第5話

浅井side



帰り道、胸糞の悪い俺はだらだらと歩きながら、自分のご機嫌を取るように今日出会ったばかりの月島先生の事を思い出す。



あの性悪教師の佐々木とは違い、俺たちを頭ごなしに叱ったり、不良だと言う事で色眼鏡で見たりしなかった月島先生は、なんであんなに純粋な気持ちのまま俺たちと向き合えるのだろう?



不良たちに注意したり怒ったりする一生懸命な姿や、不良たちのおふざけを見て一緒にケラケラと笑っていた月島先生。



たった1日であそこまでみんなの心を開いた教師は初めてかもしれない。



そんな事を考えているうちに家に到着し、俺の機嫌も月島先生の事を考えたおかげで良くなっていた。



家に入りいつも通り母ちゃんにただいまも言わず部屋に入ってベッドに倒れ込む。



「ちょっと!陽優!帰ってきたならただいまくらい言いなさい!!制服でベッドに寝るな!!」



母ちゃんは思春期真っ只中の男子高校生の部屋だというのにノックもせずに部屋に飛び込んでくる。



はぁ~もし万が一、俺があんな事やこんな事してたらど~するつもりなんだよ。と心の中でボヤきゆっくりと起き上がると母ちゃんが俺の顔を二度見した。



「あんたどうしたのその顔。なんか…あった?」



そう言われて横にあるクローゼットについた姿見で自分の顔を見るが、いつもと何が違うのか俺にはさっぱり分からない。



凸「んぁ?何がだよ!!」


「頬っぺが真っ赤だからよ!あ…まさか…好きな子でも出来たんでしょ!?もうキスしたの!?お母さんに言ってみなさい?」


凸「はぁ!?ちちちちげぇし!!勝手に部屋入んなよ。ノックしろ!」


「なんなのよもう( ̄^ ̄)1人で育ったみたいに偉そうなんだから。」



母ちゃんはそう言って出て行くと、俺はまたベッドに仰向けで倒れ込む。



ぼんやりと見つめた天井には月島先生の笑った顔がふわふわと浮かんできて、俺は無意識にため息が出る。



凸「はぁ…なんでこんなドキドキしてんだよ…俺…」



そのドキドキの理由に薄々気づいているはずなのに、俺はまだ自分の気持ちに気づかないフリをしてクッションに顔を埋めた。



次の日



寝坊した。



いや、寝坊したのにはちゃんとした理由がある。



晩飯を食べている時も目の前にいる母ちゃんが月島先生に一瞬見えて殆ど喉が通らず…



風呂に入っても湯気にフワフワと月島先生の顔が浮かび…



のぼせた俺がベッドに横になれば月島先生の顔が天井に浮かぶ。



慌てて目を閉じても瞼の裏には月島先生が張り付いていて俺が結局、眠りに落ちたのは朝の5時ごろ。



気づいた時には時計の針は9時を指していて、飛び起きて慌てて制服に着替え、家を飛び出すといつもは歩いて行く学校へ、兄ちゃんの原付に跨りメットを頭に引っ掛けて向かった。



なぜならば1限目と2限目は確か週に一回ある美術の授業でその先生が担任でもある月島先生の授業だから。



全然スピードのでないポンコツ原付をぶっ飛ばし学校に向かっていると突然!



道路に子猫が飛び出してきて、慌てて急ブレーキを掛けハンドルを切ると、俺は滑り込むようにしてスリップし原付ごと転んだ。



いってぇ………



身体に激痛が走るなか顔をあげると、子猫はニャーっと鳴きながら俺の様子を眺めていた。



ゆっくりと起き上がると、微かに学生服のズボンが破け手のひらから血が出ていたが、俺は原付をお越しまた、跨ると学校まで急いだ。



学校横にある公園でバレないように原付を停車し、学校の門をよじ登って中に入るとコソコソと身を低くして校舎の中を移動し、美術室へと向かう。



ゆっくりと美術室の窓から顔を覗かせると、いつもは美術なんて興味のない不良達がなぜか大人しく座って静かに絵を描いていた。



珍しい…



そう思いながらゆっくりと扉を開けて中に入り、何事もなかったかのように自分の席につき、みんなが描いているモデルの対象を見て俺は思わずアゴが外れた。



え…月島先生がモデル!?



円を描くように机を並べて、いつもはやかましい不良だらけのクラスメイト達は、円の中心にいる月島先生をじっと見つめてクソ真面目な顔をしてデッサンしている。



おいおい…お前たちデッサンなんて今までしたことなかったじゃねぇか!!と心の中でツッコミながら鉛筆を取り出し、俺も何食わぬ顔をして月島先生をデッサンしようと鉛筆の先を紙に滑らせた瞬間。



凹「はい!約束通り10分間モデルになってあげたんだからあとはちゃんと想像してイメージ通りのデッサンを仕上げること!!」



月島先生はそう言って立ち上がりそう言うと、クラスメイトのみんなは月島先生がモデルじゃなきゃやる気が出ないとあちこちでブーブーと文句が飛び交うが、月島先生は笑って誤魔化し、俺の顔を見てアッとした顔をする。



俺は遅刻がバレたと顔を背けると月島先生はそんな生徒たちをあしらいながら俺の元に来た。



凹「浅井くん遅刻!!隠れて入ってきてもバレてますよ!!」


凸「…すいません。」



遅刻が初めてなわけではない。



なんなら殆どが遅刻だったし、今までの担任だったら少し反抗的な態度を取り睨めば遅刻扱いにせず出席日数にも響くことはなかった。



しかし、なぜか月島先生にはそんな反抗的な態度を取ることが出来なかった俺を周りの生徒たちは面白がり揶揄ってくる。



そんなお前達もなんだかんだ言いながら、月島先生の魅力に気づきはじめて今まで真面目に描いたことのない絵を描いてたくせにと心の中でボヤいていると、突然…



月島先生が俺の手を握り俺の心臓はドキッ!!と返事をし、周りの生徒たちはヒューヒューと言って俺たちを冷やかす。



凹「浅井くん怪我してる…ここも…」



月島先生は俺の手を両手で包み込み心配そうな顔をすると、足の傷も見つけ少し破けている学生服を指先でそっと撫でた。



本当なら触れられて痛いのは怪我をした場所のはずなのになぜか、俺の胸のほうがギュッと締め付けられるように痛くて、心配そうにまつ毛に影を落とす月島先生の顔に見惚れてしまう。



凹「みんな今から自習ね!!先生が戻ってくるまでここで大人しく絵を描いておく事!!分かった!?」



月島先生はそう言うと俺の腕を引き立ち上がらせて美術室を出た。



途中、後ろを振り返るとクラスメイト達はニヤニヤしながら俺のことを見てくるから、殴る真似をするとみんな笑いながらデッサンの続きをし始めた。



凹「今日ね、保健室の先生が出張でいないから先生が手当てしてあげるね。」



月島先生はそう言って俺の腕を掴んだまま俺を保健室に連れて行った。



つづく

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