大陸西域編 14

第221話

 ブラウエル伯爵邸にエリザたちが訪問すると、ジャクリーヌが受付嬢をしていた。


「いらっしゃいませ……あら?」


 占い師の衣装のコスプレのエリザがシン・リーを抱き、貴公子リーフェンシュタールを連れて立っている。


 ブラウエル伯爵邸の一階にいろいろな住人が集まっている。


 ジャクリーヌがウインクして、口元に人差し指を立てた。


「ご用件は……では、商業許可証は、のちほどお渡し致します。邸宅の方でお待ちいただけますでしょうか?」


 わかりましたとエリザは言って幌馬車に戻ってきた。


「エリザ、ロイドかジャクリーヌはいたか?」

「ジャクリーヌさんの邸宅で待っていて欲しいみたいです。忙しいみたいで」

「ふーん、そうか。なら、行こうか」


 郊外にあるジャクリーヌ邸で、ジャクリーヌからのメモを受け取った双子のメイドたちは、エリザたちを客室に案内した。


 ヨハンネスがブラウエル伯爵にパルタの都へ会いに行って不在につき、ブラウエル伯爵領の政務をロイドとジャクリーヌが街の中のブラウエル伯爵邸で行っている。


 リュシーとチェリルの双子の姉妹メイドから、応接間で話を聞いている。


 バイコーンや赤毛の駿馬も郊外のジャクリーヌ邸の庭のほうが、ブラウエル伯爵邸より、かなり落ち着いていられるようだ。


 ジャクリーヌ邸に仕える四人のメイドのうち、先輩メイドのマーサとヘレナは、ブラウエル伯爵邸でロイドとジャクリーヌの補助をしている。


 休日にロイドとジャクリーヌが郊外の邸宅に戻ってくるという生活をしているらしい。


「さて、お二人とも、何か最近、お悩みはありますか?」


 双子のメイドのリュシーとチェリルを早速、応接間で占い木札で占ってみませんかとエリザは誘ってみた。シン・リーは応接間のソファーで昼寝を楽しんでいる。


 リーフェンシュタールの客室にアルテリスは訪ねていた。エリザたちと別行動である。


 リュシーとチェリルは、元ロイドの手下で最年少の青年のジャクリーヌ邸に仕える雑用係が気になっている。

 この青年ケニーは先輩メイドのマーサとヘレナに彼なりに一生懸命アプローチをかけている。

 けれど、マーサとヘレナは、ケニーがいくらがんばってもなびかない相手だとわかっていない様子なのである。

 双子のメイドたちはケニーを見ているとちょっとかわいそうに思えて、どうしたらケニーが他の女性と交際するようになるのかを占えないかをエリザに聞いた。


 ブラウエル伯爵領のレルンブラエの街は、王都トルネリカ育ちのジャクリーヌの趣向で、王都トルネリカに似た雰囲気を出そうと工夫されている街である。


 ブラウエル伯爵領の点在している村の住人たちは、レルンブラエの街に住むということに憧れを持っている。

 だから、村暮らしからレルンブラエの街へ来る村娘たちも少なくはない。

 ケニーはジャクリーヌ邸に仕えている。それだけでも、村娘たちには、交際相手にしたい範囲内のはずとリュシーとチェリルはエリザに話した。


 エリザはそうだったと聖戦シャングリ・ラのジャクリーヌ邸の四人のメイドさんたちは、大伯爵ロイドの愛人たちでもあることを思い出した。


 呪術師シャンリーの呪物である牡のリングの試作品に、ロイドは今も祟られ続けている。

 そのため股間のものに装着されているリングは、切り落としでもしない限り外れない。

 男性を精力増強で絶倫にする効果を発揮するリングが呪物なのは性欲を我慢し続けて欲求不満になると、試作品なので装着されたロイドは見境いなしで気絶するまでまぐわいに没頭して、その間の記憶を断片的にしか思い出せない。

 最悪な場合では気絶ではなく、そのまま命を落としかねない。


 ゲームのエピソードでは、ジャクリーヌはジャクリーヌ邸の四人のメイドたちへ、ロイドが欲求不満の発作を起こさないように相手をすることを、嫉きながらも容認しているという内容があった。


 だから、ジャクリーヌ邸の先輩メイドのマーサとヘレナに青年ケニーが一生懸命アプローチしていても、メイドの四人はロイドの愛人なのでなびかない。


 エリザはロイド関連のエピソードに、いかにも男の子の18禁ゲームの欲望領域全開の展開の露骨な内容なので、あまり好きではなかった。


 BADENDも人の生死に関わる悲劇的な展開になるのも嫌なのだった。


 だから、ロイドに対してのエリザの印象は最悪なのである。話しかけられるのも、鳥肌が立つほど嫌いなのだ。


 エリザもそれなりに性欲はあると思ってはいる。それに他人がどんな趣味をしてようが、自分に実害がなければ、どんなことを他人がムラムラして想像していても、もうお馬鹿さんだなぁ、と呆れながら考えないようにしている。


 リヒター伯爵領では恋愛が苦手な人たちの相談と、ベルツ伯爵領では恋愛相手が一人ではない優柔不断な恋人をどうしたらいいかという相談も、エリザは受けた。


 エリザ自身は、誰にも恋をしていないので、占っているけれどちゃんとアドバイスできているかには、あまり自信がなかった。

 リヒター伯爵領の村人たちの露骨な雰囲気の欲求不満に関する内容の相談に対しては、人妻さんの預言者ヘレーネにフォローしてもらえるように、エリザはしっかり頼んできた。


 ベルツ伯爵領では浮気して何人も愛人を作っても、みんな大切にすると言われて男性から頭を下げられたら、女性も他の男性の愛人がいても文句をつけない条件で嫉妬は苦しいが恋人が好きすぎて許す。自分以外の愛人と同じ人を愛しているという共通の認識で、愛人たちが親友になってしまう事例もあった。


 さらに、遠征軍に志願して出征した恋人と、そのあとからアプローチしてきて親切な人も好きになってしまい、出征した恋人の生死を占って欲しいという女性の相談者もいた。


 この人が私の最愛のパートナーと判断する時に、何を基準で選ぶのか?

 どうすれば愛情を伝え合うことができるのか?


 エリザも、こうしたら幸せになれると具体的なすぐに役立つアドバイスができるとは思えなかったが、青年ケリーの恋愛運について占ってみるのだった。


 ブラウエル伯爵領のレルンブラエの街の人たちは、具体的ですぐに役立つ情報や、他の人も納得してもらえる理由を、ちょっと心配になったり、不安になると求めがちになるという傾向があった。


 忙しいからなのか自分の心と向き合う時間を持つのが苦手で、どんどん情報を集めてしまい、気持ちより頭で物事を考えてしまいがちなのである。





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