第20話



 「…おやおや、お兄さん方、こんな所で何を?」



 直前までその“気配”を感じなかったのは、病院の中へと消えていく先生の姿を、夢中で追っていたからなのかもしれない。


 不意に聞こえてきたその声は、意識の裏側からやってきた。


 気が付かなかった。


 直前まで、誰かが近づいてくる足音すら聞こえなかった。


 それはヒロも同じだった。


 背後から伸びてくる異質な質感。


 その〈影〉を捉えたのは、声が聞こえてきた“後”だった。


 鼓膜の表面を掠めていく、鮮明すぎる音の向こう。


 咄嗟に俺たちは振り向いた。



 首筋の筋肉を揺らすように響く、——声。


 確かにそこに“存在していた”。


 にも関わらず、だ。


 振り向いた先には誰もいなかった。


 最初から、そこには誰もいなかったように。




 ザッ




 「ダメですよ。こんなところに来ちゃ」




 …なっ


 確かに今、「後ろ」にいた。


 間違えるはずなんてなかった。


 声は後ろから聞こえてきたはずだった。


 それなのに、その「声の主」は病院の方から聞こえてくる。


 反射的にまた、俺たちは振り向く。


 そこにいたのは、長い銀色の髪を下ろしている、黒いスーツ姿の男だった。


 目は紅く、鋭い。


 巨大なカマを背中に担ぎながら、草むらの上にゆらりと立っていた。


 「人」じゃない。


 それは間違いなかった。


 姿形は、明らかに人の〈カタチ〉を持っていたとしても。

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