はじめに、悪意があった。

悪意は神と共にあった。神は悪意であった。
この物語の登場人物は悪意によって成り、
悪意に依らずに成ったものは何ひとつなかった。
悪意溢れる蠱毒の壺に、もうひとつ、暗闇のような悪意が生まれた。その暗闇は異物であった。
その異物が本作の主人公である。

悪意溢れる蠱毒の壺に、獣のような光が生まれた。目を焼くような眩い光であった。
それは周囲を焼き尽くし、闇の中を煌々と輝いている。異物たる暗闇は光を畏れた。一方でどうしようもなくその光に焦がれた。
その光が、本作のヒロインである。

暗殺者を産み出す教育機関を舞台とするこの小説には、常に逃げ場のない閉塞感が漂っている。常に背中に忍び寄る死の気配。抑圧、洗脳、謀略に塗れた環境で生き残るには、ただ、刃を研ぎ澄ますしかない。
命に尊厳などなく、使い潰される道具であるところの彼らは、血で濡れた道をひたすらに歩む。

これは、そんな環境に転生した主人公の悪意と自己保身の物語だ。
ストーリーもめちゃめちゃ面白いが、それ以上に戦闘が良い。
自由度が高く奥行きのある設定の能力が登場するが、万能というわけでもなく自由過ぎないのが良い。能力同士のぶつかり合いというわけでもなく、技術としての側面も大きいのも飽きがこなくて楽しい。
考察や検証、試行錯誤には読んでてとてもワクワクするし、妄想が捗る。
また、戦闘描写も非常に丁寧で、文章から滲み出る緊張感にはこちらの精神まで擦り減るような迫力があり、それでいて読む手は止められない。
練り込まれたストーリーと圧巻の文章力が相まって、読み進めるほどに夢中になってしまう。
アニメ化までありそうと思えるクオリティだが、媒体としては文章が最も映える。そのくらい圧倒的な描写だ。
ぜひ一読を。

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