spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~[1]
七瀬 ギル
吹き返す呼吸 その①
10月のとある土曜日の正午過ぎ、学校の屋上の手摺りを乗り越えて真下を眺める少女の姿があった。
少女の名前は、神原 朱珠(かんばら すず)。
彼女は5ヶ月前に大阪から、この小さな町に転校してきた高校1年生の少女である。
元々、元気で明るく常にクラスの中心にいる存在だったのだが、転校してからは酷い虐めに合っており、誰にも相談することができず、気を病むことが多くなっていた。
神原 朱珠
『母ちゃん、ごめんな。』
『私もう無理やわ。耐え切れへん。』
真下に見える地面を眺めながら、そう呟く朱珠。
朱珠はこの日、自らの命にピリオドを打つ為、屋上に立っていたのであった。
そんな中、朱珠の背後から、一人の少女が抑揚の無い口調で語りかけてきた。
謎の少女
『死ぬの?』
神原 朱珠
『ひぃ!』『ビックリした!』
『あんた、いつからそこに居ったん?』
朱珠が振り向くと、そこには青色の長い髪を靡かせた綺麗な顔の少女が立っていた。
謎の少女は、朱珠の問い掛けに反応することもなく、再び語りかけてきた。
謎の少女
『死ぬなら"その体"使わせてほしくて。』
神原 朱珠
『もしかして、あんたもあの子達の仲間なん?』
『悪いけどエスカレートしていく虐めには、もう耐えられへんねん。』
『それに私、犯罪までは起こしたくないんよ。やから、ごめんやけど諦めてな。』
謎の少女
『何を言っているの?』
『私は、あなたの体を少し借りたいだけ。勿論、生きているあなたの体をね。』
『もしも私が、あなたを虐めから救うことができたら、私に協力してくれる?』
精神的に弱っていた朱珠は、その少女の「救う」という言葉に感銘し、気がつけば目には大粒の涙を浮かべていた。
神原 朱珠
『私を助けてくれるん?』『あんがと。』
謎の少女
『それじゃあ、契約成立ね。』
そう言うと謎の少女は、左手に隠し持っていた、ピンポン玉程の白と黒が半々に彩られた球体を足元へ落下させた。
球体は地面に接触した部分が粉々に崩れ、中からは黒い煙が溢れ出し、一瞬で辺りはモノクロ写真のような景色へと変貌していった。
神原 朱珠
『何なんこれ?』『怖いねんけど!』
周囲を見渡しパニック状態の朱珠の元へ、表情一つ変えることなく、謎の少女が近寄ってきた。
謎の少女
『大丈夫よ、この空は怖くないわ。』
『この空は"希望"なの。』
そう言うと、謎の少女は朱珠の両肩に両手を添え、朱珠を屋上から突き落とした。
神原 朱珠
『えっ!』『ちょっ!』『嘘やろ!』
体が宙に舞う中、朱珠は涙を流しながら、何事も無かったかのように屋上を去っていく謎の少女の背中を眺め考えていた。
神原 朱珠
『(今まで希望なんて無かったのに、急に救世主が現れるなんて虫が良過ぎんねんな。少しでも人を信じた私が馬鹿やったわ。)』
『(最後に母ちゃんの声、聞いといたら良かった。母の手一つで育ててくれたのに、ごめんな。)』
『(私、母ちゃんの娘で、ほんまに幸せやったで。)』
短い時間の中で、様々な感情を抱きながら、大きな音と共に朱珠の体は地面に叩きつけられたのであった。
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地面に仰向けになり空を眺める朱珠。
朱珠は体に激しい痛みを感じながらも、擦り傷一つ無い状態で生きていたのであった。
そんな中、屋上から降りてきた謎の少女は、再び朱珠の元へと近寄ってきた。
神原 朱珠
『この灰色の景色が何か関係してんねやろ?』
その問いに対し、謎の少女は、ゆっくりと話し始めた。
謎の少女
『ボールの着地地点から半径20mの黒い霧に覆われた世界では、5分間の間、痛みは伴えど生命体が傷を負ったり、死んでしまうことは無いわ。』
『それより、どうだった?』
『今、どんな気持ち?』
神原 朱珠
『体が宙に浮いた瞬間、最後にもう一回、母ちゃんの声、聞いといたら良かったとか、母ちゃんの美味しい手料理を、もっと食べといたら良かったとか、私はアホやなって。ほんまに、生きとって良かったわ。』
そう涙で言葉を詰まらせながら話す朱珠。
謎の少女
『そう。それなら良かったわ。』
『これでもう、あなたは大丈夫そうね。』
そう話すと、謎の少女は倒れている朱珠の隣に仰向けに転がった。
謎の少女と朱珠の目の前に広がる空は、再び青さを取り戻していた。
謎の少女
『綺麗な空。』『見て、飛行機雲。』
空を指差す謎の少女。
謎の少女の指を指す方向を眺める朱珠。
そこには確かに、綺麗な飛行機雲があった。
神原 朱珠
『なぁ。協力って、私何したらええの?』
謎の少女
『その話しなら、今日はかまわないわ。』
『それよりも今日は早く帰って、逢いたかった、お母さんに逢ってあげて。』
『話しは明後日、あなたを虐めている連中から、あなたを救出した後で良いから。』
謎の少女は、空に指を指した状態で3度程瞬きをした後、立ち上がり『じゃあね。』『ばいばい。』と言いながら小さく手を振ると、校門の方へと歩いて行った。
神原 朱珠
『ほんまに出来た人やな。自分の要求が一番最後やなんて。』
『それにしても、どうして屋上におったんやろ?』
『私を気に掛けて着いて来てくれとったんかなぁ?』
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朱珠の通う学校は、不良が多く、教員達も生徒の悪行を見て見ぬふりをして過ごしている。
現に今だって大きな音を聞き、朱珠の元へ駆け付けてくれる教員や生徒は誰一人いないのである。
この物語は、この2人の少女を含めた【7人の少女】の半年間にフォーカスを当てた少し不思議な物語です。
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