第28話
お手洗いの個室に駆け込む。
混んでいなくてよかった。とりあえず新鮮とは言えない空気で深呼吸する。勢いよく息を吸ったのでマスクが頬に張り付き不快だった。
このままどこか遠くへ逃げていきたいなぁ…
何もかも捨てて、私を知る人がいない場所へ…
行ってしまおうか、本当に。
しようと思えばできることだ。
人に迷惑をかけても月日が経てば忘れられていくだろう。
でも。と私の心がつぶやく。
まだ夢の途中だ。ここで逃げたくはない。自分の意思で、心から望んで行動した。その結果困難にぶつかっている。
スピリチュアルでよくある「嫌なことからは逃げてもいい」という類ではない。
これを乗り越えれば何かがある、という確信がある。何かを得るのか、それとも何かを手放すのか。
心が落ち着いてくると周囲の音が聞こえてきて、お手洗いに人が増えている気がした。早く出なければ、と身支度を整える。
個室を出て鏡の前で軽く化粧を直す。いつもより少しだけ口紅を濃く塗り気合をいれた。どうせマスクで見えないけれど。
この困難を軽々と乗り越えて、笑顔を自分を想像する。大丈夫、大丈夫。さっきまでの弱気の自分と今の自分に言い聞かせる。
どうせ私たちは幸せになるんだから。
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