逃した悪霊 その③
花壇に突っ込んできた車は、猛スピードでバックし、3人の方に向かって方向転換を行ったであろうタイヤが擦れる音が3人の耳に伝わって来た。
百合 黄泉
『逃げるわよ!』
朝顔 紫月
『うん!』
3人は慌てて立ち上がり、花壇から急いで離れた。
その直後、3人の隠れていた花壇に車が猛スピードで衝突し、3人が走りながら花壇の方へ振り返ると、花壇の一部は跡形も無く破壊されていた。
百合 黄泉
『危機一髪ってところね。』
朝顔 紫月
『うん。』
冷静な2人を他所に、紫月の服の裾を握り青褪める橙羽。
そんな中、車は再び猛スピードでバックすると、3人の方へとハンドルを切った。
その光景を眺め、再び白と黒に彩られた球体を握りしめる3人。
朝顔 紫月
『少しでも時間を稼ぐ為に、散らばった方が良さそうだね。』
百合 黄泉
『そうね。』
日廻 橙羽
『えっ、バラバラに動くの⁈』
百合 黄泉
『いざとなったら、その球体を崩しなさい!』
『自分の身は自分で守るの。良いわね!』
日廻 橙羽
『そんなぁ〜(涙目)』
そんな中、男は3人の方へ向かってアクセルを強く踏み込んだ。
3人は慌てて車を避け、紫月は車から向かって右側へ、黄泉と橙羽は車から左側の方向へと走り出した。
車は一度、直線を描く様に真っ直ぐに壁に衝突した後、黄泉と橙羽の方へ向かってハンドルを切り、再びアクセルを踏み込んだ。
朝顔 紫月
『黄泉ちゃん!』『ヒマワリちゃん!』
不安そうな顔で2人の方を眺め、2人の方へ走って行く紫月。
黄泉と橙羽は駐車場から道路へ飛び出し、駅側とは反対の方向に向かって走っていた。
日廻 橙羽
『何であっちは駄目なの?』
百合 黄泉
『向こうには塾があるでしょ。』
日廻 橙羽
『でも、もう塾は終わってるよ!』
百合 黄泉
『よく塾の前で長時間屯している連中が居るのよ。』
2人が走りながら会話を交わしていると、後ろから物凄く大きなエンジン音が聞こえてきた。
その音に対して怖々と振り返る橙羽。
男の乗った車は、先程よりもスピードを上げて追い掛けてきていた。
日廻 橙羽
『もう無理!』『あんなスピード逃げ切れない!』
百合 黄泉
『だったら目の前にある坂をかけ上がりなさい。』
橙羽が周囲に目をやると、目の前の道路は左側へ曲がっており、右側には山壁、目の前の道路を左折せずに道路から外れ草っ原を少し進んだ先には1m程の小さな坂があった。
日廻 橙羽
『ユリちゃんは・・・。』
そう言いながら橙羽が黄泉の方へ振り向くと、黄泉は車の方に振り返り立ちはだかっていた。
日廻 橙羽
『ユリちゃん、何してるの‼︎』
橙羽が黄泉の方へと近寄ろうとした瞬間、周囲を霧が包んでいることに気がついた。
黄泉の足元には、破損して霧が上がっている白と黒に彩られた球体が転がっており、黄泉は車に向かって拳銃を構えていた。
日廻 橙羽
『何してんの!』『撃つの?』
百合 黄泉
『見たら分かるでしょ。』
そう言うと黄泉は、車の左の前輪に向かって銃弾を2発打ち込んだ。
銃弾は見事に2発共、車の左側の前輪に撃ち込まれ、タイヤが破損した車は道路の右側にある山壁に向かって突っ込んでいった。
車の方を睨みつける黄泉と、黄泉を眺め震える橙羽。
そんな中、黄泉と橙羽の側に黒色の高そうな車が止まり、車の後部座席から葵、白華、朱珠の3人が降りてきた。
3人の少し後を如月警部が降りて来たのだが、先程の電話で聞いた熱の籠ったハキハキした声とは違い、青白い顔をしていた。
百合 黄泉
『遅いわね。何してたのよ。』
林藤 白華
『御免ね。少し混んでて。』
そんな中、如月警部は相変わらず青白い顔をして、小さな声でボソボソと何かを呟いていた。
それもそのはずである。
幸い白と黒に彩られた球体の効果で犠牲者は出なかったものの、今日1日で事件に関わった4台もの車が破損してしまった訳だ。
少なからず、葵達の所属するblancと如月警部に対して、何らかの責任問題が応じるのは目に見えていたのであった。
如月警部を眺める朱珠。
神原 朱珠
『なあ、葵ちゃん。 警部さん大丈夫なん?』
綾女 葵
『人間、何だかんだ乗り越えて行くものよ。心配は要らないわ。』
林藤 白華
『まあ、私達も他人事では無さそうだけどね(苦笑)』
百合 黄泉
『OK出したのは警部さんなんだからね。私は、知らないわよ。』
そんな話しをしていると、葵達の所へ紫月が走って来た。
息を切らす紫月。
林藤 白華
『大丈夫?』『無理させちゃって御免ね。』
朝顔 紫月
『大丈夫!』『それより男の人は、どうなったの?』
壁面に追突した車の方を眺める白華。
白華の目線を追う紫月。
衝突した車の運転席が開き、先程の男が葵達の方を凝視しながら降りてきた。
百合 黄泉
『しぶといわね。』
綾女 葵
『話しをして解決できる問題では無さそうね。』
神原 朱珠
『そんな場合は、どうなるん?』
怖々と朱珠が葵に尋ねる中、橙羽はどさくさに紛れて朱珠の左腕にしがみ付いていた。
綾女 葵
『刀や拳銃を支給されているからといって、私達の独断で刀を振るったり銃を乱射することはできないの。』
神原 朱珠
『じゃあ、どうするん?』
『早よせな、あの人、こっちに来るんやないん?』
林藤 白華
『一応、車の中でヨツバちゃんに許諾を得る為に連絡を入れたんだけど、返事がまだ来ていないみたいなんだ。』
神原 朱珠
『ってことは、それまでどないするん?』
綾女 葵
『あの目を見た限り、もう私達を逃す気は無いみたいだから、身を守りながら闘うしか無さそうね。』
神原 朱珠
『闘い!』『嘘やろ!』『怖いねんけど!』
百合 黄泉
『あんた、何しに入社したのよ・・・。』
呆れる黄泉を他所に、男は少しずつこちらに近寄ってきているのであった。
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