褒美
「その身を犠牲にする覚悟で我を大きな危機から救った勇敢な少年、ソアよ。褒美に金貨200枚を与える。」
豪華絢爛な謁見の間で、目の前にいるおっさ・・・ランタナム商国の王は俺に向かってそう言い渡した。この人、どうして豪華な玉座に座っていてもオーラがまるでないんだろうか?逆に怖く感じる。
金貨200枚とはなかなかの額だ。一般庶民が1年で稼ぐのが金貨10枚分くらいであるから年収20年分か。あれ?実家を頼らなくても長い間引きこもってられるのでは?
いやー、それにしても危ないところだった。もし救ったのが商国の王ではなく、他の国の王であったならば、不相応な土地や地位を与えられ、貴族同士の争いに巻き込まれていたかもしれない。
褒美をお金で済ませてくれるなんて流石商国の王、よくわかっているぜおっさん。
そう思いながら返事をしようとしたとき、商国の王はこちらを見てニヤリと笑った。
うう、なんか嫌な予感が。
「勿論、わが命を救った褒美が金貨200枚程度で済むわけがない。シオンツイ伯爵から聞いたぞ。帝国の者達を捕まえて伯爵に引き渡したとか。そこから得られた情報は今回の事件の迅速な解決に貢献した。それも褒美には加味せねばならんな。」
ベラ様、余計なことを。
つまり金貨以外にも褒美があるってことか。はあああ、わかってねえなおっさん。幻滅したよ。
「お前の家は商会だそうだな。もしお前が代表者として商売をするときは第一種特別事業者にしてやろう。」
ん?よくわからないけど商売をやる気なんてないしあまり関係なさそうだ。もしここで断って代わりにめんどくさいものを渡されても困るし、とりあえずありがたくいただいておくか。
「は、ありがたき幸せ。」
王との謁見を終え、事の顛末を父に話すと、父は深刻な顔をし始めた。なにかまずかったのだろうか。
「第一種特別事業者か。つまりはそういうことだよな?だが、ソアはまだ若いしスキルも商売に向いていないというのに。」
ん?父はぶつぶつとつぶやいているが、どういうことなのかさっぱりわからない。
「お父様、第一種特別事業者とは何ですか?」
「簡単に言えば税金の面で大きく優遇される事業者のことだ。自国以外の特定の国の事業者ばかりが大きくなっても商国としては困るからな、ある程度優遇する事業者を作ることでバランスをとっているのだ。」
へえ、でも商売をしない俺には関係のない話では?そう考えているのを察したのか父はわかりやすく説明してくれた。
「今回、王との約束をソアが得た結果、我が商会のこの国の支店をソアが代表の傘下の商会へと名義変更するだけで、払う税金に大きな違いが出るということだ。」
なるほど、つまり分社化して俺を子会社の社長にすれば、払う税金が少なくなるみたいなことか。
父の判断次第では俺は自分の商会が手に入るのか?いや、そんなもの欲しくない!
「お父様、僕はまだ9歳児です。それに将来のこともまだ決めたくありませんので。」
「そうだな。だが、ランタナム王の意図は恐らくソアに代表をやってもらいたいということだろう。それに支店長のシュガーは信頼できる男だ。名義のみをソアに変えてシュガーに運営を任せれば、問題なくやっていけると思っている。」
シュガーか。俺と父が商国に着いたときに港に迎えに来てくれた眼鏡をかけた神経質そうな男だ。俺に人を見る目など皆無だが、父が信頼できると言っているし、おそらく大丈夫なのだろう。
・・・名ばかりの代表って不労所得が入ってくると考えれば悪くないのかな?これは実は夢の不労所得が手に入るチャンスなのか!?うーん、本当にそんな甘い話なのだろうか?
俺があれやこれやと考えているうちに父は言葉を続けた。
「ランタナム王はああ見えて傑物の類だ。何しろ様々な立場の人がいる商国の政府を見かけ上はきれいにまとめているのだからな。命の恩人であるソアを騙してわざわざ悪評を立てる可能性は低いし、その意図に乗っかってみてもいいかもしれないな。」
どうやら父の中では判断が決まったようだ。
それにしてもあのおっさんが傑物?やっぱり俺に人を見る目などないみたいだ。
どこか引っかかるような気持ちはあるが、わざわざ反対して不労所得を得られなくなるのも勿体ないし、父の言う通りにしてみるか。
こうして、俺は何故か優秀な兄たちよりも早く自分の商会を持つことになった。
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