帰郷

 カサンドラへの荒れた街道は森に呑み込まれつつある。

 ほとんど蔓に覆われた煉瓦道を歩いていると、足元で、雑草に押し上げられて割れた煉瓦がぼこぼこする。


 いまも僕が不死者として得た「能力」ははるか南、東都の穿月塔を指す。しかしそれはローラのいる方向ではなかった。彼女を探すのは振り出しに戻ったも同然だ。

 出会った場所で再会……とまでいかなくとも、せめて過去に手掛かりはないか? それが北都郊外の故郷を訪ねる理由だ。

 また、故郷の町や周りの村を囲む森のどこかに……僕がローラに救われた、あの場所があるはずだ。


 僕自身は地元のことを思い出せていない。

 なので後付けの知識だが「廃坑の町」と呼ばれるカサンドラは、かつては魔晶石の鉱山街として森を切り開き山を削って栄えたという。鉱脈が尽きるとともに寂れていった町だ。

 

 道の両側から木々の枝や地衣類が垂れ下がって見通しがよくない。昔は広々とした道だったのかもしれないが、今は藪が茂って自然の地面との境目も分からない。まだ夜明けではないが、昼なお暗いとはこのことだ。

 しかしその暗さは僕にはなんともない。

 狼などもうろついているだろうが、不死者は肉食獣に少なくとも餌食としては狙われなくて済む。


 やがて目を疑うようなものが見えてきた。

 思えば、町の外から入口越しに中を見ようとしたのは本当に初めてかもしれない。

 それにしても、だ。


 道の左右に、蔓植物の塊がそびえている……町の入口の門らしい。ここから見るだけでは人が住んでいるのかどうかも危ぶまれる寂れようだが、住人はいるはずだ。

 エレンの話や一部取り戻した記憶に照らすと、少なくともこの春まではカサンドラ自警団が存在していたからだ。


 僕がかつて所属していた……何故かは分からない。

 はじめは自警団も魔人狩りに関わっていなかったか、あるいは僕に何かやむにやまれぬ事情があったのか?


 確かなのは、僕は歓迎される立場にないということだ。腰のベルトに差したナイフの重みを確かめながら門をくぐった。




(続く)



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