第13話 千紫万紅
リリーナさんが私をロビーのソファに座らせて、先程の猫耳の子に今いるクランメンバーを集めるように指示を出している。
依然として気怠そうにしているが流石にクランの主からの指示は従うようで、大きな欠伸をしてからトコトコと二階へと歩いていった。
「セレメアさん、好き嫌いはあるかしら」
食器棚から白いティーカップを取り出しているリリーナさんが声だけをこちらへ向けてくる。
「特には無いので大丈夫です」
「そう、良かったわ」
少し縦長のティーポットに水を入れリリーナさんが手を添えると、カタカタと蓋が踊りだし注ぎ口から湯気を洩らし始めた。
『魔法かぁ……』
お湯が作れる魔法が使えたのなら遺跡のキャンプで有用だったろうなと思いながら、リリーナさんが紅茶を作る様子をぼんやりと眺める。
紅茶のいれ方の作法はよく分からないけれど、一つ一つの所作がとても綺麗で洗練されているように思えた。
そうこうしているうちに、続々と二階からクランのメンバーさん達が降りてきてはソファに腰掛けていく。
まだ自己紹介もしていなきので、待っている間は少しだけ気まずい空気になると思っていたけれど、メンバーさん達同士でとりとめもないやり取りをしていて、とてもほんわかとした空気になっていた。
それに皆綺麗な人や可愛らしい人しかいないので、場の雰囲気がとても華やかだった。
「みんな、待たせたわね」
リリーナさんが、人数分のカップをテーブルに並べていく。
私の目の前にもカップが配られると、甘い香りが鼻をくすぐった。
キャンプで飲んでいたものよりも香りが強く感じる。
もしかすると良い茶葉を使っているのかもしれないけれど、多分飲んでも区別はつけられないだろうなと思った。
「それじゃあ、ひとまずこちらの自己紹介から始めましょうか。私は先程伝えたからもういいとして……誰からにしましょうか」
「それならカプからささっと済ませるにゃー。カプセラ=パストリスにゃ。主に斥候の仕事をしてるにゃ、よろしくにゃ」
最初にであった猫耳の子が、ぶかぶかの袖を上に上げて左右に降る。
「ソフレ=ライハルンだよ、後方支援が主な役割かな。よろしくね」
続いて、肩上までの長さの赤銅色の髪の女性が笑顔で声をかけてくれる。
綺麗というよりは明るく可愛らしいといった印象だ。
「ふふふ、ユフィ=シュナイル、このクランの中でも指折りの優秀な冒険者です。私にかかればどんな依頼も――」
「……クフェル=エメラルダ、斧戦士」
「まだ喋ってたんですけど?!」
「長い、うるさい」
深緑色の髪を持つドワーフの女性が、ユフィさんの話を遮って自己紹介をする。
ユフィさんが噛みついているけど、クフェルさんは気にしている様子は無い。
クフェルさんの肩をポカポカと叩き、薄紅色の髪を揺らしている。
また、ユフィさんは恐らく身体的特徴からカルアと同じライトルという種族だろうと推測できた。
「本当はまだ他にもいるのだけれど、仕事で出ていてね。今残ってるメンバーはこの子達よ。クランの雰囲気を把握するには、所属している子を見るのが一番分かりやすいかと思っていつもこうしてるのよ」
「なるほど……、確かにそうかもしれないですね」
実際今までのクランでは、そのクランの主の雰囲気でしか判断が出来ないような状態だった反面、ここは和やかな雰囲気だなと好感も持てている。
「このクランはね、皆仲良く家族のような関係を築いていければと思って運営しているの。他のクランとは雰囲気も違うでしょうけど、どうかしら」
「他のクランは既に廻ってきたんですけど、確かに雰囲気は違いますね。なんだか、柔らかいというかなんというか……」
「気に入って貰えたかしら?」
「そうですね」
「なら、ぜひうちのクランに入らない? セレメアさんならすぐに溶け込めると思うわ」
皆の視線がこちらへと集まって少しだけ気恥ずかしさを覚える。
さぁどうしようか。
今までのクランの中では一番好印象だし、何より家族のようなクランという言葉に惹かれていた。
私は少しだけ悩んでから、答えを出した。
「えっと、他のクランは既に廻っていて……その中でも一番良いと思ったので、是非このクランに入らせて下さい」
「ふふ……白百合の雫亭へようこそ、セレメアさん」
リリーナさんが目を細めて笑みを浮かべる。
その笑顔はとても蠱惑的で、思わず見とれてしまうほどだった。
「よろしくにゃー」
「一緒に頑張ろうね!」
「……よろしく」
「ククク、ついに私にも後輩が……」
クランの先輩たちも歓迎の言葉をかけてくれて、少しばかりくすぐったく感じる。
……若干一名は、違うような気もするけれど。
「それなら、自己紹介をお願いしてもいいかしら」
「はい、セレメア=ペルシクムです。得意技能は格闘術です。よろしくお願いします」
私が頭を下げると、三者三様に迎い入れてくれた。
「ククク、偉大なる冒険者である私の背中を頑張って追いかけてきてくださいね」
「多分すぐ抜かれるにゃ」
「志はもっと高いほうがいいと思いますよ?」
「……滑稽」
「さっきから私の扱いひど過ぎませんかね?!」
くだらないやり取りに思わず笑ってしまいながら、ふとキャンプでの日々を思い出した。
『ここならうまくやっていけるかも……』
こうして私の冒険者としての生活が始まった。
花咲く丘のセレメア ~遺跡にひとりぼっちだった私が幸せを掴むまでの物語~ 雨杜屋敷 @AmamoriYashiki
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