第19話 蜘蛛と蝶(台本)

俺:いつしか彼女だけを目で追うようになっていた。蝶のように軽やかにいろんな花から花へと移る彼女は踊るようで。

俺:ぼんやりと見つめる彼女は学生なのに少し薄めの茶色の髪の毛で、可愛らしい声で笑っている。振り返って俺を見ると、少しずつ近づいていた。

彼女:「なあに?」

俺:「眺めていただけだよ」

彼女:「いつも勉強してるか、本を読んでるだけの浅野くんが?」

俺:「俺だってたまには賑やかなのがいいなと思うことだってある」

彼女:「ふうん。なら、こっちに来ればいいのに。みんな優しいよ?」

俺:「そうしたいところなんだけど、なかなかな」

彼女:「え〜じゃあ、私がここに来ればいいんだね」

俺「え!?」

彼女:「何、嫌なの?」

俺:「いや、嫌とかではなくて……」

彼女:「照れてるんだ」

俺:見透かすような彼女を見ていると、やはりお調子者で可愛くて、蝶のような子だと思った。気が向いたらきっとまた違うところへと飛んでいくのだろう。

俺:「羽が生えているみたいだね」

彼女:「羽?」

俺:「……っ!? そ、そう。羽」

彼女:「何で?」

俺:「蝶みたいだなって」(自信なさげに)

彼女:「そんなふうに思っててくれたんだ!嬉しいなあ。蝶だって。美人かなとかたまに思っていたんだけど、そんな風に褒められることなんてなかったから、嬉しい」

俺:「なら、よかったよ」

彼女:「でも何でだろうね、浅野くんも何かに似ているよね」

俺:「何かってなんだろう」

彼女:「思い出したら言うよ」

俺:それから少しの時が流れた。彼女、山田さんと僕は正式に付き合うようになるまではそんなに長い時間を必要としなかった。

僕:「山田さん……?」

僕:ぐったりと横たわっている山田さんに声をかける。

山田:「…………っ浅野くん!」

僕:僕を見つけ怯えたような顔をする山田さんは、怯えているのにもかかわらず、僕の腕を取った。

山田:「どこに行っていたの?」

僕:「どこって、学校だよ。山田さんは行かなくていいの?」

山田:「……これじゃどこにも行けないじゃない」

僕:山田さんの足を見ると足枷がついており、ベッド脇とつながっているようだ。繋がれている部分があかぎれており、可哀想だ。

山田:「外の世界は怖いのに、どうして置いて行ってしまうの。浅野くんがいなくなったら私耐えられない」

僕:「山田さん。大丈夫だよ。僕はここにいるから。ちゃんと戻ってくるよ」

僕:憔悴していく山田さんはまるで巣にかかった蝶のようだった。やはり美しい可愛らしいその姿は、僕を魅了して離さない。

山田:「……私ね、思い出したの」

僕:僕の肩に体を寄せながら言う。

山田:「きっと、浅野くんは蜘蛛に似ているわ」

僕:きっと、この関係はそもそも破綻しているのだろう。養分として山田さんを得る僕と、僕に殺されていくのを待つ山田さん。きっとそこには何も生まれない。

僕:「山田さんは幸せ?」

山田:「私は幸せだよ。浅野くんは?」

僕:「幸せだよ」

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