第11話

浅井side


夏休みに入り月島先生と会う機会が減ってしまい、少し寂しく感じてる自分に驚いたのと同時にめっちゃ恋してんな~って笑えた。



しかも、月島先生とのレッスン日の前日はワクワクしてまるで遠足前の子供のように眠れなかった。



そうなるとやはり俺は…



凸「やべぇ!!寝坊した!!」



待ちに待った月島先生とのレッスン日だというのに寝坊した。



いつもの如く兄ちゃんの原付に跨り、アクセルを回すと焦りながら高校横の公園に止めてダッシュで美術室へ向かう。



じっとりとした真夏の空気に蝉の声が俺をさらに追い詰めていく。



息を切らしバタバタと大きな足音を立てて走り、美術室に着くと俺は軽く呼吸を整えて扉を開ける。



すると、数日ぶりに会う月島先生は椅子に座ったまま足を組んでウトウトとしていた。



また、眠ってる……



俺を居残りをさせた時も月島先生は居眠りをしていた。



その可愛い寝顔がまた見れる。



そう思った俺は額に流れる汗を手の甲で軽く拭き、足音をさせないようにゆっくりと月島先生の元に近づく。



一歩…また一歩。



近づけば近づくほどその寝顔がはっきりと見え、いつもよりあどけなく見える月島先生の寝顔に俺の心臓がドキドキとうるさい。



月島先生の前に屈んでマジマジとその寝顔を覗き込めばもう…俺は我慢の限界だった。



月島先生の艶やかな唇に目がいきゴクリと喉を鳴らすと、俺はまるで月島先生に吸い寄せられるかのように近づく。



ドキ…



ドキ…



胸がそう弾むごとに月島先生との距離が近づき、先生の寝息を感じるほどの距離になると俺は急に襲ってきた罪悪感から身体が止まった。



眠っている月島先生を至近距離のまま見つめていると突然、月島先生の目がパチッと開き、目の前に俺がいて驚いたのか月島先生の身体がビクッと跳ね…その弾みで俺の唇に月島先生の唇が重なった。



2秒?いや、もしかしたらもっと短かったかもしれない。



先生が俺の胸を強く押し、俺が少し後ろによろめいた事で俺たちの唇は離れた。



凹「ごめん…近くにいたからびっくりしちゃって…」



俺から月島先生に近づきキスをしようとしていたのに、何故か月島先生が俺に向かって謝り、俺の口元をハンカチで拭こうとするから俺はその手を払いのけた。



凸「俺が近づいたんで。」



それだけ言って心配そうな顔をする月島先生をスルーし俺は淡々と絵の準備をする。



決して好きと口にしてはいけない…



そんな雰囲気。



唇が触れ合ったのは事故だという事にしておけ…



そう天から俺たちを眺めている神様が言っているかのようだった。



俺は自分の気持ちを隠し冷静を装い何食わぬ顔をして絵を描いていき、出来上がったデッサンに色付けをしていくと月島先生は俺の手を持ち筆の動きを指導する。



しかし、以前だったら普通に出来ていたそんな当たり前の行動でさえ、唇が重なってしまった事で俺たちの中にはぎこちなさが生まれて、微かに月島先生の手が震えているのがわかった。



その時、俺たちの間には絶対に触れてはいけない何かが生まれてしまった…そんな空気だった。



レッスンが終わり、俺が帰り支度をしていると月島先生が俺に話しかけてきた。



凹「浅井くん……」


凸「はい…」


凹「……さ…さっきのことなんだけど……」



主語のない言葉なのにそれだけで何を示しているのかが分かってしまう。



俺は月島先生の言葉に返事をする事なくそのまま先生の言葉の続きを待っていた。



凹「ゴメン…なんでもない。」



月島先生は何を言いかけたのかそう言ってニコッと俺に微笑むと、先生は自分の机の上にある紙をまとめはじめたので俺が先生の代わりに言った。



凸「キスです。俺…月島先生が好きだからキスしようとしました。なのでこれから隙を見せないように気をつけてくださいね。」



俺がそう言うと先生はハッとした顔をしたまま固まっていて俺は先生を1人、美術室に残して教室を出た。



言ってしまった。



言ってはいけない雰囲気だと分かっていながら俺は耐えられず言ってしまった。



あぁぁあぁぁあ!!これからのレッスンどうすんだよ!!



俺はそんな事を思い頭を荒っぽく掻きむしりながら廊下の床に当たり散らしながら歩いた。



つづく

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