たまごと共に目覚めた朝は

十三岡繁

たまごと共に目覚めた朝は

 僕が朝目覚めると、ベッドの横にある机の上には卵が置かれていた。大きさは普段見慣れている鶏の卵よりは随分と大きい。色も白くはない。赤とか緑とか結構な極彩色で変な模様が入っている。なんだろう、弟のいたずらだろうか?


「かおる~!もう八時よ。あんた八時に起こしてって言ってたでしょう」

 ドアの向こうから母の声がした。そうだ今日は舞と映画を見に行く約束をしていた。舞は隣の家に住む僕の幼馴染だ。仲はいいが彼氏彼女というわけでは無い。向こうは僕の事を男と思ってはいない節がある。しかしまぁ僕の方は憎からず思っていたりもする。そのあたりははっきりとさせないまま、いつのまにか二人とも高校生になってしまった。


 彼女は九時に迎えに来ることになっていた。時計は八時を指している。僕はあと一時間で支度をしなければならない。


「もう起きてるよ!」

 僕はドア越しに母に返事をしたところで違和感に気が付いた。声がおかしい。風邪でもひいたんだろうか。そうして着替えてから朝食をとろうと、クローゼットの折れ戸を開いたところで驚いた。


 その中には女ものの服がずらりと並んでいたのだ。しかし下に置いてある引き出し収納の中を見て更に驚く。その中には女物の下着が、ぎっしりと詰まっている。あわてて部屋に置いてある姿見の前まで行って、自分の姿を確かめる。

 そこには確かに自分が映っている。しかしそれは男ではなく、どう見ても女の姿に見えた。僕が事態を理解できずに固まっていると、部屋の中に母が入ってきた。


「ほら、週末に制服洗うんでしょう? 持っていくわよ」


 ドアの上につけたフックにかかっている制服は、どう見ても女子生徒用だった。そうして母は女になった僕の姿には特段驚いた風でもない。


「もう早くご飯食べちゃいなさいよ」

 そう言い残して母は部屋から制服を持って出ていってしまった。


 部屋の扉が閉まってから僕が机の方を振り向くと、そこには一人の男が立っていた。上下ともに黒いスーツを着て、頭にはシルクハットを被っている。


「すいません。イースターエッグを落としてしまいました」


 男は右手を胸に当てて、深々とお辞儀をしながらそう言った。


 イースターエッグなら知っている。ゲームなどで制作者が組み込むイタズラのようなものを指す隠語だ。


「驚かせてしまいましたね。すぐに元に戻しますから」


 ようやく僕には事態が飲み込めた。一連の出来事はこの世界にしかけてあったイースターエッグの仕業らしい。


『ん? この世界はゲームってこと?』

 色々と疑問はあるが、今はもっと他の事に興味をひかれていた。そうして僕は男に向かってこう言った。

「いや、慌てなくてもいいですよ。折角なので色々と試してみたい事もありますし……」


★★★


「笑っているように見えるわね」

「そんなわけないだろう。かおるはあの日から完全に意識不明なんだ。しかしまさか隕石が家を直撃するとはな……、でも命が助かっただけでも奇跡だった」


「あの卵型の隕石は慌てて政府機関が持っていったけど、『心配しなくても大丈夫ですよ』っていうのは、どういう意味だったのかしらね」


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