不幸な魔法使いの気まま旅行記
タニシ
死にました
早朝でひんやりとした駅のホーム。数多の会社員たちが薄暗いホームで小さな画面をのぞき込んでいる。かくいう俺もそのうちの一人だ。
社畜の朝は早い。帰ったのは朝の三時だというのに、朝の五時にはもう出勤だ。ここ半年はもうろくに家で寝れていない気がする。
このプロジェクトさえ終われば、それが数か月続きすでに体は限界に達している。
電車が来るまでの退屈しのぎに見るニュースも毎日さして変わらない内容ばかりで思わずため息が漏れる。
プルルルルルルと電車が来る旨の警笛が鳴る。ああ、ちゃんと立たないとな。相当眠いがここで寝て電車にひかれようものなら一大事だ。絶対に納期に間に合わないし上司にも馬鹿みたいに怒られるだろう。また半年似たような生活になると考えるとぞっとする。
電車の光が遠くから迫ってくる。ああ、ようやく寝れる。最寄り駅につくまでの十数分だけでもいい。寝れるだけでだいぶ違う。開いていたスマートフォンの電源を切り、ポケットに入れ立ち直した、その時だった。
「えっ……?」
体が斜めになっていく。周囲の風景がスローモーションに見える。徐々に光が迫ってくるのが見える。
キキキキキィィィィィィィ!と急ブレーキをかける音が聞こえる。迫ってくる電車の姿がやけにスローモーションに見える。ああ、これが俗に言う死の間際というやつか。
眠気で頭に靄がかかった頭が急激に覚醒していくのを感じる。そしてやがて訪れるドン!という衝撃、ジリリリリリリという緊急事態を知らせるベルの音とホームで電車を待つ客からの悲鳴を最後に聞いて俺の意識は完全に闇の中へと落ちた。
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