閑話休題 childhood 2

「組手怖いだろ?」

森先輩の問いかけに頷く。


「前から気にはなってたんだよな。まあ、俺も最初は怖ったから気持ちはよくわかるよ。こればっかりは慣れるしかないんだけど・・・。怖いから上手く立ちまわれない、うまく立ち回れないからやられてさらに怖い。悪循環になるんだよね。」


確かに言われたらそうかもしれない。後輩相手の相手は何とかなっているが、同期以上の道場生相手だと、なす術なくやられているのが現状だ。


「よし!じゃあその辺も含めて色々やり方を変えていこう。元々動き自体は悪くないんだから、うまくやればそれなりに戦えるようになるよ。」


そこからしばらくの間、練習後に先輩から指導を受けることになった。



まず最初に指導されたのは、開始時の立ち位置。今までは律儀に開始線につま先を合わせていたのだが、そこから半歩下がるように言われた。さらに開始と同時にそこから少し後ろに下がるよう指示される。


「お前はリーチが長いんだから、無理に相手から離れたほうが良いんだよ。で、遠目の位置から左でけん制する。」



先輩に軽く相手をしてもらい、次の練習で早速組手で試してみる・・・。

かなり具合が良い。試合開始すぐに相手と距離がとれる上に、左でけん制することで、相手が入りにくくなる。


おかげで少し気持ちに余裕が出来た。今までならすぐに打ち合いになるので防戦一方になっていたのだが、これなら少し考えながら試合ができる。


次に教わったのが、飛び込んでの突き。

当たらなくても良いから、隙を見て飛び込みながら左の突きを打つ。

何度かやった後に今度は飛び込みながら左の突きと見せかけて、上段に構えた相手の左手を下に押さえ、右の突きを打つ。


組手で試してみたが、結構決まる。これが決まるとその後は上段→中段の突きのコンビネーションも決まるようになった。


ある程度うまく組手ができるようになり、組手に対する恐怖心も薄らいでいった。

大会が近くなる頃には近い間合いでもある程度対処できるようになり、組手の練習でも同じくらいの時期に入った同級生達には勝てるようになった。


その時期から森先輩の居残り指導も必要なくなり、たまにアドバイスをもらう程度になった。


大会を2週間まえに控えたある日の練習後、森先輩が私に話しかけてきた。


「だいぶ強くなったな。今度の大会、結構いい線まで行くかもな。去年優勝した日海だっけ?あいつと小塚に早い段階で当たらないと良いな。」



小塚君は私の通う道場の同級生。小さいころから通っていて、組手も強い。

前回私が負けた大会でも、準優勝だった。


森先輩は続ける。


「試合に向けて最後の仕上げだ。奥の手を教えてやるよ。」


そういって先輩はにやりと笑った。




つづく






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る