第352話 『果てしなきスカーレット』映画感想

 今日は、思い立ったというよりタイミングが合ったので、フラッと『果てしなきスカーレット』を見てきました。昨日行こうかなと思いつつ、いろいろ用事もあったので断念。


 今日は時間もよかったのと、実は少々体調が悪くなり、休憩できるかもと判断して映画に行くことにしました。


 見終わった感想。最後まで結局寝ずに見れました。結構映像美に吸い寄せられて、いい感じでリラックス? できて十分に復活できました。


 事前予告を見て、主人公もいいけれど、一番見たかったものの一つが背景の良さだったので、その点に関しては大満足です。あとでインタビューなどをちょろっと見たら「行ってみたい地獄」と表現されていて、笑ってしまいました。まさにそんな感じで、ひたすら環境背景が素晴らしい。


 実はたまにゲームをやるのですが、選ぶ基準が「背景の美しさ」だったりするので、おそらく実際の世界遺産とかに行く以上に、美しくも恐ろしい世界観に没入できます。


 そういう意味では世界のデザインが抜群にうまいのでしょうね。自然現象を組み合わせて、地獄という異界を描いていますが、ちょっと十二国記なんかもイメージさせる感じです。多分十二国記をアニメ化(第二弾)するならやってみてほしい。きっとあの世界観を抜群の映像で描いてくれそうです。


 他にもいくつかあるのですが、見終わったときになんとなくですが私はこれ、宮﨑監督の『君たちはどう生きるのか』に対するアンサー映画なのかなぁ? とふと思いました。まぁ実際どうかはもちろんわかりません。でもところどころ表現やセリフの端々で何となくと言いますか。


 もう少し具体的に言うと、リンクすると思う表現がちらほらあるんですよね。特に一番おやと思ったのは繰り返し描かれる鳥の表現でしょうか。『君たちはどう生きるのか』もいろんな鳥が、もっと個性豊かに登場します。そこよりはぐっと背景よりですが、多分何らかの象徴なんだろうなと。


 あとは説明まったくなく世界の機能として? 登場する巨大なドラゴンも迫力満点だったので、こういうのはもっと見たいなぁと思いました。


 そうそう、地獄めぐりでイメージしたのは実はマンガの『ドリフターズ』。あれも調べたら舞台背景が1600年代と、スカーレットと同時代に異世界に飛ばされた、地球の歴史的人物が混在する結構カオスなマンガです。なんとなくあれをイメージしてみてしまったら、まぁまぁカオスっぷりは受け入れて、というかあまり深く突っ込まずに見続けていました。


 最終的に『ハムレット』要素はそれほどないんじゃなかろうかとも感じましたね。きっかけが復讐とは言え、ハムレットは結構いろいろ関係性がねじれまくりなので、本来のハムレットを踏襲するならオフィーリアとレアティース含めてほかのキャラクターももうちょっと違うだろうとか突っ込めます。


 でも名前借りただけかなぁという描写だったので、そこまでハムレットよりかといえばそうでもないかな。それを言い出すとハムレットから宗教とか文化背景など全部取っ払ってしまっているので、スカーレットが復讐に取りつかれる描写そのものが弱くなってしまうかもなと……。


 個人的に今回の抜群の演技で面白かったのは敵役のクローディアス。スカーレットの叔父ですが、役所広司さんの演技が素晴らしく、狂気も感じさせて良かったです。逆に言えば、ハムレットといえば狂気なので、スカーレットは正直もっとひどい目にあってもよかったのかもしれません。

 

 多分復讐にしては苦悩するシーンが多く、狂気をはらむところまでは落ちない主人公に、変なコンプライアンス的なものを感じてしまうのかも。本来のハムレットであれば父を殺されるだけでなく、すぐに再婚する母にも絶望するのに、母親である王妃がちょっと空気でしたね。


 でも声を斉藤由貴さんが演じていらっしゃるので、なんというか生々しさはある。でもあまり登場しないので、そこ当たり深掘りしてほしかったかもしれません。


 いろいろ深掘りというかもうちょっと詳しく見たいな部分は他にもあるのです。でもそれを言うと話が進まないんだろうなぁというのも見えてきます。


 最後にインタビューで「初めての異国の王女が主人公」というむずかしさを監督が語っていて、なるほどなぁと。ちぐはぐさがそこでようやくわかったというか。スカーレットがどうしても日本人の価値観に近いんですよね。復讐というより、日本の仇討ちに近いというか。


 ……ああ、たぶんこれかもですね。違和感の正体。復讐って西洋的には禁忌で、神の領域なんだそうです。なので復讐を遂げても悲劇にしかならない。


 でも日本的な復讐=仇討ちだと、復讐して名誉を回復して日常に戻るという必要な仕組みとして機能する。


 西洋というかキリスト教的には復讐は罪、神の領域を犯してしまうことで個人と信仰という二律背反の苦しみになって苦悩する。そして結局は身を亡ぼすという結末で悲劇なわけで。


 たぶん、そこ当たりの違いをせっかく日本人を登場させたのなら、対話や言い争いで描いてもよかったのかもなぁ……。などという感じで、自分なりの違和感が見えてきたあたりで、感想は終わろうと思います。


 もう少しきちっとシェイクスピア研究の方が語ってくれると面白そうですね。


 

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