第2話 リア充グループの端っこ2

 私は、クラスの名簿を見て心の中で叫んだ。


 「うそでしょーーーーー。」


 もう一度名簿を確認する。

 もしかしたら、自分の見間違いだったかもしれないからだ。


 「うそでしょーーーーー。」


 叫ばずにはいられなかった。

 皆実魁輝、岸本悠臥、吉岡拓海。

 私たちの学年の三大イケメン。

 その三人と同じクラスになって叫ばないわけがなかった。

 

 ただ、理由は他の女子とは違う。

 自分は、嬉しさで叫んだのではない。

 実現してほしくなかったことが実現したから叫んだのだ。


 私は、三大イケメンの三人に全員に好意を持たれている。

 これは、勘違いではない。

 私は、実際に三人からアプローチを受けている。

 だから、この三人全員と同じクラスにはなりたくなかった。

 これで、三人全員が私にアプローチしてきたら、学年中の女子から目を付けられるだけでなく、グループ内の雰囲気も悪くなってしまうかもしれない。


「七菜ー、おはよ~。」


 眠たそうな目をした女の子が、小さく手を振りながら近づいてくる。


「おはよう、凛ちゃん。また夜更かししてゲームしてたの?」

「まあねー。それより、ウチは三組で階も違うから、今年は離れ離れってかんじだね~。てか、七菜のクラス三大イケメンとカラット勢ぞろいだったねー。」

「うん。」

「今、絶対大変そーとか思ってたっしょー。」

「やっぱりわかる?」

「そりゃ~、もう。去年のことを思い返せばね~。まあ、何かあったら相談くらいは乗ってあげるよー。七菜は親友だからねー!」

「ありがとう、凛ちゃん。」


 ぎゅーっと抱きついて、話が一段落したところで、教室に向かう。


「あー、七菜はいいな~。階段一階分少なくてー。」

「そんなとこまで面倒くさがるの?」

「はっ!よく考えたら、これからの七菜よりは面倒くさくないかもー。」

「うっ、考えないようにしてたのに。」


 同時に笑い声が階段に響く。

 凛と話していると、楽しくて、気持ちが楽になる。


「それじゃあね。」

「うん、またね~。」


 凛と別れて、二年五組の教室に入る。

 自分の席に荷物を置くと、近くの席の岸本くんが傍に来る。


「おはよう、仙波。今年は同じクラスだな!」

「うん、そうだね。」

「その、一緒のクラスになれて嬉しいよ。よろしくな。」

「うん。席も近いし、こちらこそよろしくね。」

「おう!魁輝たちが集まってるから、俺たちも行こうぜ。」


 しっかりした運動部の熱血男子って感じの見た目なのに、笑顔は子供っぽくてかわいい。

 彼のファンは、大体このギャップにやられていると思う。


「仙波さんおはよう。」

「吉岡くん、おはよう。」

「その、……よろしく。」

「うん。こちらこそよろしく。」


 クールな一匹狼系の見た目ながら、女子に対して恥ずかしがりですぐ照れるところがかわいい。

 岸本くんと同様に、彼のファンもこのギャップにやられていると思う。


 それから、カラットと岬くんも混ざり、大勢でこれからの学校生活についての話題で盛り上がった。

 チャイムが鳴って先生が入ってきたのを見てそれぞれが席に戻っていく中、手を摑まれ振り返る。


「七菜、今年も仲良くしてね。」


 爽やかな笑顔で言って、すぐ手を離される。


「うん。」


 一言だけ返して、急いで席に戻る。

 あの、純粋な爽やか笑顔は何度向けられても慣れない。破壊力が強すぎる。


 先生の話を半分に、今のカオスとも呼べる状況を整理する。

 春休みに、二年になったら三人のうちの誰かと付き合ってみてもいいかもしれないと思っていた。

 正直、私が告白すれば三人とも付き合えるとは思うし、別に今付き合った人と結婚しないといけないってわけじゃない。

 ただ、三人ともと同じクラスになったことで、誰かと付き合えば他の二人との関係が悪くなるし、あまつさえ別れてしまえば、付き合った人とも関係が悪くなる。

 さらに、もし他の二人がまだ私のことが好きだった場合、またアプローチを受けて、私は完全にサークルクラッシャーみたいになってしまう。

 だから、超イケメンで、そのうえ性格までいい三人と付き合うのは止めた方がいい。


 とそこまで考えて、あることに気づいた。

 そういえば、同じグループにいるカラットの四人は、魁輝の親友である岬くんを好いているように見えた。

 というか、たぶん全員岬くんのことが好きだ。

 これ、岬くんがカラットの誰かと付き合えば、彼がサークルクラッシャーみたくなってしまうのでは。

 今のグループがカオスすぎて頭が痛い。

 だから、先生が話し終わったところで考えるのを止めた。


 今のグループは長く持たないかもしれない。

 あと、私は今年一年は恋できないかもしれない。



♢♦♢♦♢



 新学期初日の夜。

 家で明日の授業の予習をしていたら思わぬ人物からメッセージがきた。


『二人で話したいことがあるので、明日の朝早く学校に来てもらえませんか?』


 魁輝を通して知り合った仙波さんとは、友達まではいかない知り合いという関係だ。

 連絡も、魁輝関係のこと以外でやりとりしたことはなかったんだが、どうしたんだろうか。


『それは構わないんだけど、急にこんな連絡してくるなんて、何かあったの?』

『それも含めて明日話します。』


 返信早っ。


『わかった。』


 二人きりで話したいって、もしかして告白――はないか。

 かつての勘違った経験から、真っ先にこの可能性を切り捨てる。

 考えてもわからないし、どうせ明日の朝にはわかることだ。

 ただ、寝坊して待たせるのは嫌だから、忘れないうちにいつもより早い時間にスマホのアラームをセットしておこう。



♢♦♢♦♢



 教室に着くと、まだ誰もいなかった。

 教室に一番早く登校したことがなかったから、妙な気分になる。

 黒板に落書きしてみたり、計算するのに使ったルーズリーフで紙飛行機を作ってゴミ箱めがけて飛ばしたり。

 普段は絶対しない、というかできないことをやっていたら、いつの間にか教室に来ていた仙波さんと目が合う。


「………おはよう。」

「おはよう…。」

「「…………。」」


 急に恥ずかしさが込み上げてきて思わず目を逸らす。

 そして、今のをなかったことにするために、話題を変える。


「えっと、話したい事ってなに?」

「私たち二人って、新しくできたグループで浮いてると思わない?」

「もしかして、俺たちが三大イケメンでもカラットでもないからってこと?」

「そう。だから、何をどうっていうのはまだわからないけど、できれば協力しあっていけたらなって思うの。」


 俺にとってデメリットは何一つない上に、非常に魅力的な提案だ。

 それに、仮に俺がカラットに対して勘違いしそうになったとしても、女子視点での冷静な意見を聞くことができるようになる。

 つまり、俺が勘違いしてしまう可能性をぐっと下げられるということだ。


「そういうことなら、ぜひ協力していこう。」

「ありがとう。これからよろしく。」

「おう。」


 かくして、俺と仙波さんの間に謎の協力関係ができた。

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勘違い野郎には恋しない 空音 隼 @hoshiduki-75

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