第三話 「二人の猫」
あれから数日、俺たちは以前よりもよく話すようになり季節は夏となった。
「ねえねえ見てこれ」
古水はアルバムに向かって指をさす。
「もしかして愁くんですか?」
「そう、中学の頃の愁」
古水は笑いを堪えながら言う。
「なんてもんを持ってきてんだよ…」
「このときの愁くんは髪を上げてたんですね」
「そう!しかも毎日のように誰かと喧嘩してたんだよ」
耐えきれなかったのか古水が腹を抱えて大笑いする。俺は恥ずかしくなりその呪物を閉じた。
「もうおしまい!」
岸宮は「え〜」という顔をして残念そうにオレンジジュースを飲む。そんなに見たいものなのだろうか?
「はい、早くやるよ」
二人は「はーい」と言いペンを持った。そう、今俺達は夏休み前の期末テストに向けて勉強会を行っているのだ。
「きしみんここ教えて〜」
「ここはこれを使ってですね〜」
どうやらこいつらも仲良くなったようで俺は安心して深呼吸をした。最初の頃は心配で二人きりにさせないようにしていたがもう大丈夫だろう。そう思いながら俺は二人を見る。一方その頃…
「楓バイバイ!」
「うん!それじゃあね」
同じ剣道部の友達が手を振るので私も振り返す。私は放課後の部活動を終え家に向かって疲弊した足を運ばせていた。
「今日も疲れた…」
最近、夏になってからか防具の中が蒸れてとても暑い。そのせいかいつもより男子の視線がこちらに多く飛んでいる気がする。ほんと男子っていつもそうだ、そしてふと思った。
(お兄ちゃんもそういうの気になってたのかな…いや、お兄ちゃんに限ってそんなことはないか)
お兄ちゃんも私と同じで中学まで剣道を続けていた、しかし高校生になってきっぱりとやらなくなってしまった。私が理由を聞くと「お前が俺より強くなったから」と、いつも軽くあしらわれる。きっと私にも言えない何か深い事情があるのだろう。
「そんな事無いんだけどなー」
そうつぶやきながら私は家の扉を開けた。そして私はその現状に目を見開く。そこにはローファーが二足あった。
「女の靴?しかも2つ!?」
私は急いで階段を駆け上がりお兄ちゃんの部屋のドアを勢いよく開ける。するとそこには当たり前のように御代ちゃんと写真で見た岸宮さんがいた。私の脳はハテナで埋め尽くされていく。
「おかえり楓、今日ははどうだった?」
「…」
「おーい楓、大丈夫か? 」
俺は楓の目の前で手を振った。すると楓に思い切り腕を掴まれ部屋の外に引張出された。
「ど、ど、ど、どういうことなの兄ちゃん!?」
「あーそっか、お前には言ってなかったっけ」
「聞いてるわけ無いでしょ!!!」
楓は慌てた様子で大声を出す。
「私達あの一件から仲良くなったんだよね、きしみん」
「はい、そうなんです」
「ま、そういうことだ。言って無くて悪かっ…楓?」
楓は手をグーにしながらプルプルと震えている。
「そういうのは…」
「待て楓、そ、その忘れてただけで…」
「そういうのは先に言いなさーーーい!」
その後、俺は楓に説教を受けるのであった。そしてその日の晩のことである。
「ねえお兄ちゃん」
「なんだ?」
食事中、テレビを見ていた俺に楓が話しかけきた。見ると楓は先とは違い真剣な顔をしている。
「本当に御代ちゃん大丈夫なの?」
「本人がもう大丈夫って言ったから大丈夫だよ、お前が気にすることじゃない」
「わかった…」
「それが言いたいことか?」
楓は首を振る。
「私が言いたかったのは…」
楓がもっと深刻そうな顔をするので俺は少し冷や汗を掻いた。その次の瞬間、楓は衝撃的な言葉を発した。
「お兄ちゃん、水商売ってどう思う?」
「なるほど水商売……水商売!?お前なに言ってんだ、水商売ってあ、ああいうやつだろ?そんなのダメに決まってる、それにお前今中学三年生で来年高校一年生だろ?受験期じゃないか!お兄ちゃんそういうのは絶対に許しません」
「はい、長々とありがとうございました。そして話は最後まで聞くように」
「はい、すみません」
楓は「は~」とため息をつく、最近なんか楓に怒られてばかりじゃないか俺?そう思っていると楓は続きを話す。
「実は友達のお姉ちゃんが深夜どこかに出かけていつも朝方に帰って来るんだって」
「なるほど」
「それに、見覚えのないアクセサリーもよく身につけるようになったらしいの」
「まあ確かにそこだけ見たらそう疑うな、でもなんで俺に言ってきたんだ?」
「それが、その人お兄ちゃんと同じあぜみの2年生なの」
「あぜみの2年生ってことは俺と同学年か…名前は?」
「
「猫屋敷?」
「もしかしてお兄ちゃんでも知らない人?」
(いや、知らないはずがない、猫屋敷といえば岸宮の友達で尚且つ温厚かつ天然が彼女の特徴、そんな彼女が水商売だって?そんなこと有り得るのか?)
俺は楓にもう一度名前を聞いたが間違いはないとのことだ。そして俺は次の日の昼休み、岸宮と古水にこのことを相談した。
「どう思う?」
「う~ん少しもそんな素振りを見ませんけどね」
「それほんとなの?」
「猫屋敷の妹が言ったんだぞ?」
俺たちは頭を抱えて悩む、すると後から声を掛けられた。
「私に何かようですか〜?」
そこには猫屋敷がいた。猫屋敷はゆっくりと優しい声で話す。
「いや、猫屋敷さんは休日何してるのかなって」
「休日ですか?休日は家に猫ちゃん達が集まってくるので遊んであげてます〜」
「そうか、猫屋敷さんらしいね 」
猫屋敷は「えへへ」と照れる。
「愁くんは休日何してるんですか?」
「俺は………何してるっけ?」
「あはは、愁くんってやっぱ面白い人ですね」
猫屋敷はニコニコと笑う。その瞬間クラス中の怖い視線が俺たちの方向に飛び交う。俺の思い違いか分からないが女子の視線は猫屋敷の方に向いているように感じた。
「じゃあ私は行きますね!」
そう言うと猫屋敷は帰っていった。俺は「はあ〜」とため息をつく。
「やっぱ最近愁くんモテててますよね」
「わかる、女子の視線が変わったというかどっちかっていうか愁が変わった?みたいな?まあ愁は他のイケメン生徒に埋もれてるだけで顔は悪くないからね」
「それ褒めてるの?貶してるの?」
古水は続けて誰かに聞かれないようにヒソヒソと話す。
「もう直接聞くのはダメなの?」
「ダメに決まってんだろ、それに言っても肯定するわけないしな」
「でもこのままじゃ何もわからないままだよ?」
「じゃあこういうのはどうですか?」
岸宮は何かを思いついたように人差し指を立てた。
♢
放課後:
俺たちは岸宮の提案で猫屋敷の妹に直接会って話すことにした。すでに校門からは生徒たちがぞろぞろと下校している。
「もう帰っちゃってないかな?」
「楓にさっき聞いたから大丈夫だよ」
「前から思ってたんですけど愁くんと楓ちゃんって仲いいですよね」
「まあ母さんたちが年一しか帰って来なくてほぼ二人で生活してきたからな」
「憧れます、私一人っ子なので」
「え!?きしみん一人っ子なんだ、面倒見が良いからてっきり妹か弟がいると思ってた」
「えへへ、御代ちゃんはいるんですか?」
「私は双子の妹が二人、写真あるよ、見る?」
岸宮は古水の携帯を見る。すると校門から聞き覚えのある声がした。
「お~いお兄ちゃん」
声の方向には楓と楓の友人たちが居た。
「ねえねえ、お兄さんめっちゃかっこよくない!?」
「楓ちゃんとめっちゃ似てる〜!」
彼女たちの声により校門の周りがざわつき始める。それが大きくならないよう猫屋敷の妹を連れてファミレスに急いで向かった。
「まず紹介するね、彼女は
「こ、こんにちわ」
彼女は何処となく緊張しているように見える。それを見て岸宮が優しい声で話す。
「ごめんなさい姫さん、急に呼び出して話を聞かせろなんて失礼でしたよね」
「いやいや大丈夫ですよ、頼んだのは私の方なんですから、それに姫さんだなんて敬語はやめてください」
「それじゃあ姫ちゃんこれからよろしくね」
「はい!」
さすが岸宮だ、ほんの数秒で彼女の緊張を解いてしまった。
「古水とは大違いだな」
「なによ」
「な、なんでもないよ…それで姫ちゃん、さっそくなんだけどお姉さんのことを教えてくれないか?」
「はい、わかりました」
そして姫は話した、姉である空の事と空の異変について。
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