最終話【二十六歳】結婚式

 スーツに身を纏った俺は、卓志とその嫁さんが大勢の友人に囲まれているところを微笑ましく思いながら眺めていた。


 今日は卓志の結婚式で、結婚式後のフォトセクション終了後、みんなに囲まれているのだ。


「めっちゃ可愛いっ! 本当におめでとう」


「披露宴も楽しみにしてるね。恵梨香」


 囲まれているとは言っても卓志の友達は一人もおらず、気まずそうな笑い方をしている。


 何せ今日の結婚式に呼ばれている卓志の友達は俺だけだからな。


 流石に卓志が可哀想だったので、俺も卓志に声をかけに行くことにした。


「こんなにカッコよくなるとはな」


「デブでオタクだった時の方がカッコよかっただろ」


「今も昔も卓志はずっとカッコいいよ」


「頼音がいたからそうなれたのかもね」


「俺は何もしてねぇよ」


 そう言葉を交わしたところで、卓志は披露宴の準備のため嫁さんと一緒に裏へと戻って行った。


 そこから俺たち参列者は、披露宴会場が開場するまでウェルカムスペースで待機することに。


 たかだか十分程度とはいえ、あちこちにグループができあがっているこの状況で、知り合いもおらず一人で立っているのは居心地が悪く、俺は一人でくつろげるトイレへと向かっていた。


 はぁ……。卓志はもう結婚して式まで挙げたっていうのに、俺ときたら彼女も作らず何をやってんだか……。


 こうなったらなりふり構わず、卓志にもう一度女の子を紹介してくれと言うしかないのだろうか。


 いや、でもやっぱりそれはなぁ……。


 どうせなら中学時代に映画を見に行った時、横に座って大泣きをしていた女の子のような、社会人二年目で飲み会に行った時、横の大学生グループにいた気を遣える女の子みたいな、そんな女の子と自力で出会いたいものではある。


 まあそんな考え方のせいで二十六歳になっても彼女一人できていないんだけどな。


 そんなことを考えながらあと少しでトイレに到着するというところで、トイレの前に小さい男の子が立っているのが見えた。


 その男の子は泣きじゃくるわけでもなく、静かに下を向いている。

  

 俺はそんな男の子を何度も助けてきたのでわかる。


 あの男の子は間違いなく迷子だ。


 別に見て見ぬ振りをしたって誰にも怒られないんだが……。


 まっ、放っておくわけにはいかないよな。

 

「「お母さんどこかわかる?」」


「「--え?」」


 俺が声をかけると、お手洗いから出てきた女性が、俺と同じように迷子の子供に声をかけた。


 この女性は迷子の男の子を助けるべく声をかけたのだろう。 


 面倒臭いからと放っておいたって何も問題はないのに。


 その瞬間、俺はこの女の子にこれまで感じたことのないビビッときた感覚を覚えた。


 そしてそれが、映画館で大泣きし、サークルの飲み会で必死に場を回していた、俺が未来の奥さんだったらいいのにと想い続けていた女の子だったというのは、もう少し後にわかる話である。


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未来のパートナーを想い想い想い想い続けるお話 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

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