第260話

 学者モンテサンドは、現在はパルタの都から不在の騎士ガルドや女騎士ソフィアに代わり、執政官マジャールの相談役として、ガルドがターレン王国の国境の少し先の森林地帯まで続く街道沿いの宿場街で集めてきた仲間の者たちと協力しながら、騎士ガルドと女騎士ソフィアの帰還を待っている。


 そこにブラウエル伯爵や伴侶の子爵ヨハンネス、フェルベーク伯爵領からの逃亡者たちのザルレーとヴァリアンの恋人たちが訪れている。


 かつての騎士ガルドに占拠される前のパルタの都であれば、ザルレーやヴァリアンのような貴族階級ではない旅人たちが滞在することは、中流貴族である小貴族たちの住民たちから敬遠されて許されない雰囲気があった。

 パルタの都の状況も、少しずつ変わりつつある。


 さらに、王都トルネリカからの刺客としてヴァンピールの術者である踊り子アルバータが、愛しのゴーディエ男爵の消息の情報を求めて、学者モンテサンドの元へ訪れている。


 神聖騎士団のメンバーは、王都トルネリカからパルタの都までの間の土地で、異変の兆候がないかを慎重に調べつつ旅をしていた。

 そのため単独行動の踊り子アルバータのほうが、神聖騎士団よりも思わず先に、パルタの都へ到着していた。


 凄腕の元賞金稼ぎでフェルベーク伯爵領から来たザルレーやヴァリアンの恋人たちを、てっきりブラウエル伯爵領の子爵ヨハンネスの護衛だと、ジャクリーヌから入れ知恵された美少年のヨハンネスの言うこと信じ込んだ学者モンテサンドから、踊り子アルバータは紹介されることになった。


 騎士ガルドには大軍を率いて戦うには、指揮官の将兵が足りていない。女騎士ソフィアぐらいなものである。


 戦場で計略を立てながら戦うには、知恵はあれど体力も腕力にももう若くはなく自信がない自分でも、反乱軍の兵士たち食事の世話をしたがり、度胸がある世話焼きの女店主のイザベラから、戦場もどこでも行くと言われたら、伴侶として最前線の戦場でも学者のモンテサンドはついて行くつもりである。

 

 だが、兵糧の管理などには向いている商人マルセロはこのパルタの都に残ってもらう必要がある。

 中年の商人マルセロには、二十二歳のグローリアという若い恋人と順調に交際中で、いくら優秀だからと商人マルセロを戦場に連れ出してしまえば、中流貴族の令嬢グローリアがついてきても、女店主イザベラの手伝いぐらいしかできないだろう。


 兵糧を最前線の戦場に輸送するために、途中で小拠点となる駐屯地は欠かせないが、輸送する将兵や駐屯地を死守する将兵が、騎士ガルドにはいない。

 駐屯地がなく補給ルートが敵に断たれたら、最前線の兵数が多いほど、被害は甚大なものになる。


 騎士ガルドが反乱軍のリーダーとして活躍するには申し分ないほどの豪腕も度胸もあり、勇猛果敢で士気は上がるだろう。

 しかし、英雄一人の武勇がどれだけ優れていようと、戦となれば話が別である。


 学者モンテサンドは、王都トルネリカの軍勢やフェルベーク伯爵領からパルタの都の食糧を狙って軍勢が攻めてくる可能性を想定している。

 それが同時だった時には、反乱軍は騎士ガルドと女騎士ソフィアで二手に分かれて戦うことが、指揮官となる将兵の人手不足から難しいと感じている。


 ザルレーやヴァリアンを仲間に迎えたいと、学者モンテサンドは考えていた。


「パルタの都の人たちは、どうも上品でねぇ。あんた、しばらくうちの店でその踊りを披露して、みんなを楽しませて、このイザベラおばさんに、がっつり稼がせてくれる気はない?」


 踊り子アルバータが、王宮で踊っていた扇情的な肌の隠れている部分のほうが少ない衣装で、優雅な踊りをイザベラの酒場で披露してみせた。

 情報が最も集まる場所はどこか考えて、アルバータは王都トルネリカの刺客であることを隠し、酒場で働くことにした。

 住民たちから、ヴァンピールであるアルバータは吸血すれば、食事や飲み水、睡眠時間も不要なのだが、それはアルバータの気が済まない。

 愛しいゴーディエ男爵の極上の愛情と血しか、アルバータは求めていない。


 子爵ヨハンネスは、商人マルセロから、数の計算やパルタの食糧管理のコツを学んでいた。ブラウエル伯爵領で役立つ知識だと感じたからである。

 しばらくザルレーやヴァリアンは、ブラウエル伯爵が、伴侶のヨハンネスを一緒に連れ帰るかがわからず、しばらく滞在して、ブラウエル伯爵だけの滞在が続いてしまう場合には、ヨハンネスだけを伯爵領まで一人で帰らせるつもりはこの二人にはない。

 女店主イザベラともザルレーやヴァリアンは、店の顔馴染みになりつつあった。


 パルタの住民たちの女性たちと遠征軍の残りの若者たちは、見栄えのよい若い紳士のブラウエル伯爵や美少年の子爵ヨハンネス、美形のザルレーとヴァリアン、さらに美女の踊り子アルバータが来たことで、なんとなく、そわそわとしたような落ちつかない雰囲気になっている。


 執政官マジャールは、踊り子アルバータのファンになって、酒が苦手で飲めないくせに、イザベラの酒場に通っていた。


 そこへ神聖騎士団の美人な戦乙女たち、さらにエリザたちがパルタの都へ向かっている。 


 

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