第21話



 「…おや。あなたは私の正体に気づいているようですね」



 男は、自分が“何者であるか”ということを認識していた。


 …でも、そんなのはあり得なかった。


 男は人間じゃない。


 俺にはわかっていた。


 俺はヤツらを知っている。


 ヤツらが“どこ”にいて、何をしているのか。


 小さい頃から聞かされてきた。


 俺は俺自身の家族を呪ったこともあった。


 俺の中にある「血」が、あの“事件”を呼び起こしてしまったことを——



 「誰、あの人…」



 くそッ



 わかっていた。


 こんな所に来ちゃいけないってことは。


 「幽霊」って言うのは、人間の魂が異形化したものだ。


 人は死ぬと、肉体と精神が切り離され、魂だけが地上へと徘徊するようになる。


 人の魂は霊界へと通じている。


 けど、生前未練を持っていた人たちや、死を受け入れていない人、憎しみや悲しみに取り憑かれている人、——そういった〈負〉の感情に取り憑かれている人の魂は、無事に霊界へと辿り着けずに地上を彷徨うことになる。


 彷徨い、放浪し、元の形や記憶すら失って、悍ましい怪物になる。


 「言葉」など扱えるヤツはいなかった。


 肉体を失ったものは、同時に知能も失う。


 残るのは本能だけ。


 「生」への、——渇望だけ。



 

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