第22話 夢想
彼女は年に見合わず色っぽい髪のかけ方をする。
セミロングの髪の毛を左へ流す姿は雫が落ちた水面のように心をざわめかせ、後ずさって逃げ去りたくなるような恥ずかしさを伴っている。
僕は彼女のいとこであり、友達であり、兄弟だ。いとこが実際の関係だが、兄弟のように過ごしてきた時間も長い。また、兄弟であるが、それ以上に砕けた友人のような間柄でもある。そう、そこから発展することを恐れている。
彼女には知られないようにと、16歳の年下の女の子にこの汚い欲望を見せまいと曖昧な笑顔ばかり見せる。5つも年下の女の子のブレザーを脱ぐ瞬間にときめいてしまうのだから飢えているのではないかと怖くなる。
よくうちに来る彼女は、ブレザーの上着や靴下を着いて早々脱ぎ、くつろいでるつもりだろう僕の隣に来て、勉強道具を出す。彼女の両親は安心しきって勉強を見てもらうの申し訳ないな、なんて言っていた。
「にい、この部分わからないんだけど」
数学の教科書を見せる彼女は純粋で、優しく教えるがその実身が入ってないのは僕だけなのだと思う。ただ、一つ言いたいのは今この向かっている教科書は僕だってあまり覚えていないということだ。5年も前の内容をそうそう思い出せるほど僕は頭が良くはない。
「それはね、えっと……」
教科書を砕いて説明するしかできない僕はそのまま順序を説明する。彼女は聞いているのかもわからない生返事で、難しそうな顔をする。
「にい、って真面目。昔はもっと距離が近くて砕けてたのに」
「勉強しに来てるってことになってるんだから、とりあえず教えるのは当然。それに聞いたのはそっちだろ」
「ぶー」
つまらなそうに教科書に向かうと、案外話を聞いていたのか、問題を解いて行く。それを見続けるのもなんだかこそばくて、僕は大学の課題の本を読み始める。必要ならいつも声をかけて来るのだから見る必要もないだろう。
「にい、にいってば」
ブラウスの布が僕に落ちている。ちがう、彼女が僕の上に乗っている。
「なっ!?」
僕は寝ていたのか、と状態を確認する。 僕は座ったまま寝ていたようで、彼女が僕の膝の上に乗っている。布が落ちていると思ったのは彼女の制服だ。
「人が勉強してる横で寝始めるのはずるいよ」
「その前に、年頃の女の子が人の上に乗るのははしたないよ」
「パパみたいなこと言うのやめてよ。私だって乗っていい人くらいわかるよ」
いや、でもーー。僕の言葉を彼女の手が止める。上目遣いで僕を見上げ、ひどいこと言わないで、と懇願している。動揺した僕は目を瞬きしながら、彼女の手を取る。
「どういうことか、さっぱりなんだけど」
「友達がね、言ってたの」
「うん」
「にいが全然私のこと女の子扱いしてないって」
「はあ」
「にいは、私のこと好きなんじゃないの?」
「好きだよ」
僕が言うと癇癪を起こすように、そういう意味じゃない!と僕をそのまま突き飛ばした。床に頭をぶつけ大きな音がなる。お人好しな彼女は慌てて、そのまま頭をかかえる。僕は起き上がると彼女の胸が目の前にあるものだから、やはり彼女は自覚がないのだと再確認した。
「君の望む意味の好きだからそういうのが困るんだよ。にいを困らせないで」
彼女は傷ついた顔をして僕を見る。きっとわからないんだろう僕の気持ちは。彼女の幼い恋心に傷をつけるしかできないこの思いはそのまま実らずに終わるのだと確信した。
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