第4話 大ロシア帝国

 モスクワに拠点を置く武装集団『大ロシア帝国』。

 かつて存在したロシア帝国を復興させるのが目的の組織だ。

 その代表者がイヴァン=ロマノフ。

 自称ロマノフ王朝の末裔である。

 彼は苛立っていた。

 元々、彼はロシア軍の少佐であった。

 若き将校はかつての祖国に憂いていた。

 政府は権力に溺れ、行政は腐敗していた。

 軍も規律が乱れ、戦局は悪化の一途を辿った。

 彼はそんな祖国を見限り、かつてのロシア帝国復興を目指した。

 彼に賛同する者は意外に多かった。

 亡国となりつつある祖国を見限る者は多勢だったのだ。

 そして、彼らは蜂起しようとした。だが、その時には祖国は地図から消えていた。

 世界から交渉の余地無しと、政府中枢、行政中枢を徹底的に破壊され、モスクワはクレムリンを中心に破壊され尽くした。

 今は廃墟の跡に大ロシア帝国の拠点となる掘っ建て小屋があるばかりだ。

 今のロシアにまともな産業など何も無い。すべては破壊され尽くした。

 昔ながらの農業が食料を支えている。だが、生き残った国民の全てを贖えるわけじゃない。殆どの国民は難民となり、世界から支援され、生かされているだけだ。

 大ロシア帝国の資金源は武器と薬物。

 本来なら鉱物資源などもあるはずだが、鉱山資源の多くは先の大戦の勝利国が管理している。農業や水産業だけは残されたが、水産業に関しては、沿岸部分だけとなり、水産資源の多くも隣接する国に奪われている。

 つまり、この国には何も残されていない。

 そもそも大ロシア帝国は諸外国や国際機関からも国と認められていない。

 諸外国は彼らをただの武装勢力の一つだと認識している。

 事実、彼らを討伐する為に幾度か、軍隊が派遣されている。

 日本は管理地域において、彼らの存在を許さないと公言し、討伐を表明している。

 それはイヴァンにとって、忌まわしい事だった。

 彼は日本を敵視した。

 無論、他の諸外国も同じだが、特に牙を向け続ける日本には激怒していた。

 その為、大ロシア帝国軍には対日本攻略隊が設立されていた。

 彼らの目的は日本が管理する極東地域の奪還と、日本に対する攻撃であった。

 その部隊を任されたのが、ミーシャ=トロイツキーであった。

 元ロシア陸軍大佐であった彼は旧ロシア兵器を搔き集め、兵士くずれやゴロツキを集めた部隊を徹底的に鍛え上げていた。

 白系ロシア人の優男と言った風情の彼だが、目つきは鋭く、大抵の人間はその雰囲気に圧倒される。

 近付けば切られる。そんな雰囲気が彼から漂っていた。

 「さて・・・我々には空が無い。ドローンさえも飛ばせない現状。大軍を動かせば、即座に察知され、叩かれるだけ」

 ミーシャは地図を眺めながら、独り言を呟く。

 地図の上には部隊を示す木製の駒が置かれている。

 「敵の所在は解っているが・・・長距離攻撃能力は圧倒的。どうしたらいいのか」

 彼の悩みは対日戦であった。

 極東地域の奪還の為には駐屯する敵部隊を殲滅、または撤退させ、諦めさせる事だ。現状において、日本も物資、人員不足なのは明らかだ。一度、海の外へ撤退すれば、再侵攻はすぐには出来ないはずだと踏んでいた。

 「どうすれば良いものか・・・」

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D.O.G~わんわん大戦争~ 三八式物書機 @Mpochi

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