部屋の片隅で

「あっ、こんな所に穴が空いてやがる……」


 ふと思い立った大掃除にて、観葉植物の鉢を退かすと、壁の隅に ぽつりと小さな穴。


 だらしなく伸びっぱなしの葉を茂らせたモンステラ。最後に剪定してやったのは いつだろうか。

 

「シロアリだけは勘弁だぜ、まったく……ん?」


 屈んで床に頭をつけ、片目を瞑って覗き込むと、何かを煮詰めているような 甘い匂いが仄かに香る。

 

 お隣さんだろうか、いやまさか。

 耳を澄ませば 何やら賑やかな音さえ聞こえる。

 

「もう運んじゃっても構わないかい?……あ」


 陽気な声が、近くではっきり聞こえた。

 さらに目を凝らして観察していると──目が合った。


 よたよたと危なっかしく歩きながら、小さな体に対し 随分大きなフルーツパイを持った男。


「……えへへ、一緒にどう?」


 照れくさそうに、はにかみながら 。

 男は自慢げにパイを高々と持ち上げる。


「……じゃあ、お言葉に、甘えて……」


  2023/12/07【部屋の片隅で】

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