第52話 

 冒険者がダンジョン探索をしながら、かつて滅びた魔獣が地上に出現する有事の時に、活躍できる英雄である聖騎士を目指して、冒険者ギルドの依頼を受けながら、戦いの日々を命がけで生き抜いていた。


 魔石、貨幣として流通しているコイン、蛇神の錫杖など、ダンジョンに出現するドロップアイテムは、蛇神ナーガの異界の力の影響によって、愛と豊穣の女神ラーナの加護する世界に流出してくる。


 エリザは蛇神ナーガの世界からダンジョンに出現したわけではなく、ガチャのキャラクター召喚のように、神聖教団からは聖地とされているエルフ族の王国に出現した「聖女様」のかわいい幼女。

 現在、彼女は19歳の才色兼備の乙女に成長して、エルフェン帝国ところで、宰相というお仕事をしている。


……ダンジョンに魔獣そっくりの危険なモンスターが出現しなくなって、この世界にまた小さな平和がひとつもたらされた。


 この緊急事態を調査中の神聖教団から連絡を受けて、冒険者ギルドに対して、エリザがダンジョンの立入禁止の指示を出した。


 エリザには、この世界にもたらされた小さな平和という緊急事態を引き起こしたのが誰なのか、一人だけ思い当たる人物がいた。

 ゼルキス王国のマキシミリアン公爵。神聖教団から賢者という称号を与えられている人物である。


 冒険者たちが、ダンジョン探索で冒険者ギルドに集めてくるドロップ品が世間に流出することは危険性があることや、冒険者の犠牲者がもう今後は出ないようにするために、賢者マキシミリアンが大陸各地のダンジョンを変えてしまった。


 冒険者ギルドからのダンジョン探索の依頼と報酬は、冒険者の生活の重要な収入源となっていた。

 ダンジョン探索以外の他の依頼も、冒険者ギルドにはある。


 エリザが冒険者ギルドに帝都の路上に、舗装の石板を剥がして、鈴蘭のようなかたちの夜はぽおっと淡く黄色い光をほのかに放つ花の種まきを冒険者ギルドに依頼を出した。

 この不思議な花は、エルフ族の暮らす大樹海に咲く花で、月の雫という花である。


 マキシミリアン公爵は、ダンジョンに何度も討伐しても復活する複製された魔獣を、再び出現するように戻すつもりはないと、帝都の王宮とマキシミリアンが暮らすニアキス丘陵のダンジョンにて行われたエリザと会談にて、はっきりと意思表明している。


 ダンジョン閉鎖からすでに4ヶ月が経過して、5ヶ月目となっている。


 そのあいだにエリザは、賢者マキシミリアンをふくめて多くの有識者たちの意見を参考に、収入源が失われた冒険者たちに、毎月、金貨30枚を支給する政策を実施するために準備を進めていた。


 エルフェン帝国とはちがうゼルキス王国の状況や慣習の情報や大陸の歴史などの情報をエリザは聞いて、また王宮から出て、旅行をした体験から、この世界で生きる人たちの生活をじっくりと考えさせられる期間でもあった。


 エリザは現在、自分が生きているこの世界が「聖戦シャングリ・ラ」というゲームの舞台となっている世界であることに気づいている。このオンラインゲームは18禁のいわゆるエロゲーだった。


 帝国宰相エリザは、このゲームの悪役である呪術師シャンリーから体をハッキングして奪う標的として狙われる設定になっていた。


 転生前の自分の名前などの記憶の一部を喪失している。ある日、突然、19歳の帝国宰相エリザというヒロインになっていた。

 本来の帝国宰相エリザが持つエルフの王国に現れた時から、帝都の学院に通っていた学院生だったころの思い出と、あと「聖戦シャングリ・ラ」のストーリーの内容を、彼女は記憶していた。


 いわゆる善行をしたが不慮の事故などで死亡した、定番の転生なのかすら、彼女は思い出すことはできない。彼女は20歳で失業中で、友達がいない都会で一人暮らしをしていた記憶はある。


 わかっているのは、本来なら帝国宰相エリザの身に起こるはずのゲームの不運なイベントが回避されていて、ゲームでは起きていない平和な不測の事態があれこれとすでに起き始めてしまっていることだった。


 ひどい目にあわされるエロゲー的な展開が起こらなかったのはありがたい。

 頭ではわかっていても、実際に自分からあんなことやこんなことを体験したいとは、ちょっと思えない。


 エリザは、賢者マキシミリアンのサポートをしているモンスター娘のミミックの協力で「ステータスオープン」というゲームならデフォルトの機能だが、自分の能力値や装備の状態を確認することができるようになった。


 エリザには過保護なほど優しい親切な保護者エルフ族の女王エルネスティーヌがついている。

 ワイルドで危険な冒険者の生活とはかけ離れていて、安全で快適な生活の王宮暮らしである。

 せっかく転生したからには、ゲームの登場人物っぽいことをしたい気分はあった。


 この「ステータスオープン」の機能は、彼女のはまっていたゲームの世界にいることを実感させてくれるものだった。


 この「ステータスオープン」で確認できる【所持金】の情報を使って、生活費の支給と貨幣を使わないで取引できる状況を普及させたいと、エリザは考えるようになった。


 そのためには、彼女は会いに行かなければならない人がいる。

 転生者は女神様に出会って、特別なスキルを与えられるのもお約束の展開。

 彼女は「聖戦シャングリ・ラ」の世界の女神様――エルフの王国にいる女神の化身である僧侶リーナに会いに行くことにした。

 僧侶リーナはゲームのシナリオのなりゆきで、世界樹の精霊族のドライアドというモンスター娘になって、現在はエルフ族の王国で大好きなパートナーと仲睦まじく暮らしているらしい。


 エリザには、自分よりも女神ラーナの化身である僧侶リーナのほうが、本当の聖女様だと思える。


・「ステータスオープン」のデフォルトの機能を、エリザ以外の人たちも使えるようにすること


・個人の【所持金】の数値を貨幣のように使えるようにすること


・その二つの変化を、世界樹の加護と女神の加護で一気に普及してもらう。


 賢者マキシミリアンによれば、現在は貨幣として流通しているコインには、世間には知られていない歴史があるという。

 ダンジョンが豪族の墳墓に使われていたので、埋葬品と思われ大量に盗掘されて、やがて通貨として流通するようになったという歴史がある。

 貨幣は一番身近で使われているドロップアイテムといえる。



 


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