから流れていた。そして刻一刻と人が増えるホームの列車待ちの列に並んだ。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る