第225話 放課後大集合
メガネ君が俺に声をかけてきたのは、それから三日後のことだった。
みんなそれぞれ用事があるだろうに、随分と早い集合だ。
それだけ俺と話をすることを重視してくれたのかとか考えると、ちょっと気後れしてしまう。そんなマジで集合してくれなくてもいいんだけど、それは俺側の気持ちであって、向こうはそうもいかないんだろうなぁ。
一応教育されてある程度理解していたけど、その辺のことも改めてイレインに注意されて反省してきたところだ。
まぁ、雑に扱うつもりはない。
かといって何でもかんでも秘密を共有するつもりもないけど。
程々の距離感ってのが大事だ。
これに関してはイレインに『分かってるよな?』って話の途中で三回くらい確認されたけど、一応理解しているつもりだ。
放課後になると俺はいつも、教室に残って皆が出て行くまでダラダラしている。
今回うちの関係貴族子息たちを集めることは、もうみんなに知られてしまっていることだ。
だから移動するのも面倒くさいし、ということで、今日はもう開き直って教室で話をすることにした。俺の周りに続々と人が集まってくることで、あまり関係のない人たちも遠慮をしたのか、いつもより早く姿を消していく。
俺もすました顔をするのは慣れたもんで、関係者以外全員がいなくなるのを待ちながら、涼しい顔をして元いた席に座っていた。
一応イレインと相談してきたものの、結局何を話そうかと今でも悩んでいるので、内心はそこまで余裕ないけど。
ヒューズは態度悪くテーブルで頬杖を突きながら、セラーズ家派閥の少年少女の値踏みをしている。
「へぇ、結構いるんだな」
「はい」
短く答えるが、ちらりと見ていると前に来た時よりも人数が増えている気がする。
特に女子。
これ本当に信用していいのか?
夏季休暇を挟んで親が何かを子供に伝えたのか、それとも俺の話を聞くために紛れ込んでいるのがいるのか、あるいは前にいた連中で全てじゃなかったのか。まぁ、全部って可能性もあるか。
無難なことしか言えないな。
ヒューズは結構ビビりなんだけど、流石に同級生がいくら集まっていても怖いという感情はないようだ。実際戦えばヒューズの方が強いこと多いだろうしな。
周りから見ればヒューズはうちの派閥のナンバーツーみたいに見えるんだろうか。
一応立場としては同じ四大伯爵家の後継者なんだけど、俺とヒューズでちょっと立場が違う。俺がほぼ確実に後継者であるのに対して、ヒューズはオートン女伯爵の実子ではないため立場が微妙な部分があるらしい。
それを考えると俺なんかに付き合ってる場合じゃないような気もするんだけど、誰もそんなアドバイスはしない。きっと言っても聞かないだろうしな。
殿下親衛隊の面々は、あのローズも含めて、俺たちがセラーズ領に引っ込んでから一度も会いに来れなかったことを今でも悔やんでいるらしい。それもあって、せめてヒューズだけは傍に置いとけと言う、無言の圧力のようなものを感じる。
俺が真面目に言えば流石にヒューズの説得に乗り出してくれるのだろうが、それはきっと俺が寂しいと感じる以上に、みんなの気持ちを傷付けそうだからな。
将来的に俺と付き合っていて損がなかった、って形にすればいいだけの話だ。
……なんか背負うもの多いな。
ま、ヒューズは弟分だし仕方ないか。
教室の端でイレインが誰かに話しかけられているのが見える。
イレインはしばらく黙って聞いていたようだが、やがてまだ話している途中の女性をふいっと無視してこちらへ歩いてきた。
いつも通り冷たい無表情のように見えるが、やや機嫌が悪そうだ。
場合によってはこっちに参加して、以降は俺たちと行動するつもりだって言ってたけど、その方向で舵を切ったみたいだな。
折角それなりに喋れる相手もできてたっぽいのに悪いことをしたかもしれない。
それについて謝ったら、そんなことはどうでもいいって言われたけど。
年頃の女の子と喋るのはイレインにとってはちゃんと苦痛らしい。
まぁ、将来美人になりそうな子いっぱいいるけど、今は子供だもんなぁ。
女の子ってかなりやかましく喋るし、寡黙キャラのイレインは聞くばっかりでしんどいのかもしれない。
そもそもあいつ中身は男だしな。
イレインはつかつかとやってきて、俺の前の席に「失礼します」と言って平然と腰掛ける。こっちの事情はまたあとで聞いておこう。
遠くでベルがなんだか羨ましそうに一度視線を送ってきたが、今回は駄目だからな。そんな顔したっておいでおいでとはしてやれない。
いい子だからローズと一緒に教室から出て行きなさい。
教室の全員の注目が俺に集まっているのを確認。
多分これで全員なんだろうなと思って振り返ると、三十人近くの人が集まっていた。他の派閥の規模を考えるとかなりでかい方だと思う。
父上、俺の知らないところでいろんな人助けてんだろうなぁ。
「みんな楽にしてください。どうも僕の行動が皆さんを不安にさせていたようなので、説明のために集まっていただいた次第です。お忙しいのにわざわざすみません」
俺がしゃべり出しても皆真面目な表情をしてあまり反応がない。
これだけ人数いると、自分以外が返事するだろ、って感じでみんなだんまりしちゃうんだよなぁ。あんまり堅苦しい感じでやっていきたくないし、ここは一人ずつ緊張を解いていくか。
「特にヘンリー殿なんかは、ご友人が多いようですし、お忙しかったのではありませんか?」
「い、いえ! そんなことはないです!」
いつもいろんな人とつるんでる奴らを指定して名前を呼んでみる。
よしよし、ちゃんと返事が返ってきたな。
折角皆の名前ちゃんと覚えたし、この調子で直接名前を呼んでいって、俺はちゃんとお前らのこと見てたよーっていうのアピールしていくか。
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